第五十八話 決戦準備
作戦会議が終わった俺たちは、真極との決戦に向けて軽くトレーニングをしていた。ウォーミングアップをして体を温める人もいれば、臨時講師に言われたアドバイスを元に来るべき戦いに向けて強くなろうとしている人もいる。
そんな中、俺は新しいスキルである【寡黙で多弁】が使えることをみんなへ話していなかったので、万が一における連携での戦いのことを考えてみんなへ話そうとしていた。最初に見つけたのは夜月だった。自分の家が狙われているかもしれないという状態だ。いつも以上に力が入りすぎている。少し緩ませた方がいい気がするな。
「夜月、調子はどうだ?」
「八雲先輩ですか。いい感じですよ、体も温まってきました。ですが、どんな相手が来るか分からない以上もっと頑張らないといけません。自分の故郷は自分の力で守って見せます」
「俺も同じ気持ちだよ。それじゃあ、俺は用事があるから離れるぞ。頑張ってよな」
俺が去り際に軽く肩を叩いて離れる。これで【寡黙で多弁】が発動と。少し、気を緩めてやろう。俺が裏声を使って話しかける。
(「咲耶、咲耶、聞こえますか?」)
夜月が辺りをきょろきょろしている。当たり前だ。周りには誰もいないのにいきなり頭の中に直接声が聞こえてきたのだから。
(「強く念じてみてください。そうすれば私に声が届きます」)
(「私の頭の中に直接!? あなたは一体誰なんですか!?」)
(「私は天の使いです。頑張っているあなたにアドバイスをしようと思ってやってきました」)
(「アドバイスですか?」)
(「強い気持ちがあるのはいいのですが、いつもより体が強張っている気がします。もう少し緩めたほうがいいでしょう」)
(「……確かにその通りですね。ねえ天の使いさん。私はもっと強くなりたいんですが、どうすればいいですか?」)
(「八雲隼人を敬いなさい。そうすれば天はあなたに力を与えることでしょう」)
(「なるほど……そうなんですね。分かりました! 八雲先輩をもっと敬いたいと思います!」)
(「殊勝な心掛けはいいことです。私も感心しております」)
俺が目をつぶって頷く。こんな風にいつも素直になってくれればいいんだけどな。
「それで、八雲先輩はここで何をやっているんですか?」
「何って、俺の新しいスキルをみんなへ教えに来たんだよ……あれ? なんで耳元で夜月の声が聞こえるんだ?」
「そりゃ、先輩の後ろにいますからね」
「へっ?」
勢いよく振り返ると夜月が仁王立ちしていた。何やら少しだけ怒っているように見えるのは気のせいかな?
「まさか、テレパシーのスキルにまで目覚めているとは思いませんでしたよ」
「何で……俺って分かったの?」
「裏声で喋ってますけど、どう考えても八雲先輩の声でしょうが!! で、何をしているんですか、天の使いさん?」
「いや、実は天の使いじゃなくて、初めてのお使いでな。夜月が力んでたから、緩めるために一役買おうとしてたんだ」
「怒りを買うの間違いじゃないですか?」
「あっ! 逆だった! ……恩を売りに来たんだよ」
「喧嘩を売るの間違いですよね?」
「……夜月様、どうもすみませんでした!!」
「分かればいいんです。後で何か奢ってください。まあ、八雲先輩にそういうスキルがあるのは分かりました。後、心配してくれてありがとうございます。もう大丈夫なので他の人に新スキルを伝えに行ってください。普通にですよ」
夜月に怒られた俺は他のみんなに新スキルを伝えるための旅に出た。どうやら油を売っていたみたいだ。きちんとみんなへ伝えに行かないとな。次に見つけたのは小波だった。
「小波、調子はどうだ?」
「八雲様……どう言ったらいいのか分かりませんわ。調子がいいのかもしれませんが、少し気分は優れませんの」
「一体どうしたって言うんだ?」
「その前に、一つ質問をしてもよろしいですの? 八雲様は自分のスキルがお好きではないとおっしゃっていましたわ。どうやって、向き合ったんですの?」
「うーん、色々と複雑な感情が入り混じっているから難しいが、簡単に言うのであれば、それを含めて俺なんだよなってことに気付いたのかもな。嫌いであっても、こいつは俺の一部なんだと納得した。それに俺は、どれだけ嫌いだったとしても必要となれば使うぜ。俺はこんな見た目だからな。強い力を使ったら悪魔と呼ばれるかもしれねぇ。それでも、本当に守りたいものを守るためには悪魔にでもなってみせると思ったのさ」
「……なるほどですわ。八雲様、ありがとうございますの。八雲様のおかげで、少し気分が晴れた気がしましたわ。私も向き合ってみようと思いますの」
「そうか。適度に力を抜いて頑張ってくれ。抱えきれなくなる前にみんなに相談しろよな。そうだ、実は俺の新スキルなんだが……」
新スキルを小波に教える。小波は驚いていたが、俺を褒めてくれた。小波は前回の体育祭で一対多数の戦いが苦手なことが露呈している。色々と考えることがあるんだろうな。俺は小波に別れを告げると次の人物を探しに行く。最低でも夜月家で待機するメンバーには伝えたいんだよな。そんな俺が次に見つけたのは荒武であった。
「やあ八雲くん。何をしているんだい?」
「実は俺の新しいスキルを教えに来たんだ。どうやら俺は触れた相手とテレパシーで会話できるようになったみたいだ」
「ほぉー、それは便利だね。いやー、やっぱり合宿と言うのはいいね。みんなの成長をひしひしと感じるよ」
「荒武はどんなアドバイスをもらったんだ?」
「僕は力は充分だから、他の何かを探した方がいいって言われたよ。前の体育祭で見せたように、何かあれば【絶滅】も使えるしね。とはいえ、ティラノサウルスの強みは力だからね。どうすればいいか悩んでいるよ」
「足が速くなるようなティラノサウルスに変形とかできないのか? ティラノサウルス、スピードモード的な感じでさ」
「ふむ、中々に面白い意見だね。少し、できないか試してみることにするよ。ありがとう八雲くん」
「いいって。俺の故郷を守ろうと頑張ってくれてるんだ。礼を言うのはこっちだよ。ありがとな」
俺は荒武に別れを告げる。荒武の強さと言うのはある意味既に完成しているようなものだ。そこから進化するというのはかなり難しいだろう。進化と言うよりはフォルムチェンジみたいなのを使えればもっと強くなれると思っているが、どうやるかは荒武次第だ。
さて、夜月家組で俺のスキルを知らないのは最上と斎賀と瀬間先輩だけだな。俺がうろちょろしていると、視界の端に最上を捉える。最上は光の剣を振るって、技術を鍛えているようだった。
「やあ、最上。調子はどうだ?」
「八雲殿、調子は普通と言ったところでございます。加治屋殿に言われたこと、誠にその通りだと思いました。自分で言うのはお恥ずかしいですが、私は自分のスキルは強いものだと思っておりました。それに甘えていたのが如実に表れる結果となりましたね。加治屋殿は気を使って最上位勢より少し劣っているとおっしゃられましたが、実際は天と地ほどの差があります。スキルを鍛えるのもいいですが、技術も大事なものだと痛感いたしました」
「でも逆に言えばスキルの練度は文句なしってことだろ? 失敗した中にもできたものとできなかったものがあるんだ。できたものに関してはしっかりと自分を褒めてやれよ」
「ふふっ、八雲殿の言う通りでございますね。ありがとうございます」
「どういたしまして。で、ちょっと本題に入るんだが、実は俺、新しくテレパシーのスキルが使えるようになったんだよな。一応把握しといてくれ。それとちょっと試したいことがあるんだけどいいか?」
「流石でございますね。承知しました。それで、試したいことと言うのはどのようなものでございますか?」
「ちょっと、光の剣を俺に本気で一つ放ってみてくれ。反撃するからガードも忘れずにな」
「承知しました。それでは本気で射出したいと思います。【高貴なる獅子の剣】」
最上がスキルを発動。光の剣を展開する。そして、光の剣の一つが物凄いスピードで俺目掛けてとんできた。俺は【不調で絶好調】を発動。集中防御で受けきる。しかし、勢いが強く、このままだと確実に貫かれる。
(ここだ!!)
俺は【進んで戻れ】を発動。放たれた光の剣に付与する。すると、光の剣は勢いを保ったまま最上の元へ戻っていく。少し驚いた最上であったが、手元にあった光の剣を打ち付けて撃ち落とした。
「驚愕しました。カウンタースキルまで使えるとは。いや、これは【進んで戻れ】の応用でございますか?」
「当たりだ。どうやら勢いもそのままに反射できるみたいだな。けど、一度受けきらないと付与できないのは難点だな」
「……カウンターですか。ありがとうございます八雲殿。少し、やりたいことが増えました」
「いや、役に立てれたのなら結構だ。こっちもありがとうな」
最上と握手を交わした俺は次の目的地に向かう。向こうに瀬間先輩の姿が見えるからだ。俺が瀬間先輩に話しかけようと近づく前に斎賀が俺の元へ走ってきた。
「やっと見つけたっす! 八雲先輩、さきほどは本当にありがとうございましたっす!!」
「何を言うんだ。斎賀のことを信じるって俺は言っただろうが。後は斎賀が決めるだけでいいんだよ」
「はい! 頑張るっす! ……俺決めたっす。八雲先輩にはスキルのことを話すっす!」
「斎賀……無理しなくてもいい。俺のことを疑いたくないだろう? 斎賀のスキルは必要な時に自らの意思で見せればそれでいいさ。だが、一つ約束だ。これは無理だと判断したら、必ず逃げろ。他の場面で役に立つことがあるかもしれない。俺が斎賀を守ってみせるから、俺に離れずついてくるんだぞ」
「分かったっす!! よろしくお願いしますっす!」
「そのためにも、俺の新スキルを説明しておく。新スキルの名は【寡黙で多弁】。触れた相手とテレパシーで意思疎通が出来るようになる。伝えたいことがあれば、強く念じてみれば伝わるからな。これで連携を取るぞ」
「流石八雲先輩っす! 承知しましたっす! 必ず八雲先輩の役に立てれるように頑張るっす! うおおおおおおおおおおおおお!!」
「おいおい、俺個人じゃなくて、みんなの役に立てれるように頑張れって……行っちゃったな……」
高ぶる感情を抑えられなくなったのか、斎賀はどこかへ走り去っていった。まあ、スキルのことは伝えられたんだ。良しとするか。俺は斎賀を見送ってから瀬間先輩の元へ近づく。
「あー、難しい!! どうやったらいいのか分かんないっしょ!!」
「どうしたんですか瀬間先輩?」
「ああ、八雲か。今、加治屋さんに言われたことを練習してみてるんだけど、どうにもならないっしょ」
「言われたことって何ですか?」
「俺のスキルは【無差別な赤い糸】。重力を操る能力なのは知ってるっしょ? 加治屋さん曰く、相手を拘束したり軽くしたりするだけでなく、もっと画期的な使い道があるって言われたっしょ。そんなこと言われても何も思いつかないっしょ!!」
ヤンキーのように見えるが、溢れ出る優しさがいい人感を消せていないこの男性が瀬間或人だ。重力操作というのは重力を発生させて相手を動けなくしたり、触れた相手を反重力で浮かせたりすることができる能力である。重力操作は原理が分かっていない難しいスキルでもあるため、やろうと思えば色んなことができるスキルではあると思うのだがな。
「うーん、とりあえず、突っ込んでいく意思が大事なんじゃないですかね?」
「どういうことっしょ?」
「生徒の生徒による生徒のための合宿」
「リンカーン合宿!!」
「あっ、タッチ決済しないと、QRコードはここかなー? ピッ、ドーミーソー」
「Cメジャーコード!!」
「お客さん、実はここから見えるビューは最高なんですよ。放送席ー、放送席ー、今日のヒーローの登場です!」
「ヒーローインタビュー!! さっきから俺に何をやらせてるっしょ!!」
「何とは何ですか!! 瀬間先輩のために頑張ってるんですよ!!」
「突っ込んでいく意思って、ツッコミのことではない気がするんだが、ごめんっしょ……」
瀬間先輩は押しに弱い。加えてツッコミ体質だ。いつもはツッコミ役をするから、この人の前だと自然とボケちゃうんだよなー。
「瀬間先輩は優しすぎるんですよ。もっと、重力を身に纏った質量パンチみたいな感じで相手をぶん殴るとかしてみたらどうですか? それに、大きい質量を持った重力の魔力弾を放つとか」
「重力を身に纏うことなんてできないっしょ。自分の質量を大きくしたらパワーは出るかもしれないけど、その分自分が重たくて動けなくなるだけっしょ。大きい質量を持った重力の魔力弾もそのまま下に落ちるだけっしょ」
「そうですよねー。それならば、相手に当たった瞬間に質量が重くなればいいんですかね」
「……相手に当たったときに質量が重くなるか……ありがとうっしょ八雲。何かを掴めたかもしれない。なんとか頑張ってみるっしょ」
再び自分のスキルと向き合い始める瀬間先輩。なんやかんや言って、真極に立ち向かうために頑張ってくださるのは嬉しいことだな。別れ際に新しいスキルを打ち明けた後、俺が再び広場を散策していると愛染さんを見つける。先ほどにおける俺の斎賀を参加させる意見を後押ししてくれたお礼を言うために近づいた。
「愛染さん、先ほどはありがとうございました。斎賀のことを、俺のことを信じてくださって嬉しかったです」
「いやー、礼には及ばん。お前さんたちの覚悟をしっかりと受け取っただけじゃからのぉー。しっかりするところはしっかりとする。お前さんはやはり似ておるな。隼人よ、元プロの決闘者、仮面男のホークを知っておるか?」
「はい、知ってますよ。エンターテイナーって呼ばれている人ですよね。愛染さんも知っているんですか?」
「そりゃもちろん。決闘者の間でも有名だったからのぉー。それに、実はホークはわっしの弟子と言うべき存在なんじゃ。ホークの体術を鍛えたのはわっしじゃからのぉー」
「そうなんですか!? 一体どうしてですか?」
「あやつの決闘者としての覚悟、皆を楽しませたいという思いと勝ちたいという思いは人一倍強かったんじゃ。その思いに惹かれたまでの話よのぉー」
「……愛染さんはホークの正体を知っているんですか?」
「知っているとも。その質問をすると言うことは隼人も知っておるということかのぉー?」
「はい、俺の自慢の父さんですから」
「よく言った隼人! お前さんも確実にあやつの熱い血を受け継いでおる。八雲と言う名前。その難しいスキル。わっしの考えは当たっておったのぉー」
俺の父さんが愛染さんの弟子だったなんて奇妙な縁もあったものだ。今は父に代わって俺が愛染さんに教えを乞うているのだから。
「嬉しいです。ここにも父さんのことを知っている人がいてくださって。父さんも喜んでいると思います」
「ありがたいのぉー。鷹矢の見舞いには何度も訪れたんじゃが、急な長期任務のせいで、死に目と葬儀には顔を出せんかったんじゃ。じゃが、元気なお前さんを見ていると、あの頃の鷹矢のことを思い出すのぉー……おっと、いかんな。年寄りになると、すぐに辛気臭くなる。今からは大事な任務があるからのぉー」
「いいじゃないですか。どんなときにだって涙は出るものですよ。泣くのを我慢することで強くなることはあっても、泣いて弱くなることはありませんから」
「ふっ、たわけ。泣いてなどおらぬわ……ただ、どうしようもなく悲しいだけじゃ。かっこいい男は人前では涙を見せんのじゃ……少しあっちにいってくるぞ。じゃあの、隼人よ。本当に立派になったのぉー……」
「はい、ありがとうございました」
人前で涙は見せるものじゃない。でも、泣いてもいい瞬間はあると思うんだ。苦しいほどに叫んで喉を枯らしても、涙を枯らしてはいけないのだから。




