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第6話「二つの飲み会」


その夜。


東京の街は、同じ時間に別々の“温度”を持っていた。



一軒目の居酒屋。


営業部側。


真希、赤井美波、進藤あかりの三人は、仕事終わりとは思えないほど落ち着いた空気の中にいた。


「いやー、春日井さんと飲むと緊張するんですよね」

赤井が笑いながら言う。


真希は淡々と返す。


「仕事中じゃないから気にしなくていい」


進藤がグラスを傾ける。


「でもさ、社内の話聞いてるとほんと別格だよね」


村瀬はいないが、話題の中心は自然と“春日井真希”になる。


だが真希はそれを特に否定もしない。


ただ静かに飲む。


それが彼女の距離感だった。



ほぼ同じ時刻。


別の居酒屋。


企画部側。


瀬川陽翔、高槻悠真、村瀬翼の三人。


こちらは少しだけ騒がしい。


「いや、お前ほんと真面目すぎるって」

瀬川が笑いながら悠真の肩を叩く。


村瀬が続ける。


「企画部、もっと肩の力抜いていいよ」


悠真は苦笑する。


「そう言われても……」


瀬川はグラスを置きながら言う。


「まあ、お前はそのままでいいけどな」


その言葉は軽いのに、妙に安心感があった。



二つの飲み会は、同じ都市の中で、ほぼ同じ時間に進んでいた。


そして――終わる時間も、ほぼ同じだった。



夜の路地。


先に出てきたのは営業組。


真希、赤井、美波、進藤。


少し遅れて企画組。


悠真、瀬川、村瀬。


そして――


角を曲がった瞬間。


「……あ」


真希と悠真の視線が重なる。


一瞬、時間が止まる。


「え、なんでここにいるの」

進藤が先に声を上げる。


村瀬も目を丸くする。


「え、近くじゃんこれ」


瀬川が笑いながら周囲を見る。


「隣の店じゃねぇか」


赤井が呆れたように言う。


「偶然すぎません?」



状況はすぐに理解された。


二つのグループは、ほぼ同じエリアで飲んでいた。


ただ別々の時間、別々の空間で。


真希は軽く息を吐く。


「解散のタイミングまで同じか」


瀬川が笑う。


「そりゃまあ、会社の同期と上司だしな」


村瀬が悠真を見て言う。


「じゃ、ここで解散でいい?」


悠真は頷く。


「はい」



別れ際。


空気が少しだけ静かになる。


赤井が軽く手を振る。


「またね、春日井さん」


進藤も続く。


「お疲れさまです」


村瀬は最後に悠真へ。


「じゃ、またね」


瀬川は二人を見て、少しだけ意味ありげに笑った。


「……お前ら、ほんとバレないようにやれよ」


真希と悠真は、同時に軽く頷く。



そして、四人が少し離れたあと。


夜の歩道に残ったのは二人だけだった。



真希は何も言わず、自然に手を伸ばす。


悠真も、それを迷わず取る。


恋人繋ぎ。


言葉はいらなかった。


ただ、それだけで十分だった。


並んで歩き出す。


少し後ろを歩いていた瀬川たちが、その光景に気づく。


「……あいつら」

瀬川が小さく呟く。


村瀬が苦笑する。


「普通に幸せそうだね」


赤井は少しだけ目を細める。


「羨ましいって、ああいうのかも」


進藤も静かに頷いた。


「隠してるのに、ちゃんと伝わるのすごいよね」



夜道。


真希は小さく言う。


「見られたね」


悠真は少し笑う。


「まあ、いいんじゃないか」


「怒られるかな」


「たぶん、誰も言わない」


真希は少しだけ安心したように息を吐く。



家に帰ると、静かな空気。


靴を脱いだ瞬間、ようやく“仕事の自分”がほどけていく。


リビングの灯りだけが柔らかく揺れていた。



その後。


二人はそれぞれ風呂に入る。


湯気の中で、ようやく一日の緊張が完全に落ちる。


「……今日は長かったね」

真希が言う。


「うん。でも悪くなかった」

悠真が答える。



風呂のあと。


リビングで少しだけ並んで座る。


自然と視線が合う。


言葉は少ない。


ただ、距離が近い。


真希が軽く悠真の頬に触れる。


そして短く、穏やかにキスを交わす。


それは“確認”のようなものだった。


今日も無事に終わったこと。


明日も一緒にいること。



その後、同じベッドへ。


真希は小さく呟く。


「一緒に入るのは、また今度ね」


悠真は笑う。


「約束な」


「うん」



電気が落ちる。


静かな夜。


外ではまだ都市が動いている。


だがこの部屋の中だけは、完全に別の時間だった。



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