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第五十九話 真極紅蓮の人生 (side?)

 これは真極紅蓮しんごくぐれんと言う男のお話である。真極紅蓮は真極家の一人っ子であり、両親からのたくさんの愛情を受けて育った。昔から頭がよく、テストでは定期的に百点を取って両親を喜ばせていた。そんな真極を持つ両親ではあったが、決して真極に何かを強要させることはなく、真極の思いを尊重させた。何不自由なく育ったといっても過言ではない紅蓮。

 そんな紅蓮が高校生になった頃であった。紅蓮と同じくらい、いや紅蓮よりも勉強ができる人間が現れた。その人間は毛利もうりと言い、イケメンでスタイルも良く、運動神経も抜群の文武両道の男であった。紅蓮は動揺したが、同時に感心した。どうすればここまで勉強ができるようになるのか、紅蓮は気になっていた。ある日紅蓮は意を決して話しかけることにした。


「私は真極紅蓮と申します。毛利くん、学園一位であるあなたにお聞きしたいのですが、どうすればそこまで勉強できるようになるのですか?」

「残念だけど、秘密だね。教えてしまっては僕が学年一位になれないからね」


 至極当然だと思った。自分が生きている中で編み出してきた勉強方法をそう容易く人に教えられるはずがない。紅蓮は負けじと頑張ることに決めた。紅蓮は勉強が好きだった。だから、何分でも何時間でも続けられた。どんどん毛利との差がなくなっていくことに喜びを感じ、紅蓮はますます頑張った。

 そして、その日がついにやってきた。紅蓮が毛利を超えて、学園で一位になる時が来たのだ。周りの人間は紅蓮を褒め称えた。無論、毛利のことも褒め称えていた。一位と二位のライバル同士とも言える人たちの戦い。周りは二人の様子を固唾を飲んで見守る。


「ようやく毛利くんに勝てて嬉しいですよ。次も負けるつもりはありませんが、お互いに頑張りましょう」

「……」

「うん? 毛利くん? 毛利くん? どうかされましたか?」

「……おしまいだ。俺が二位になるなんておしまいだ。こんなに頑張ってたのに……死ぬ気で頑張ってたのに……どうしてだよおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 そう叫ぶと毛利は電池の切れたおもちゃのようにばたりと倒れた。あの温厚な毛利がいきなり叫んだかと思えば倒れてしまった。その場は騒然とした。倒れた毛利は母親に連れて帰られた。そして、その日から学校に来ることはなかった。負けてしまったショックで来れなくなったのか、紅蓮は胸が痛かった。勝手にライバルだと思っていた。やっと、自分よりも勉強のできる人間を見つけた。一緒に頑張っていきたかった。これを機に仲良くなって色んな話をしたかった。

 しかし、次に紅蓮が聞いた毛利の情報は毛利の訃報であった。さらに、紅蓮の耳に入ったのは、毛利の両親が毛利を虐待していたというニュース。毛利は好きで勉強をしてたのではなかった。ただ単に勉強ができる人でもなかった。勉強をして一位を取らなければ虐待を受ける生活にあったのだ。紅蓮は落ち込んだ。自分が一位を取ってしまったばかりに毛利は亡くなってしまったのだと。


「真極、今回の件はお前のせいじゃない。あんまり気を落とすなよ」


 落ち込んでいた紅蓮に声をかけてくれるものは多かった。ただ、この時に判明した事実。誰も、紅蓮さえも知らなかった驚愕の事実が明かされることとなる。こんなことが起こらなければ、気が付くこともなかったかもしれないこと。そう、紅蓮は普通の人よりも何かがずれていたのであった。

 紅蓮は思った。毛利の勉強できなければ死んでしまうという思いは、紅蓮の勉強で毛利を超えたいという思いよりも弱いのか。そうなのかもしれない。だって、普通ならばそこまでして頑張った毛利の方が一位を取れるはずだ。だというのに自分が勝った。それならば、そういうことなのかもしれない。

 いや、待てよ。そもそも自分と毛利は平等であったのか。同じ条件の下で思いを勝負していたのか。そうではないだろう。思いと言うのは見えない力だ。では、どうすれば思いを可視化できるだろうか。そうだ。鍛えよう。自分は勉強はできるが運動はからっきしだ。こんな自分でも強くなることができるのであれば、力は人間の中で平等になり得る要素になるだろう。そうして平等な条件が揃えば、思いが可視化できるのではないか。どちらの思いが強いのか勝負できるのではないか。


「母上、父上、ジムに通って自分を鍛えたいと思うのですが、よろしいですか?」


 両親は二つ返事で認めてくれた。それから紅蓮は自分を鍛えるようになった。こんな弱い自分でも強くなれることができるのであれば、全人類は強くなることができる。そうして全人類が平等になれば思いの力が初めて可視化される。真極は自分の目的のために努力を惜しまないという努力の天才でもあった。

 気が付けば紅蓮は体術では他に引けを取らないくらい強くなり、貧弱であった土属性のスキルも、ゴーレムを自由に創造して操作するという強いスキルを獲得したことで変わっていった。紅蓮は人知れず、最強の一角にまで上り詰めていた。

 それでも紅蓮の本業は勉強、研究である。紅蓮は自分の力を隠しながら、ひたすらに研究をしていった。大人になった紅蓮は科学者になり、ここでも研究を続けた。紅蓮は科学者としても優秀だった。どんどん結果を出していき、その部署のエースとなった。


「これから、よろしくお願いします!!」


 ある日のことだ。紅蓮の元へそよぎと言う名の新人が入ってきた。体は貧弱でスキルも弱く、勉強も紅蓮より劣っていた。それでも可愛い後輩。紅蓮はしきりに声をかけていた。あるとき部署の中で新しい企画案を競うイベントが予定された。もちろん紅蓮は参加した。これは毎年恒例のことで今年も紅蓮の案が採用されると思った。新人である梵も企画案を出すようだ。紅蓮は負けられないと思った。

 ところが、当日に採用されたのは梵の案。紅蓮の案は惜しくも不採用となった。ただ、反論はできなかった。紅蓮の目からしても梵の案の方が完璧だと思ったから。紅蓮は梵へ聞くことにした。


「梵くん、君はどうしてここまで完璧な案を作れたのかな?」

「それは、真極さんを尊敬していたからです。ここで僕の案が採用されれば、真極さんに恩を返せると思ったんです。そのために頑張りました」


 もう一度言おう。紅蓮は何かがおかしい。自分は明らかに全てにおいて梵よりもずっと上だったはずだ。それなのに梵の自分に恩を返したいという思いが私を超えた。そんなわけがない。こんな貧弱でスキルも弱い梵の思いが反映されるわけがない。それならばあのときの毛利は私に勝っていたからだ。もはや自分でも訳が分からなかった。考えていることは支離滅裂。何の脈絡もない。

 ただ、紅蓮は自分の人生を否定されたような気がした上で。力で平等になった上で初めて思いの力が発揮される。それを否定された気がした。毛利の思いを否定されている気がした。ここで言うのは三度目だが、紅蓮は何かがおかしい。紅蓮は毛利の無念を晴らしたかったわけではない。自分が証明しようとしたことを否定されたことが嫌だったのだ。

 それから紅蓮はひたすらに研究を重ね、世界に名を轟かせるほどに有名な科学者となった。自分と向き合わずに何かを成し遂げてしまった。納得する手段はいくらでもあった。負の感情よりも正の感情の方が強い。あの時の毛利は例外だった。力で平等になった上で競わなくても思いの力は存在した。それらと向き合わずに何かを成し遂げてしまった紅蓮は孤独になった。誰も私の考えを分かってくれない。私は孤独だ。


「そうだ……それならなみんなへ証明すればいいんですねー。この世の全員を強くすれば、思いの力が可視化されるはずなんです。それを必ず証明して見せます。私は空虚で孤独な人生ではありません。私の生きている意味は、そこにあるんですからねー」


 そんな紅蓮の思いを受けて作られたのが忌まわしき研究所だ。心の奥底で自分の意味を証明するための野望の火が紅蓮のように燃え盛っていた。最後に一つ言おう。これは、紅蓮を肯定するお話ではない。


---


 とある政府の関連施設のとある一室。明かりのついていない薄暗い部屋の中には六人もの人がいた。


「いやー、ついにこのときが来ましたねー。待ちに待ち望んだこのときが」

「ようやくだ。どれだけ待たされたと思っている」

「僕も嬉しいです。紅蓮の願いが叶う日が来ることが」

「……うー」

「俺は暴れることができれば何でもいいぜ。弱い奴は淘汰される、それだけの話なんだからよ」

「馬鹿者。どんな人間でも強くなることができる。それを証明するための戦だ。紅蓮様の思いが可視化される世界へ一緒に行けることができること、光栄に思います」


 言葉では協力しているように見えても、一人一人に違う思いがある。紅蓮はそれでもよかった。どんな形であれ、夢を叶えるために一緒に行動してくれるなら何でもよかった。


「それでは作戦の方を改めて説明しようと思いますねー。邪場じゃばさんが市内、終道しゅうどうさんが小野道おのみち望遠ぼうえんさんが厳宮島げんみやじまを制圧します。そして、私とサード、フォースの三人で夜月家を襲おうと思います」

「全く、紅蓮が関係者にあったせいで、こっちの動きは完全に読まれていると思うぞ。作戦日を変えようにも、強者が集まって俺たちの首が締まるだけだ。本当にやらかしてくれたな」

「しかし、終道さん。どちらにせよ日本中にいる強い人間と戦わなければいけないのは事実です。逆に強者が集まらないうちに島広を一旦制圧できるのはいいことでしょう」

「……うー」

「望遠様の言っていることを実現するためにも、まずは夜月家を制圧する必要があるだろうな。龍道を人質に取ってしまえば、迂闊にこちらへは手を出せないだろう」

「俺は暴れたくてたまんないぜ。あのくそ野郎。俺の意識外から一発くらわしやがった。あんなことをされたのは初めてだぜ。俺はあの野郎を倒すために動くからな」

「サード! いい加減にしろ!! 夜月家の制圧が一番だと言っているだろうが!! 貴様のくだらないプライドに、紅蓮様を巻き込むな」

「ああん? くだらねぇプライドだと? もういっぺん言ってみろや。【月喰みの狼王ルプスレクス・エクリプス】」

「ふぅー、これだらから獣は嫌なんだ。獣のしつけはしっかりとしないとな。【光と闇の破片ケイオスクラック】」


 二人がスキルを発動。一触即発。二人の魔力が室内を揺らす。二人が魔力を凝縮させて動き出そうとした時だった。


「少し、静かにしてくれませんかねー。今、色々と考えているんですよ。こんな大事な作戦の前だというのに、お仕置きが恋しいですか? サード、フォース?」


 眼鏡を光らせた紅蓮が禍々しい魔力を放つ。その魔力に包まれた二人はピタリと動けなくなり、呼吸が荒くなる。しばらくして動けるようになった二人は矛を鞘に納めた。


「申し訳ありません紅蓮様!! あなた様のために、サードを矯正しようしただけなのです!! どうかお許しください!!」

「けっ!! 俺はお仕置きなんて別にいいけどよー。紅蓮の言う通りにはしとくぜ。俺が紅蓮に従ってんのは、あんたの元でなら暴れられるからってことを忘れなんよな!」


 終道那由多しゅうどうなゆたが心の中で嘲笑する。サードなんて実際は紅蓮が強すぎて勝てないと思っているから従っているだけの傀儡くぐつのくせにと。望遠絶我ぼうえんぜつがは困り果てた顔でため息をつく。フォースの忠誠は見かけだけで、心がこもってはいない。ただ、紅蓮が怖いから従っているに過ぎないことを分かっているからだ。邪場魚空じゃばうぉっくは喋らない。化け物だからこそ喋れない。そこに感情はなく、黙ってその場に佇んでいる。


「まあいいでしょう。今日は大事な日です。少しのおいたは大目に見ましょうかねー。それよりもみなさんへ報告があります。作戦を一部変更しようと思います。三人はそのまま各地を制圧してもらいますが、私とサードとフォースは『真っ新な大地エンプティアース』に居を構えようと思います」

「おいおい紅蓮。まさかセカンドを待ってんじゃねぇだろうな? 俺がいれば十分だろう?」

「これはサードにとっても良いお話ですよ。『真っ新な大地エンプティアース』で待っていれば、セカンドと一緒にいたあの少年も一緒に来ることでしょう。あなたはそこで彼と戦えばいい」

「ちっ!! そういうことなら仕方がねぇか。大人しく従ってやるよ。俺の一番の目的はあいつに借りを返すことだかんな」

「紅蓮、夜月家への攻撃はどうするつもりだ? 龍道を人質に取らなければ、流石に厳しいぞ」

「大丈夫です。心配ありません。夜月家には私のゴーレムの一部を向かわせます。それに、『真っ新な大地エンプティアース』に居を構えていれば、夜月家を守護している方々がこちらへ派遣されるでしょう。万全な状態の城を攻めるよりも、誘い出して待ち構えた方が得だとは思いませんかねー?」

「一理ありますね。そちらは紅蓮に任せます。どちらにせよ、私たち三人は自分の任務を全うするだけですので」

「……うー」

「では、そのようにしましょう。配下の者たちを分散させますので、しっかりと役に立ててください。それでは各々の場所に向かいましょう。理想郷がそこにまで迫っていますからねー!」


 皆が一斉に動き出す。あってないような協力関係。このチームを繋いでいるのはひとえに紅蓮の強さである。そんな肝心の紅蓮の頭はセカンドのことで埋め尽くされていた。夜月家を襲撃するという目的の優先順位を落としてでも、セカンドが欲しかった。島広の各地に散る蠢く影。今宵、この地に混乱が訪れる。 

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