第4話「本のあいだに、つながる時間」
秋の空気は、どこか静かで澄んでいた。
ルクシア株式会社のエントランスには、その日だけ特別な空間が広がっていた。
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「これが……読書会か」
悠真が小さく呟く。
普段は無機質なロビーに、ずらりと並ぶ本棚。
社員たちが持ち寄った本。
家に眠っていた本、実家から持ってきた本。
子ども向けの絵本から、専門書、小説まで。
ジャンルはばらばらだが、それが逆に“らしさ”を作っていた。
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「なんか、いいね」
真希もその光景を見ながら言う。
営業部課長としてではなく、“一人の母”としての視線だった。
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午前中は、本の販売。
一冊100円。
どんな本でも同じ値段。
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「安くない?」
結翔が驚く。
悠真は笑う。
「掘り出し物探すのが楽しいんだよ」
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未来と莉嘉も、それぞれ気になる本を手に取る。
表紙を見て、めくって、また戻して。
それだけで、時間がゆっくり流れていく。
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真希も一冊手に取る。
「……これ、懐かしい」
学生時代に読んだ本だった。
少し色褪せたページ。
でも内容は、しっかり頭に残っている。
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悠真は別の棚を見ていた。
ふと、手が止まる。
「……これ」
手に取った本。
値札は100円。
だが裏を見ると、元値は2,000円以上。
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「当たりだな」
小さく笑う。
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その後、二人は何冊か選ぶ。
子ども向けの絵本。
少し大人向けの小説。
そして、自分たちのための本。
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「こんなに買って大丈夫?」
真希が言う。
悠真は肩をすくめる。
「全部で数百円だし」
「それもそうか」
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レジを通す。
袋に入れられる本たち。
その重さは、不思議と心地よかった。
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昼を過ぎて、午後。
会場の一角に、子どもたちが集まり始める。
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「始まるよ」
真希が声をかける。
結翔、未来、莉嘉も並ぶ。
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今回の読み聞かせは――
千代田区立日比谷図書文化館 の司書によるもの。
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静かな声で、物語が始まる。
一冊目。
ページをめくる音。
優しい語り口。
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子どもたちは、自然と引き込まれていく。
さっきまで動き回っていた結翔も、じっと聞いている。
未来と莉嘉も、目を輝かせている。
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二冊目。
少し長めの物語。
笑いが起きる場面もあれば、静かになる場面もある。
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三冊目。
少しだけ心に残る話。
読み終わったあと、ほんの少しの沈黙が生まれる。
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「……おもしろかった」
未来がぽつりと言う。
莉嘉も小さく頷く。
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結翔は少し考えたあと、言う。
「家でも読んで」
その一言に、真希が少し驚く。
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「いいよ」
すぐに答える。
その声は、やわらかかった。
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少し離れた場所で、その様子を見ていた悠真。
ふと、真希の方を見る。
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目が合う。
ほんの一瞬。
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何も言わない。
だが、それだけで十分だった。
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“この企画、やってよかった”
言葉にしなくても、伝わる。
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イベントは穏やかに進んでいく。
大きな盛り上がりではない。
だが、確かに人と人が繋がっている空間だった。
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帰り際。
結翔が袋を抱えながら言う。
「今日の本、読む?」
真希は笑う。
「読むよ」
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悠真も頷く。
「夜だな」
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その日の夜。
また一つ、家族の時間が増える。
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静かな秋の一日。
だがその中には、
確かに“温かい時間”が流れていた。
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