第9話「積もる雪と、重なる想い」
冬休みが始まった。
街はすでにクリスマスの色に染まり始めている。
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東京。
朝から、雪。
静かに、そして絶え間なく降り続けていた。
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「……また降ってる」
真希が窓の外を見ながら呟く。
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白く染まる街。
綺麗ではある。
だが――
その分、仕事は厳しくなる。
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年末。
繁忙期。
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「今日も遅くなるな」
悠真がコートを羽織りながら言う。
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真希も頷く。
「うん……ごめんね」
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その“ごめんね”の意味は、お互い分かっていた。
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子どもたち。
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結翔、未来、莉嘉は――
再び、真希の実家へ預けることになった。
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「いってらっしゃい」
母親の優しい声。
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「またすぐ迎えに来るからね」
真希が言う。
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「うん!」
三人は元気に手を振る。
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その姿に、少しだけ胸が締め付けられる。
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(本当は、一緒にいたい)
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でも――
今は、仕事がある。
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会社。
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積み上がる業務。
増え続けるタスク。
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時間はあっという間に過ぎていく。
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気づけば、夜。
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「……終わらないな」
悠真が小さく呟く。
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真希も同じだった。
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帰れない日。
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会社に残り、そのまま仮眠室へ。
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コートをかけ、簡易ベッドに横になる。
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「少しだけ……」
目を閉じる。
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数分後なのか、数十分後なのか。
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ふと、気配を感じる。
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ドアが静かに開く音。
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足音。
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そして――
頬に、やわらかい感触。
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「……ん」
悠真がゆっくり目を開ける。
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そこにいたのは――
真希。
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「起きて」
小さな声。
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頬に軽くキスをして、また唇の濃厚なキスで起こす。
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「……ありがとう」
まだ少し眠そうに言う。
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真希は小さく笑う。
「まだ仕事あるでしょ」
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「ある」
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短いやり取り。
でも、その一瞬で頭がはっきりする。
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それが、何度も繰り返された。
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別の日。
また別の日。
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仮眠室。
キス。
「起きて」
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それが、二人の“合図”のようになっていく。
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忙しさの中で、
崩れそうになるリズムを、なんとか繋ぎ止めるための。
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“言葉じゃない支え”。
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日付が進む。
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雪は降り続ける。
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そして――
ようやく。
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「これで……終わり」
悠真が最後の資料を閉じる。
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真希も同じタイミングで、深く息を吐く。
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「終わったね」
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「終わったな」
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その一言に、すべてが詰まっていた。
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外に出る。
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夜。
雪。
街のイルミネーション。
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ようやく、“仕事”から解放される。
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「……クリスマス、だな」
悠真が言う。
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真希は少しだけ笑う。
「やっとね」
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その足で、買い物へ。
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予約していたケーキを受け取る。
箱を大事に持つ。
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「これ、絶対喜ぶよね」
真希が言う。
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「間違いない」
悠真も頷く。
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その後、プレゼント。
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結翔には、ずっと欲しがっていたもの。
未来には、可愛いもの。
莉嘉には、少し背伸びしたもの。
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それぞれの“好き”を思い浮かべながら選ぶ。
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「これでいいかな」
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「うん、いいと思う」
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そのやり取りが、自然で、あたたかい。
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すべてを準備し終えた頃。
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夜の街は、完全にクリスマスの空気に包まれていた。
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家に帰る前、
二人は少しだけ立ち止まる。
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「今年も、なんとかやりきったね」
真希が言う。
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悠真は頷く。
「ギリギリだったけどな」
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「でも、乗り越えた」
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「うん」
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短い会話。
でも、その重みは大きい。
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忙しさの中でも、
離れなかった。
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支え合って、
ここまで来た。
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「明日、迎えに行こうか」
悠真が言う。
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「うん、行こう」
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子どもたちの顔が浮かぶ。
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その瞬間、
“仕事モード”から完全に切り替わる。
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「楽しみだな」
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「うん」
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雪はまだ降っている。
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でも、その中で――
確かに、あたたかい時間が待っていた。
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