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『40歳OLと高校生、世間では“母子”、本当は恋人――バレたら即終了の年の差ラブコメ、始まります。』  作者: AQUARIUM【RIKUYA】
シーズン8.5《社会人8年目と2人の出世…家族5人編のその後と特別編 ~ 》
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第3話「日常の中の、隠された距離」


七泊八日の旅行が終わった。


京都、滋賀、大阪。


濃密な時間は、あっという間に過ぎていった。



家に戻った夜。


荷物を置いた瞬間、現実が戻ってくる。


「……終わったね」


真希が小さく言う。


悠真は少しだけ笑う。


「楽しかった分、反動がくるな」



そしてその“反動”は、すぐに形になる。


休み明け。


会社。


デスクの上に積まれた書類。


未読のメール。


止まっていた分の仕事が、一気に流れ込んでくる。



「……多い」


真希がぽつりと呟く。


だが手は止まらない。


すぐに優先順位を組み立て、処理を始める。



一方、企画部。


悠真も同じだった。


「これ全部、今日中?」


同僚が苦笑する。


悠真は資料を見ながら答える。


「できるところまで」


その言葉には、無理をしすぎない余裕があった。



仕事は忙しい。


だが、以前とは違う。


“潰れるほどではない”


そのラインを、二人は覚えていた。



廊下。


すれ違う瞬間。


真希と悠真の距離が一瞬だけ近づく。


誰にも気づかれない角度で――


指先が、ほんの一瞬だけ触れる。


ほんの一秒もない接触。


だがそれだけで、十分だった。



真希は何もなかったように歩き続ける。


悠真も振り返らない。


だが、そのわずかな温度だけが残る。



昼休み前。


自動販売機の前。


人は少ない。


だがゼロではない。



二人は、少し距離を空けて並ぶ。


視線は合わせない。


完全に“他人の距離”。



それでも――


背を向けたまま。


片方の手だけが、ゆっくりと後ろに伸びる。


そして、触れる。


指と指が絡む。


恋人繋ぎ。



誰にも見えない位置。


ほんの数秒。


それだけで、心が少し落ち着く。



「……仕事戻る」


真希が小さく言う。


「うん」


悠真も短く返す。



そのまま、自然に離れる。


何事もなかったように。



“隠す関係”。


だがそれは、ただの制限ではない。


二人にとっては、


“守るための形”でもあった。



午後。


会議室。


ルクシア株式会社の企画会議が始まる。



議題は――秋のイベント。


「読書会とスポーツ大会を組み合わせた企画を検討する」


上層部からの指示だった。



「読書とスポーツ?」


誰かが呟く。


少し異質な組み合わせ。


だが、それが逆に面白さでもあった。



悠真は資料を見ながら考える。


“静”と“動”。


“個人”と“集団”。



その両方をどう繋ぐか。



数日後。


複数のチームから企画案が提出される。


悠真も、その中の一人として案を出していた。



そして――


結果発表。


「今回採用されるのは……この10案です」


名前が読み上げられる。



「高槻」


その中に、自分の名前があった。



悠真は小さく息を吐く。


隣の同僚が軽く肩を叩く。


「やるじゃん」


「ありがとうございます」



同じ頃。


営業部。


真希もその情報を受け取る。


一覧に目を通し――


一瞬だけ、視線が止まる。



(通ったんだ)


表情は変えない。


だが、ほんの少しだけ口元が緩む。



その日の帰り道。


いつも通り、少しだけ時間をずらして外に出る。



駅までの道。


偶然のように、並ぶタイミング。



「通ったね」


真希が小さく言う。


悠真は軽く頷く。


「なんとか」



「おめでとう」


その一言は、短くて、でも確かだった。



悠真は少しだけ笑う。


「まだこれからだけどな」


「うん。でも一歩」



夕焼けの中。


二人は並んで歩く。


少しだけ距離を空けて。



だが、その距離の中には、


確かに“繋がり”があった。



非日常は終わった。


だが――


日常の中にも、ちゃんと特別はある。



そしてその特別は、


誰にも見えない形で、確かに続いていた。



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