表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
108/123

第8話「会社にバレかける事件」


 神奈川旅行から戻った翌週。


 月曜日の朝は、いつも通り始まったはずだった。


 ただ一つだけ違うのは——


 二人の中にまだ“余韻”が残っていたことだった。



 オフィスの空気は、変わらない。


 人の流れ。

 電話の音。

 キーボードのリズム。


 その中で、春日井真希は課長席に座る。



春日井真希



 悠真は少し離れた席で資料を開いている。


 視線は交わさない。


 言葉もない。


 それが“いつものルール”だった。



 だが、その日——小さなズレが起きる。



「春日井課長、この資料ちょっといいですか」


 後輩が真希に声をかける。


「はい」


 真希は振り向く。



 その瞬間だった。



 悠真がちょうどコピー機から戻ってくる。


 手には資料。


 そして、真希の後ろを通ろうとした。



 ほんの一瞬。


 人の流れの中で交差するタイミング。



 資料が落ちる。



「あっ」


 ほぼ同時に二人の声が重なる。



 真希がしゃがみ、


 悠真も反射的に手を伸ばす。



 その瞬間——


 指が触れた。


 ほんの一瞬。


 でも確かに。



 周囲の時間が止まったように感じる。



「……すみません」


 真希がすぐに立ち上がる。


「いえ、大丈夫です」


 悠真も何事もなかったように答える。



 だが、その“間”を見ていた社員がいた。



「……あれ?」


 小さな声。



 視線が一瞬だけ集まる。



 だが、すぐに逸れる。


 偶然に見えなくもない。


 その程度の違和感。



 それでも——


 二人の背中には、わずかな緊張が残る。



 昼休み。


 食堂。


 席は離れている。


 会話はない。



 だが、真希のスマホが震える。



「後で会議室」


 短いメッセージ。


 送り主は——



柳瀬部長



 真希は一瞬だけ息を止める。



 会議室。


 午後。



「さっきの件だが」


 柳瀬部長は開口一番そう言った。



「……はい」


 真希と悠真は同時に返事をする。



「お前ら、最近ちょっと距離近い時あるよな」



 一瞬、空気が凍る。



 しかし柳瀬は、怒ってはいない。


 むしろ観察するような目。



「まあ、仕事は問題ないが」


「ただな」



 少し間を置く。



「“見られ方”は気をつけろ」



 その言葉に、二人は静かに頷く。



「……はい」



「それだけだ」



 会議室を出る。


 廊下。



「やばかったな」


 悠真が小さく言う。



「うん」


 真希も短く答える。



 でも、その表情は意外と落ち着いていた。



「バレてない……よね?」


「たぶん」



 少しだけ笑う。


 でも、その笑いには緊張が混じる。



 午後の業務。


 空気はいつも通りに戻る。



 ただ一つ違うのは——


 二人が“より意識的に距離を取るようになった”ことだった。



 視線を合わせない。

 同じタイミングで動かない。

 必要以上に近づかない。



 それは防御ではなく、“習慣”になっていた。



 夕方。


 終業時間。



「お疲れさまでした」


 いつもの挨拶。


 だが、少しだけ硬い。



 会社を出るタイミングもずらす。



 少し離れた場所で合流。



「……今日、ちょっと疲れた」


 真希が言う。



「俺も」


 悠真が答える。



「でもさ」


 少しだけ間。



「バレてないよな」



「……多分な」



 小さく笑う。



 その笑いの中には、緊張と安心が混ざっていた。



 夜。


 家。



「ただいまー!」


「おかえりー!」



 子どもたちの声が、すべてを元に戻す。



 夕食。


 風呂。


 寝かしつけ。



 いつもの流れ。



 夜。


 リビング。



「今日さ」


 悠真が言う。


「ちょっと危なかったな」



「うん」


 真希が頷く。



「でも」



 少しだけ笑う。



「大丈夫だった」



 その言葉に、悠真も頷く。



「だな」



 肩が少しだけ触れる。


 でも、それ以上はない。



 今はそれでいい。



 守るものが増えたからこそ、


 慎重になる。



 でも、その中でも確かに——


 二人は繋がっている。



最後まで読んでくださり、ありがとうございます!

もしこの物語に少しでも「面白い!」と感じていただけたなら——


ブックマーク & 評価★5 をぜひお願いします!


その一つひとつが、次の章を書き進める力になります。

読者の皆さまの応援が、物語の未来を動かします。


「続きが気になる!」と思った方は、ぜひ、見逃さないようブックマークを!

皆さまの応援がある限り、次の物語はまだまだ紡がれていきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ