第五十七話 作戦会議
強化合宿の四日目。昨日から始まった臨時講師たちによる指導は中断され、俺たちは合宿所の大広間に集められていた。用件は簡単だ。問題を起こして姿を消したと思われた真極紅蓮が島広の地に再び現れた。教師と夜月家へ最初に連絡を取った俺たち。俺たちの話を聞いた人たちはすぐに動き出し、警察に連絡。島広にいる特殊部隊が出動することになった。
『真っ新な大地』からは消息を絶っていたことが分かったが、近辺の街の監視カメラの映像から真極が島広に訪れていることは明確となった。今は特殊部隊のお偉いさんらしき人物と夜月の父親である龍道さんが天岩学園の生徒に説明をするために来ていた。
「初めましてだな、天岩学園の諸君。俺は特殊部隊のリーダー、綾小路波濤と言う。よろしく頼む」
「初めまして。私は夜月家の現当主、夜月龍道と申します。よろしくお願いする」
「まずは、君たちの強化合宿を中断させてすまない。それほどに緊急の事態なのだ。ここにいるみんなは真極紅蓮と言う名前を聞いたことがあるか?」
「確か、有名な科学者さんでしたわよね。何か問題を起こしてしまい、人知れず世間から去っていったという風に認識しておりますの」
「うん、世間の評価はそうだろうね。彼は世界中に名を轟かす立派な化学者だ。表向きはね……」
「表向き……ですか?」
「ああ、真極紅蓮は立派な科学者である反面、マッドサイエンティストでもあった。あいつは世間の前ではいい顔をしていたが、裏では子供たちを使って非人道的な実験を行っていたのだ」
辺りから大きなどよめきが起こる。真極紅蓮とは世間一般的な認識では、日本が世界に誇る偉大な科学者の一人だからだ。メディアにも出演しており、物腰の低い礼儀正しいおじいさん。それが真極がかぶっていた化けの皮であった。驚くのは至極当然のこと。俺だって獅子王先輩から話を聞いていなければ自分の耳を疑っていたことだろう。
「どんなことをしていたのかは詳しく話せないが、彼は夜月家の北部にある『真っ新な大地』と呼ばれる場所で実験を行っていたんだ。目的は強い人間を作り出すためだと聞いている」
「それでは、『真っ新な大地』は非人道的な実験施設の跡地と言うことでございますか?」
「その通りだ。信じがたいことだが、これは事実だ。我々警察と夜月家は何とか公表しようとしたが、政府に勝てるはずもなく、もみ消されてしまった」
「その代わり、非人道的な実験に関わっていた政府関係者の粛清と被害者への手厚い支援を取引にしたんだけどね。だが、約束はきちんと守られていなかったみたいだ。真極を発見した者によると、コードネームで呼ばれる君たちと同い年くらいの少年と少女が同行していたらしい。誠に遺憾だよ。二度と同じことを起こさないようにするために尽力したというのに、悲劇が繰り返されてしまうとはね。私は真極を捕まえて、政府が再び関わっていることが確認できた場合、全てを暴露するつもりでいる。約束が守られていないのであれば、こちらも秘匿する義務はないからね」
全てを暴露するか……そんなことをすれば夜月家も危なくなるんじゃないのか。いくら被害者のために尽力したとはいえ、隠蔽に加担したと思われてしまうのは必然だ。
「龍道さん、本当に暴露しても大丈夫なんですか? その後の被害者や夜月家のケアはどのように考えられているのでしょうか?」
「私はね、真極が悪さをしていることを知ったあの日から、ずっと捕まえるために頑張っている。彼を捕まえたときにどのようにするべきかは何度も考えて計画している。政府との会話は録音してあるし、暴露するときに協力してくださる人たちをたくさん募っている。全ては真極と政府が責任を取るようになっている。心配してくれるのはありがたいが、私をあまり舐めるんじゃないぞ、少年」
「承知しました。余計な口出しをして申し訳ありませんでした」
「君の意見はもっともだ。俺だって今日までずっと頑張ってくれた龍道さんが被害を被るようなことはあってほしくない。俺は政府の飼い犬ではない。この国を守るために特殊部隊へ入隊したんだ。……俺がリーダーになる前の話だ。俺は『真っ新な大地』に関わっていてな。俺が到着したときには全てが遅かったんだ。こんな悲劇を二度と繰り返さないために俺も頑張っていた。だから、今回の真極の野望こそは必ず阻止したいと思っている。そのために、君たちの協力が必要なのだ」
「私たちの協力ですか?」
「現在、島広は隣県と協力して、島広を封鎖しようとしている。そうして真極が逃げられない間に全国から強者を集結させ、事件を解決する計画だ。しかし、そんなことは真極も分かり切っているはず。あちらが何もしてこないわけがない。封鎖は午後までには完成するが、強者たちの終結には時間がかかる。少なくとも今日は無理だ。つまり、真極が動くとしたら人員が少ない今日の可能性が高い。そこで、天岩学園の諸君に協力してもらおうということだ。役目は簡単。島広を真極から守ることだ。はっきりと言おう。君たちは強い。戦闘ランキング五十位以内となれば、一般の特殊部隊の隊員よりも強いだろう。シングルとなればなおさらだ。ただ、危ないことになるのは必然だ。よって、危険を承知で協力してくれるものを集いたいと思う。協力してくれる人はこちらへ来てくれ」
騒がしくなる生徒たち。俺は綾小路さんの元へ集まる。俺の地元で悪さをしようとしているんだ、当然協力するに決まっている。それに、真極に関わる事件の全貌をほとんど知っている身としては、どうにかして真極を捕まえたかった。
他の者たちも動き始める。戦闘狂ではあるが、国を守ろうとして戦闘希望者になったものも多い。何より、自分の力の正しい使い方を天岩学園の生徒は理解している。自分の危険を顧みず参加する生徒は多かった。
「これで協力してくれるものは全員だな。みんな、本当にありがとう」
「……待ってくれっす!! 俺も参加するっす!!」
「待つんだ斎賀。気持ちは嬉しいが、今の君では危険すぎる。参加することは認められない」
勇気を出して参加することにした斎賀であったが、斎賀の力を知っている天岩学園の教師が呼び止める。斎賀の気持ちは大事ではあるが、スキルを使わないものを同行させるわけにはいかない。そんなことは分かっている。しかし、斎賀は言った。自分のスキルが役に立つ場面は必ず来ると。斎賀の覚悟は決まっている。前と同じだ。俺は斎賀を信じる。
「待ってください。斎賀は最近では自衛も出来るようになっています。斎賀は必ず、この戦いにおいて役に立ってくれます。どうか、この作戦に参加させてもらえないですか?」
「だが、私も教師としての責任がある。本来なら、シングルでも参加させたくないぐらいだ。下手したら死ぬかもしれないんだぞ」
「俺が責任を取ります。斎賀が必ず無事で帰ってこられるように俺がサポートします。それでは駄目ですか?」
「隼人くん、先生の言うとおりだ。本来なら子供たちを作戦には参加させたくない。それでも、強いからという理由で許可を出しているんだ。先生が止めるほどに斎賀くんには実力が不足しているんだろう? それならば私も認めることはできない」
「そこを何とかお願いできませんか?」
「百も承知だろうが、あえて言おう。これは遊びではない。いくら君の意見でも承諾することはできない」
「それなら、わっしが許可をしよう」
「あなたは……」
大広間に入ってきたのは臨時講師の三人。三人は既に作戦へ参加することが決まっている。夕方には島広の各地にそれぞれが赴くことになっているのだ。愛染さんは俺と斎賀を交互に見た後、龍道さんに話しかける。
「この二人の覚悟は本物じゃ。同じ男なら、男の覚悟ぐらい分かるじゃろう。斎賀は大丈夫じゃ。臨時講師として携わったわっしが保証する。どうか、斎賀を、隼人を、信じてくれないじゃろうかのぉー」
「……ふぅー、あなたにそこまで言われたのなら許可するしかないじゃないですか。本当に斎賀くんは大丈夫なんですね?」
「大丈夫じゃ。わっしは斎賀の力を信じている。必ずこの戦いにおいて役に立つじゃろう」
「波濤さんはそれでいいですか?」
「龍道さんと愛染さんが許可をしたのなら、俺から言うことはないですよ。それに俺も、男の覚悟ぐらい分かりますから。それではこの場に協力者が揃ったため、相手の判明しているスキルから発表していこうと思う。まずは、サードと呼ばれる少年。彼のスキルは【月喰みの狼王】。狼の力を手に入れるスキルだと思ってもらえればいい。尋常じゃない攻撃力と並外れた耐久力が特徴だと思われる。そして、フォースと呼ばれる少女。彼女のスキルは【光と闇の破片】。光属性と闇属性の二つの属性使いだ。光属性の耐性と闇属性の弱体化はバランスがいい。気を付けて挑め。そして、真極紅蓮。奴のスキルは【叡智の集大成】。固有の空間を持ち、創造したゴーレムを保管することができる。よって、戦力がどれくらいなのかは分からん。あいつが今までに作ったゴーレムの数は見当がつかない上に、どれくらいの配下と協力者がいるのかは判明していないからだ。しかし、創造されたゴーレムの強さは強力だ。戦闘ランキング五十位以内でないと太刀打ちできないほどにな。真極のゴーレム軍団にはシングルとシングル手前の人間をぶつけたいと思っている」
真極はスキルだけじゃない。獅子王先輩に体術を教えたというのであれば、本人の強さも間違いなくシングルクラス。それを生かすためのスキルを隠し持っていてもおかしくないくらいだ。真極はマルチホルダーと考えたほうがいいだろう。
「俺たちの戦力だが、四つに分散したいと思う。一つ目は厳宮島。二つ目は小野道。三つめは市内。最後に夜月家周辺だ。真極が政府と関わっているのなら、あらゆる証拠を持っている夜月家を襲撃する可能性は高い。それと……信憑性の高い情報源によると、真極は『真っ新な大地』に居を構えている可能性がある。万が一のことも考えて、俺たち特殊部隊は市内の方を守ろうと考えている。基本的に住民のことは気にしなくていい。警察からの呼びかけで全員夜には避難施設への移動が義務付けられている。つまり、夜に外に出ている奴がいれば、そいつは高確率で敵だということになる」
「真極は無差別な殺しはせず、私たち夜月家への襲撃と島広全域の支配が目的だと考えている。そのため、主要な箇所である厳宮島と小野道と市内、加えて夜月家周辺で暴れるのではないかと推測されている。他の地域にも避難施設には強者を送っている。何かあれば愛染さんがすぐに駆け付けれるようにもなっている」
「わっしは基本的に小野道におるが、敵がいない場合はすぐに移動する。敵を見つけたら必ず警察に連絡するんじゃ。戦力の分布によってはわっしが移動せんといけんからのぉー」
「俺は市内を守っている。俺は探知能力に優れているのでな。市内に送られてきた敵の刺客を見つけ出そうと思っている。単独で動くため、市内に配備される人は綾小路さんに従ってくれ」
「あーしはここを守るかんねー。ここに配備される人は天岩学園の先生たちに従って。てゆーか、ここを狙うんならもう刺客が潜伏してるかもしんないから気を付けてよー。ってことで、みんなよろよろー」
臨時講師たちは西、中央、東に分散しているみたいだ。住民の方々を気にしなくていいのであれば、気を付けることが少なくてやりやすいな。後はシングルやその手前の人がどこに配置されるかだが。
「咲耶さん、獅子王、最上、荒武、瀬間、八雲、小波、斎賀は夜月家で待機してもらおうと考えている。夜月家を守るのはもちろん。敵は『真っ新な大地』にいる可能性が高いからだ。それに、夜月家には移動スキルを持っている方がおられる。何かあれば、その方に遠距離移動をしてもらうため、今呼ばれた人たちは夜月家で待機してくれ。以上で作戦会議を終了する。後は教師の方々に指示を仰いでくれ。みんなの健闘と無事を祈っている」
移動系スキルは執事の一人が持っており、時間がかかるスキルではあるが、島広の範囲ならどこにでも移動できる。ただ、近くても時間がかかるため、『真っ新な大地』に現れるのであれば走って向かった方が良さそうだ。
それと、信憑性の高い情報源と言うのは獅子王先輩のことだろう。真極は目的が変わったと言って、いきなり襲い掛かってきた。獅子王先輩に固執しているのは間違いない。獅子王先輩を誘っているというのであれば、必ず『真っ新な大地』に再び姿を現すことだろう。突如として始まった真極と島広の総力戦。必ず真極を打ちのめして、この地に平穏をもたらしてみせる。




