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『40歳OLと高校生、世間では“母子”、本当は恋人――バレたら即終了の年の差ラブコメ、始まります。』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
シーズン8.5《社会人8年目と2人の出世…家族5人編のその後と特別編 ~ 》
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第7話「その一歩を、間違えないために」


朝。


いつもと変わらない出勤、いつもと変わらない空気。


――ただ一つ違うのは、“今日が避難訓練の日”だということ。



午前10時。


社内のスピーカーから、ゆっくりとチャイム音が鳴る。


“ピンポンパンポン――”


一瞬、社内の空気が止まる。



そして、アナウンスが流れ始めた。



「――訓練、訓練。ただいま、館内において地震が発生した想定で、避難訓練を実施します。」


「全社員の皆様は、落ち着いて行動し、最寄りの非常口より速やかに避難してください。」


「避難の際は、“お・は・し”を守ってください。」


「――押さない。」


「――走らない。」


「――喋らない。」


「周囲の安全を確認しながら、指示に従い、階段を使用して屋外の避難場所まで移動してください。」


「エレベーターは使用しないでください。」


「繰り返します。これは訓練です。落ち着いて行動してください。」



アナウンスが終わる。



一瞬の静寂。



そして――


一斉に動き出す社員たち。



椅子から立ち上がる音。


資料を置く音。


足音。



だが、誰も走らない。


誰も押さない。


誰も無駄に喋らない。



“おはし”が、きちんと守られていた。



悠真もその流れに乗る。


心の中で、自然と確認する。


(押さない、走らない、喋らない)



階段へ向かう。


すでに人の列ができている。



ゆっくりと、一定のペースで降りていく。



数階分降りたところで――


ふと、横に気配を感じる。



視線を向ける。



真希だった。



一瞬だけ、目が合う。



言葉はない。


だが、その目はしっかりと伝えている。


(大丈夫)



悠真も、ほんのわずかに頷く。



そのまま、並んで階段を降りる。


一定の距離。


他人としての距離。



だが次の瞬間。



手が、触れる。



ほんの一瞬の接触。



そして――


そのまま、指が絡む。



恋人繋ぎ。



(※本来は訓練中にやることではない。完全にルール違反。)



だが、それでも。



誰にも気づかれないように。


ほんのわずかな角度。


ほんの短い時間。



ぎゅっと、軽く握る。



(ちゃんといる)


(ここにいる)



それを確かめるような、触れ方だった。



すぐに離れる。



何もなかったように。



再び“他人の距離”に戻る。



階段は続く。


一段、一段。



外へ。



ビルの外に出ると、すでに多くの社員が集まっていた。


部署ごとに整列。



「営業部、こちらへ」


誘導の声。



真希はそのまま営業部の列へ。


悠真は企画部の列へ。



それぞれの場所。


それぞれの立場。



「点呼を取ります」


名前が呼ばれていく。



「春日井」


「はい」



「高槻」


「はい」



全員の無事を確認。



「以上で、避難訓練を終了します」



拍手はない。


歓声もない。



だが、どこか“やりきった空気”が流れていた。



再び社内へ戻る。


日常が再開する。



デスクに戻りながら、悠真は思う。


(もし本番だったら)



さっきの行動は、どうだったのか。



正解ではない。


だが――


間違いとも言い切れない。



“守りたい”と思う気持ち。


それ自体は、本物だった。



夕方。


仕事を終え、帰宅。



「ただいま」


「おかえりー!」



三人が一斉に出迎える。



「今日ね、学校で避難訓練あったよ!」


未来が言う。



「ほんと?」


真希が少し驚く。



「うん!おはしってやつ!」


莉嘉も続く。



悠真と真希は顔を見合わせる。



「じゃあ、もう一回復習しよっか」


真希が優しく言う。



リビングに座る。


スマホで動画を見せる。



地震の時の行動。


避難の流れ。



「これね、大事なことだからちゃんと覚えてね」



「押さない、走らない、喋らない」


結翔が復唱する。



「そう、それ」


悠真が頷く。



「あとね、ちゃんと周りを見ること」


真希が付け加える。



「パパとママも今日やったよ」


悠真が言う。



「え、ほんと?」


三人が興味津々になる。



「ちゃんとできた?」


未来が聞く。



悠真は少しだけ笑う。


「まあな」



真希も小さく笑う。


「ちゃんとできたよ」


(※一部例外あり)



だが、それは言わない。



大事なのは、“守ること”。



そして、“無事でいること”。



子どもたちは何度も「おはし」を口にする。



その様子を見ながら、


真希は静かに思う。



(こういうの、大事だな)



悠真も同じことを考えていた。



日常の中の、ほんの少しの備え。



それが、


いつか大きな差になるかもしれない。



そしてその夜。



子どもたちは安心したように眠りにつく。



真希と悠真は、静かな部屋で並ぶ。



「今日さ」


悠真がぽつりと言う。



「うん」



「ちょっとルール破ったな」



真希は一瞬だけ止まり――


小さく笑う。



「……ほんの少しだけね」



お互いに分かっている。



良くないこと。


でも、


それでも――



「でも、あれで安心した」


悠真が言う。



真希は、ゆっくり頷く。



「私も」



言葉は少ない。


でも、それで十分だった。



守るべきものがある。



だからこそ、


明日もまた、正しく生きていく。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

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