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第八十四話 決戦!グローリー!

「グローリーをぶっ潰すと言いましたか!? いけません八雲さん、その方法は余りにも危険です!!」

「準特級魔道具を壊したら何が起こるか分からないってことですか? それなら大丈夫ですよ。雫のいた時代でもグローリーは壊れている。だから雫は元気になった。それとも、夏白島に与える影響が大変なものになるということですか?」

「それは問題ありません。自分の孫と曾孫の犠牲の上に成り立っている発展など私には必要ありません。何かあれば私が責任を負います。しかしながら、準特級魔道具が素直に破壊されるとは思えません。契約を交わすことができるあの魔道具は、もはや意思を持っていると言ってもいいでしょう。一般人では太刀打ちできないと思われます」

「そこは安心してください。私と八雲先輩は天岩学園の戦闘希望者。私はランキング二位で、八雲先輩もシングルに匹敵する力を持っています」

「なんと!? 今の天王寺さんがいる代でシングルですか……それなら、可能性は十二分にあるやもしれませんね」


 帝人先輩のおかげで、天岩学園の戦闘希望者がどれ程凄いものかと言うのは世間に知れ渡っている。

 天岩学園の生徒と言うだけで尊敬される存在だというのに、戦闘ランキングシングルとなれば崇拝の域にいってしまうほどだ。


「駄目なのです。もし、お二人に何かあってしまえば、雫は本当に全てを失ってしまうのです……それに、グローリーを壊したからと言って未来が変わるとは限らないのです。グローリーが破壊されれば雫は病気になりません。そもそもの過去に行く理由を失ってしまうのです。全ては無駄になってしまうかもしれないのですよ!!」

「それでも、一パーセントでも可能性があるのならば俺はやる。雫を助けるためなら、俺たちはグローリーと戦う。それが徒労に終わってしまったら、そんときはそんときだ。また別の方法を考えればいい。あんな魔道具はなくていいんだ。グローリーの存在を公表すれば、よからぬことになるのは目に見えている。その土地の栄華を巡って争いが生まれてしまうかもしれねぇ。壊すのであれば、俺たちしか存在を知らない今しかねぇんだ」

「それに、グローリーが壊れたからって夏白島が衰退するとも限りませんよ。魔道具が壊れたからと言って、この島の価値が変わる訳ではありません。いつだって、夏白島で見る夕日は綺麗なんですから」

「さきほども言いましたが、責任なら私が負います。後は雫さんの意思次第です。どうか、ご決断を。あなたたちの幸せを取り戻させてください」


 目をつぶって深呼吸をする雫。猫背で弱弱しかったその姿勢がしっかりとしたものになり、目を見開いて拳を握りしめる。


「……お願いするのです。雫たちを、この夏白島を、どうか助けてください!!」

「「任せてくれ!!」」

「八雲さん、夜月さん、グローリーがあるとされているのは別荘の奥にある森に囲まれた小高い丘の上です。魔力濃度が高い場所ですので、どうかお気をつけください。そして……」

「そこからは言わなくてもいいぜ出雲さん。俺たちは必ずグローリーを破壊して無事に戻ってくる」

「……分かりました。ご武運を」


 魔道具は魔力濃度が高い場所で自然に作られる場合がある。特級魔道具アンノウンを調べる時に得た知識だ。グローリーはその一例。

 しかも、雫がタイムリープできるほどの膨大な魔力を持っている。……壮絶な戦いになるかもな。俺と夜月はゆっくりと歩を進め、小高い丘を目指していく。


「……雨ですね」

「……ああ、曇天だな」


 夏になれば雨が降らないとされる夏白島で、肌をかすめるようなささやかな雨が降りそそぐ。

 その雨の真意を俺たちは知る由もないが、やまない雨はない。地面をしっかりと捉えながら、小高い丘に立ちふさがる森を突き進む。


(……これは!! 凄い魔力だな……)


 森に漂う魔力の量は、戦闘経験が豊富で魔力を多く持つ俺たちであっても気分が悪くなるほどであった。

 並の人間なら魔力の圧に気圧され、気を失うことだろう。だが、森を抜けると同時に漂う魔力が薄くなる。

 その代わりに、丘の上に一つの鐘が現れる。佇む金色の鐘は、辺り一帯の魔力を溜めこんでいるのではないかと思うぐらいの迫力と魔力を持っていた。


「まずは様子見も含めて、私が魔力弾を放ちます。八雲先輩はカバーに回ってください」

「分かった」

「それでは行きますよ。【正義の鉄槌ジャガーノート】……ふぅー、はああああっ!!」


 夜月の手元に膨大な魔力が収縮する。【正義の鉄槌ジャガーノート】。自分に正義があるときほど、身体能力と魔力が跳ね上がるというもの。

 今は雫を助けるために悪であるグローリーを倒すという正義がついている。出力最大。特大の魔力弾がグローリーに襲い掛かる。しかし……、


「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「そう簡単には、いきませんよね」


 夏白島を揺らす雄たけびと共に現れたのは、ところどころ壊れた漆黒の西洋甲冑を着た騎士であった。

 魔力弾を断ち切った騎士。その手に持つ剣を天に掲げると、その後ろから弓矢を持った同じような甲冑を着た兵隊が現れた。

 準特級魔道具。得体のしれない相手ではあるが、いい感じに雨が火照った体を冷静にさせる。

 見つめ合う両者。その均衡を破ったのは、夏白島を引き裂く、一つの稲光であった。


「はあああああああああっ!!」

「グオオオオオオオオオオ!!」


 お互いの姿が消えたかと思うと、次の瞬間には剣と拳を撃ち合っていた。飛び散る魔力と火花。はじかれた二人は瞬く間に位置を変えてぶつかり合う。

 余りの攻撃の激しさに、俺も弓隊もつけいる隙が無かった。ということは……、弓隊の一人が矢を構える。その狙いは俺へと向けられていた。


「【不調で絶好調ダウナーズハイ】!!」


 俺はスキルを発動。飛んできた矢を掴むと、そのまま真っ二つにへし折る。


「おいおい舐められたもんだな。こんなもんじゃ、俺は倒せねぇぞ!!」


 相手に意思があるのかは定かではないが、弓隊の全員が矢を構える。これで、万が一でも夜月が邪魔されることはなくなったはずだ。

 俺が魔力を全身に纏うと、文字通り矢の雨が降り注ぐ。一発一発は弱いが、重なれば俺の魔力防御を貫くほどの威力を持つ。

 なんとか飛んでくる矢を見極め、最低限の被弾でいなすことができた。それでも、このままでは魔力を削られるだけである。

 こっちから攻めるしかない。幸いなことに、夜月が戦っている騎士以外はそこまで強くない。一体ずつ片付ければ何とかなる。


「すぅー、はぁーー……おらよおおお!!」


 特大の魔力弾を放つ。弓隊は魔力弾に向けて矢を放つが、ここで【進んで戻れイレブンバックレボリューション】と【止まって動けグッドナイト・モーニング】を発動。魔力弾が俺の位置まで戻ってきて止まる。

 全員の矢を躱したところで魔力弾が再発進。弓隊の数人を弾き飛ばす。


「今だ!!」


 足に魔力を集中。脚力を強化する。その足で陣形の崩れた弓隊に突っ込む。が、


「先輩!!」

「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

「わーてるよ!!」


 俺が両腕に魔力を集中させ、腕を交差して剣を受けきる。集中防御のおかげで何とか受けきれているが、俺がこいつの相手をするのは無理があるな。


「させません!!」


 すかさず距離を詰めて横から蹴りを入れる夜月。騎士は剣を引いて退き、上手く攻撃を回避したようだ。さらに、崩れていた弓隊の陣形も元に戻っていた。


「すみません先輩!! 私が抑えきれないばかりに!!」

「気にするな。あいつは強い。こっからは本気で行くぞ!! 【寡黙で多弁サイレントトーカー】!!」


 俺が夜月に触るとテレパシーで会話をする。あいつに意思のようなものがあるなら必ず弱点はある。俺は夜月に作戦を伝える。最初は気が進まない夜月であったが、なんとか納得して受け入れてくれた。


(「本当にいいんですね八雲先輩?」)

(「雫のためだ。命ぐらい懸ける」)

(「分かりました。【私だけの正義ドレッドノート】!!」)


 夜月の魔力がさらに跳ね上がる。思いが強ければ強いほど身体能力と魔力が跳ねがるそのスキルは、夜月を更なるステージへと誘う。

 夜月を警戒する騎士。だが、ここで騎士に向かって突っ込んだのは俺であった。


「俺だってやらせてもらうぜ、騎士さんよお!!」


 俺が重たい一発をぶち込むも、剣の側面で軽くいなされる。弾き飛ばされた俺の拳。騎士の追撃が目の前に迫る。

 俺の防御では防ぎきれない疾風怒涛の一撃。俺はガードをしない。騎士を見つめて動かない。

 このままでは斬られる……その一歩手前で、騎士が方向転換。目にもとまらぬ速さで駆け抜ける騎士。

 夜月が放った巨大な魔力弾が弓隊を押しのけグローリーに迫っていた。グローリーに当たる直前で騎士が飛び込み体で受ける。


「グオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

「やっぱり、主が第一だよな。辛いねぇ、守りながらの戦いってのは」


 自分を守るために召喚した騎士たち。その優先順位はグローリーを守ること。俺を倒すことができても、グローリーが破壊されては意味がない。

 つまり、俺たちの作戦とは、強大な騎士と大量の弓隊を無視して、ひたすらにグローリー本体を狙うことであった。


「今です先輩!!」

「おうよ!!」


 魔力弾の直撃でひざまずく騎士。そんな騎士を尻目にここぞとばかりに魔力弾をグローリーに放ちまくる。大量の弓隊が束となってグローリーと騎士の盾になる。

 ところが、俺の攻撃は防げても夜月の攻撃は防げない。夜月の攻撃の余波が騎士に襲い掛かる。


「グオオ!! グアアアアアアアアアアアアア!!」


 なんとか踏ん張って立ち上がった騎士であったが、弓隊は壊滅的な状況にまで追い込まれていた。


「……グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」


 騎士が再び雄たけびを上げると、その場で足を広げ剣を薙ぎ払う姿勢を見せる。グローリーを守りながら、俺と夜月と魔力弾を斬撃で攻撃するつもりか!!


「夜月!!」

「先輩!!」


 俺と夜月がくっつくと、俺が夜月に覆いかぶさるようにして両手を重ね、魔力を一点に集中させる。放たれた決死の一撃。


「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」


 俺と夜月は押されながらも両手で斬撃を防ぎきる。そして、


「「おりゃああああああああああああああああああああああああああああ!!」」


 同時に勢いよく飛び出す俺たち。斬撃を放って疲れ切った騎士に向かって、魔力が凝縮した俺の左手と夜月の右手が同時に直撃する。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 二人の特大のパンチを受けてぶっ飛ぶ騎士。飛んでいった先にはグローリー。二つはぶつかると騎士は霞となって消えていった。

 ……ガラン、ガラン、ガラン。グローリーはその大きな鐘を鳴らし、徐々にひび割れていく。その音はとても美しく、俺たちの勝利を祝福しているようであった。


「空、晴れましたね」

「ああ、雲一つない快晴だ」


 俺と夜月はグローリーが散っていくのを見届けると、その場を後にした。

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