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第7話「交差する夜」


同じ夜、同じ都市。


だが、その夜は確かに“二つの場所”に分かれていた。



瀬川陽翔は、居酒屋を出たあとも少しだけ足を止めていた。


夜風が思ったより冷たい。


隣では村瀬翼がスマホを見ながら歩幅を合わせてくる。


「ねえ、さっきの見た?」


その一言に、瀬川はすぐに分かる。


「ああ、あれか」


進藤あかりと赤井美波も少し遅れて追いつく。


赤井が小さく笑う。


「普通に恋人だったね」


進藤は少しだけ目を細める。


「社内じゃ絶対見えないやつ」


村瀬がぽつりと言う。


「真希さんってさ」


全員の歩きが少しだけ揃う。


「会社だと“完璧な人”って感じなのに」


瀬川が軽く肩をすくめる。


「家では違うってことだろ」


村瀬は頷く。


「うん……あれ見たら、ちょっと納得した」



少し離れた場所。


同じ時間。


真希と悠真は並んで歩いていた。


恋人繋ぎのまま。


夜の街は静かで、車の音だけが遠く流れている。


真希が小さく言う。


「さっき、結構見られてたね」


悠真は少し笑う。


「まあ、あれは見えるだろ」


「隠す気なかった?」


「いや、バレたらバレたでいいかなって」


真希は少しだけ目を細める。


「珍しいね」


「そうか?」


「うん。いつもはちゃんと隠すのに」


悠真は少しだけ考えてから言う。


「隠す理由が、ちょっと減った気がして」


その言葉に、真希は一瞬だけ足を止める。


そして小さく息を吐く。


「……それ、危ない発言」


「そう?」


真希は軽く笑う。


「うん。バレるきっかけになる」


悠真も笑う。


「でも、悪くないだろ」



その頃。


少し後ろを歩いていた瀬川たち。


角を曲がる瞬間、遠くに二人の背中が見えた。


手を繋いで歩く影。


村瀬が小さく言う。


「ほんとに自然だね」


赤井が続ける。


「隠してるのに隠れてない感じ」


進藤は少しだけ笑う。


「見せてないだけで、もう成立してる関係だよね」


瀬川は少し黙ったあと、軽く息を吐く。


「まあ、あれはあれで正解なんだろ」



夜はさらに深くなる。


別れの流れは、自然だった。


瀬川が軽く手を振る。


「じゃあな、また明日」


村瀬も続く。


「お疲れさま」


赤井と進藤も軽く会釈する。


その場に残るのは、また二人だけ。



静かな歩道。


真希がぽつりと言う。


「なんかさ」


「うん?」


「今日、二回飲み会あったみたい」


悠真は少し笑う。


「実際そうだろ」


「うん。でも変な感じ」


「どこが?」


真希は少し考える。


「同じ人たちが、別の場所にいるの」


悠真は頷く。


「でも最後は同じところに集まった」


その言葉に、真希は少しだけ黙る。



やがて、小さく言う。


「……これ、広がるかな」


悠真はすぐに答えない。


少し間を置いてから言う。


「広がってもいいんじゃないか」


真希は横目で見る。


「珍しい」


「そうか?」


「うん。前はもっと慎重だった」


悠真は軽く笑う。


「まあ、慣れたのかもな」



家に着く頃には、夜は完全に静かになっていた。


扉を開けると、そこには“いつもの家”がある。


靴を脱いだ瞬間、外の世界は遠くなる。



リビング。


誰もいない静けさ。


真希が小さく言う。


「今日は、ちょっと変な一日だったね」


悠真は頷く。


「でも、悪くない一日」


真希も同意するように小さく笑う。



そのあと。


何も言わずに並んで座る。


言葉はいらない時間。


ただ、少しだけ距離が近い。


外で見られた“関係”と、家での“関係”の差が、もう曖昧になり始めている。



真希が小さく呟く。


「いつか、全部混ざるのかな」


悠真は少しだけ考えてから言う。


「混ざっても、変わらないと思う」


真希は目を閉じる。


「……そうだね」



夜は静かに終わる。


だが、その静けさの中で、


二つの世界は、確実に少しだけ近づいていた。



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