閑話⑦「同じ未来を選ぶということ」
企画提出まで、あと一日。
会議室のホワイトボードには、びっしりと案が並んでいた。
——15個。
どれも捨てがたい。
どれも、本気で考えたもの。
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「……これだな」
悠真が、ひとつに丸をつける。
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真希も、その案を見つめる。
コンセプト、導線、ターゲット。
すべてが、きれいに繋がっている。
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「……うん」
静かに頷く。
「これなら、通せる」
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二人で選んだ“一つ”。
それが、すべてを背負う。
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翌日。
取締役会議。
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長いテーブル。
重い空気。
並ぶのは——
専務、常務、外部取締役たち。
そして——
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橘理沙
氷室結衣
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静かな緊張が張り詰める。
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「では、始めます」
悠真が一歩前に出る。
声は落ち着いている。
でも、内側は研ぎ澄まされていた。
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スクリーンに資料が映る。
操作するのは、真希。
タイミングは完璧。
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「今回の企画は——」
説明が始まる。
コンセプト。
市場分析。
戦略。
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言葉に、迷いはない。
伝えるべきことを、的確に。
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真希もまた、無駄のない動きで資料を切り替える。
視線は常に全体を見ている。
悠真の流れを、完全に理解している。
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二人の連携は、静かに完成されていた。
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説明が終わる。
静寂。
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数秒の沈黙。
それが、やけに長く感じる。
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「……いい案だな」
専務が口を開く。
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「現実的かつ、攻めている」
別の取締役が頷く。
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「リスクも管理されている」
「実行可能性も高い」
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次々に、評価の言葉が出る。
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そして——
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「この案で進めましょう」
橘理沙が、はっきりと言う。
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その一言で、決まった。
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「異論は?」
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誰も、何も言わない。
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「では、承認とします」
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その瞬間。
空気が、わずかに緩む。
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「ありがとうございました」
二人は同時に頭を下げる。
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会議室を出る。
ドアが閉まった瞬間——
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「……通ったな」
悠真が小さく言う。
「……うん」
真希も、ほっと息をつく。
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すぐに呼び止められる。
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「おい、二人とも」
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柳瀬部長
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「はい」
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「さっきの見てたが——」
少しだけ笑う。
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「他の部長連中も、かなり評価してたぞ」
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その後ろには、
総務部長、営業部長、人事部長、経理部長——
何人もの部長たちがいた。
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「いい仕事だったな」
「さすがだな」
「期待以上だ」
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次々に声がかかる。
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「……ありがとうございます」
二人は、同時に頭を下げる。
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その一言に、すべてを込めて。
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——でも。
それで終わりじゃない。
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そのあとも、通常業務。
メール、調整、資料修正。
いつも通りの一日。
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ただ——
少しだけ、足取りが軽かった。
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夜。
帰宅。
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「ただいま」
「おかえりー!」
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子どもたちの声。
いつもの光景。
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食事、片付け、寝かしつけ。
慌ただしく過ぎる時間。
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そして——
静かな夜。
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子どもたちが眠ったあと。
二人は、部屋で向かい合う。
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悠真は、ジンジャーエール。
真希は——
麦酒を一本。
そして、もう一本。
さらに、もう一本。
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「……飲みすぎじゃない?」
「今日はいいの」
少しだけ頬が赤い。
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「だってさ」
グラスを置く。
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「ちゃんと、やりきったから」
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その言葉に、悠真は小さく笑う。
「……確かに」
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少しだけ、沈黙。
でも、心地いい。
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ふと。
真希が、ゆっくりと近づく。
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「……ね」
「ん?」
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そのまま。
そっと、唇が重なる。
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やわらかく。
少しだけ長く。
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酔っているせいか、いつもより素直だった。
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「……ありがと」
小さな声。
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「……こっちこそ」
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額が軽く触れる。
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そして、真希はそのままベッドに倒れ込む。
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「……また明日から、仕事頑張ろうね」
少しだけ、ろれつの回らない声。
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「……ああ」
悠真が答える。
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真希は、そのまま目を閉じる。
すぐに、寝息が聞こえてくる。
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穏やかな寝顔。
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悠真は、それを少しだけ見つめてから、明かりを落とす。
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静かな夜。
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仕事も、家族も。
どちらも、簡単じゃない。
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でも——
二人で選んで、
二人で進んで、
二人で乗り越えていく。
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その先にあるのは、
きっと、同じ未来。
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——閑話、完。
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