第6話「月を見上げる、それぞれのかたち」
運動会とBBQが終わり、
にぎやかだった秋も、ゆっくりと終わりに近づいていた。
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夜の空気が少し冷たくなる頃。
街の灯りの上に、丸い月が浮かぶ。
――十五夜。
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「今日、月きれいだよ」
真希が窓の外を見ながら言う。
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リビングにいた三人が一斉に反応する。
「ほんと?」
「見たい!」
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ベランダへ出る。
夜風が少しだけ頬に当たる。
空には、はっきりとした月。
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「……でっか」
結翔がぽつりと呟く。
未来と莉嘉は、そのままじっと見上げている。
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しばらくして、未来が言う。
「ねえ、ほんとにうさぎいるの?」
その一言で、空気が少し変わる。
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最近、学校や動画で話題になっていた。
“月にはうさぎがいるのか問題”。
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莉嘉も続く。
「いるって言ってる人と、いないって言ってる人いるよね」
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悠真は少し考えてから答える。
「実際にはいない」
現実的な答え。
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「えー」
二人が同時に不満そうな声を出す。
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その横で、真希が少し笑う。
「でもね、そう見えるって話」
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「見える?」
未来が首をかしげる。
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真希は空を指差す。
「月の模様が、うさぎがお餅ついてるみたいに見えるの」
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三人がもう一度、月を見上げる。
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「……あ」
莉嘉が小さく声を出す。
「ほんとだ、なんかそれっぽい」
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結翔は少しだけ考える。
「想像力の問題か」
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悠真が苦笑する。
「言い方」
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現実と、物語。
どちらも間違いじゃない。
そんな曖昧な答えが、この夜にはちょうどよかった。
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その後、部屋に戻る。
テーブルの上には――
月見団子と、いくつかのお餅。
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「やった!」
未来と莉嘉のテンションが一気に上がる。
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二人はお餅が好きだった。
特に、こういう行事の時のものは別格。
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「ちょっと待って」
真希が先に声をかける。
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二人の動きが止まる。
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「ちゃんとよく噛んで食べること」
少しだけ真剣な声。
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「……うん」
未来と莉嘉が頷く。
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「小さくなるまでね」
真希は続ける。
「喉に詰まると危ないから」
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テレビでも、動画でも、
何度も見てきた現実。
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楽しい時間の中にも、ちゃんと“気をつけること”がある。
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「わかってるよ」
莉嘉が言う。
「いっぱい噛む」
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未来も真剣な顔で頷く。
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そのやり取りを見て、悠真は少し安心する。
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一方で――
結翔は少し距離を取っていた。
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「食べないの?」
悠真が聞く。
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結翔は首を横に振る。
「いい」
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「団子、嫌いなんだっけ」
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「うん」
即答。
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以前、悠真が買ってきた“ずんだ餅”。
あれがきっかけだった。
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「なんか……あの味がダメ」
少し顔をしかめる。
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真希が横から言う。
「無理に食べなくていいよ」
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悠真も頷く。
「まあ、好き嫌いはあるよな」
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「うん」
結翔は素直に答える。
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その代わりに、別のお菓子を手に取る。
それでいい。
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“みんな同じじゃなくていい”
それが、この家族のルールだった。
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未来と莉嘉は、ゆっくりとお餅を食べている。
ちゃんと噛んで、
小さくして、
飲み込む。
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その様子を見ながら、真希は少しだけ息を吐く。
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「ちゃんとできてるね」
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悠真も頷く。
「成長してるな」
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何気ない夜。
特別なことはない。
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それでも――
こうして同じ時間を過ごしていることが、
何より大切だった。
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再びベランダへ出る。
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月は変わらず、そこにある。
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結翔がぽつりと言う。
「うさぎ、いるかもな」
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未来と莉嘉が笑う。
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悠真も小さく笑う。
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真希は、その光景を静かに見ていた。
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それぞれの考え方。
それぞれの好き嫌い。
それぞれの見え方。
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全部違って、全部いい。
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月の下で、
その“違い”が、ひとつの家族になっていた。
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秋の終わり。
静かな夜が、やさしく包んでいた。
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