第五十話 強化合宿と謎の人間
「いやー、まさかですね。こんなに早くなるとは思いませんでしたよ」
「俺もだよ。今年は忙しくなると思っていたから、帰る予定はなかったんだがな……地元の県に」
俺たちは今フェリーに乗って合宿所に向かっている。多くの人は三階の外席で写真を撮ったりして景色を堪能しているが、その光景に慣れている俺たちは二階の室内でゆっくりとしていた。どうして地元付近に帰ることになったのか、遡ること三週間前の話である。
「対戦ありがとうございました夕凪先輩」
「いえ、こちらこそ。とても助かりましたよ。流石は八雲くんですね」
俺は決闘をしていた。ランキングの変わらない俺が決闘をする意味はあるのかと言われれば、その意味ではない。しかし、強くなるためには強者との戦いが必要であった。体育祭でシングルに勝った俺は特に上位勢から多くの対戦を申し込みされることとなった。味方であった人たちや敵チームであった人たち、いつの間にやら五十以内の人たちとは全員対戦をしていた。
俺の評価はシングルに最も近い人間の一人として固まっていたのであった。ただし、俺は最下位であるためお互いにポイント変動なしでの戦いにしてもらっている。その名に恥じず、今日も戦闘ランキング十五位になった夕凪先輩とバトルをして勝利したところだ。
「夕凪先輩の【狂界線】がもっと扱えるようになれば、俺も危ないんですけどね」
「やはりそこが課題ですね。【情報遮断】もいいのですが、そちらを上手く扱えるようになった方がよりシングルに近づけるでしょう。それにしても、八雲くんはお強いですね。今のままだと勝てる未来が見えません」
「そう言っていただけると嬉しいです。けど、俺は夜月を超えないといけないので、まだまだこれじゃ駄目なんですよ。一緒に頑張っていきましょう」
「はははっ! 相変わらずですね。はい、頑張りましょう。ところで、八雲くんは強化合宿には行くのですか?」
「強化合宿……ああ、そういえばいつも七月でしたね。テストが終わった後、夏休みに入る前に行われるんでしたっけ」
強化合宿とはこの天岩学園の戦闘希望者におけるイベントの一つである。天岩学園と連携している合宿所に赴き、その合宿所がある県の強者を招き入れ、一緒にトレーニングをすると言うものだ。毎年、有名で強い方が数人来られるため、合宿に参加する人は割かし多い。
俺は前年度は行っても何もすることがないと思ったため参加していない。確か去年の合宿所は都京だったはずだ。観光したい人も多く、凄い人数で抽選になったほどだ。
「はい、その通りです。しかし、今回は体育祭で熱が高まっているため、テスト終わりは決闘に専念したいという方が多いんですよ。ちなみに僕も今回は参加しません。既にやるべきことが見えていますからね」
「そうなると、体育祭参加者はほとんど不参加っぽい感じですね。一年生も参加する人は毎年少ないですし、今年の参加者はほとんどいなさそうですね。俺も参加しないかもしれません。俺も一応やることは見えていますので。ちなみに合宿所はもう決まっていますよね? 今年は一体どこなんですか?」
「それが、今年は島広みたいです。厳宮島に合宿所があるらしいね」
「ええっ!? 島広の厳宮島だって!?」
「ううん? どうかされたんですか?」
「……島広は俺の地元なんですよ。それに、実家は厳宮島から一時間もかからないところにあるもので」
「それは凄い偶然ですね。自由時間もありますし、帰郷も兼ねて参加されてはどうですか?」
「うーん……少し考えてみます。別に地元が嫌とかではないんですがね」
その日は合宿の話をして解散した。それにしても、よりもよって島広か。別に嫌ではない。嫌ではないのだが、次に地元に帰るときは夜月を超えてからだと密かに決めていたのだ。夜月に勝って、夜月家の両親や俺の母親、亡くなった父親に報告しようと思っていた。
でも、それは俺のこだわりに過ぎない。ここで合宿所が島広に決まったのは何かの縁だろう。会える時に、会える人たちには会っておいたほうがいい。俺は合宿に参加することを誓い、ポケットの中に父との思い出をしまうのであった。それから次の日。テスト週間に入った俺は中間テストのメンバーと共に勉強をしていた。
「そういえばみんなは合宿の話は知っているか?」
「うん、知ってるわよ。でも、今回はうちは行けないわ。研究の方が忙しくなるから」
「あたいは戦闘希望者じゃねぇからな。元々行ける権利も持っちゃいねぇよ」
「わたくしは行きますわよ。少し、自分の力に悩んでいますので、心機一転したいと思いますわ」
「私は悩みどころですね。自分のやることは見えているのですが、場所が地元ですから帰りたいという思いはあるんですよ。そういう八雲先輩はどうするんですか?」
「俺か? 俺は帰ることに決めた。まあ、去年は帰っていないからな。久しぶりに夜月の両親や俺の親にも顔を見せておきたい」
「それなら私も参加しますよ。私がいた方が、先輩も気を使わないでしょうし」
「助かるぜ。だが、今回の参加者はかなり少ないって聞くぞ。実りあるものになるかは分からんが、それでもいいのか?」
「大丈夫ですよ。参加者少ないって言っても、最上先輩や瀬間先輩は参加するみたいですし」
「最上が参加するのか。珍しいな。なんか言ってたか?」
「最上先輩は体育祭での熱い戦いに感動したらしく、自分もイベントに参加したくなったそうです。瀬間先輩は都合で参加できない間に順位を抜かれて悔しいから、イベントで何かを掴みたいと言っていました」
最上は戦闘ランキング四位の二年生で一番強い生徒だ。一人を好み、マイペースな性格をしているためイベントごとには参加しないと思っていたが、これまた凄い奴が参加することになったな。
瀬間先輩は元戦闘ランキング十位の人だが、現在は十三位だ。体育祭前までは一番シングルに近い人間だったのに、体育祭で成長した人たちに抜かれてしまい順位を落としている。加えて俺にも負けており、とても悔しそうな態度で俺を褒めてくれた。バトルにストイックなだけで全然悪い人ではない。
「荒武も参加すると言ってたし、決闘研究会のみんなはほとんど参加するだろうから意外と面子は揃ってるのかもしれないな。後はどんな人が教えに来られるのか楽しみだな。島広出身の有名人は知っているけど、島広に現在滞在している有名人は分からないからな」
「私の家に確認すれば分かるかもしれませんが、当日までの楽しみにしておきましょう。それよりもまずは勉強です。桜庭先輩、分かってますよね?」
「うええーん! ちょっとは優しくしてよー!」
こうしてテスト週間はあっという間に過ぎていった。一応言っておくが、今回は荒武の面倒は俺が見ている。荒武は目に涙を浮かべながら、獅子王先輩ではないことに感謝していた。
しかし、妥協は許さない。しっかりと赤点を回避してもらうためにそれなりに厳しくした。荒武はいつかのNew荒武の記憶を思い出しそうになりながら、なんとかテスト週間を乗り越えていった。そして、テスト最終日、
「うおおおおー!! 終わった!! これでようやく解放されるんだ! 僕は自由だー!」
「今回は倒れませんでしたけど、凄い喜びようですね。あっ、廊下を走りだしましたよ。八雲先輩だから優しめだと思ったんですが」
「いや、いきなり優しくしすぎるとやる気が起きないかもと思ってな。一日の終わりに簡単なテストをして、採れた点数が低かったら追加で勉強時間を増やしたんだ。案の定、燃え尽き症候群で点数が低かったからな。無理やり火をつけたということだ」
「先輩も中々に厳しいですね。ですが、ここで赤点を取って再試になってしまえば、強化合宿には参加できませんからいい判断かもしれません」
「あ、荒武が戻ってきた。すげぇな、あんなジャンプしてるの中々見ないぞ。みんなで映える写真撮るときか、年越しの瞬間ぐらいジャンプしてるわ」
「勉強のことになるとキャラが崩壊しますよね。それより、こっちに来ますよ。何か用事があるんでしょうか?」
「ごめんごめん。浮かれていて忘れるところだったよ。八雲くん、実は君に会いたいという人がいるんだけど、会ってもらえないだろうか?」
「俺に会いたい人?」
唐突のことで驚いたが、事情を聞いてみれば相手は決闘研究会の一年生だという。その人は今、俺に変わって最弱と呼ばれているそうだ。どうやらスキルを使ってはいるが、スキルの内容が全く分からならいしく、本人も明かしたがらないそうだ。その人が元最弱であった俺に、スキルを使っていなかった時代どのように戦ってきたのかを教えて欲しいというものであった。
「どうか教えてあげてくれないだろうか? 基礎をこなしているのか確認してあげるぐらいでもいいんだ。どうだい?」
「それぐらいならいいぜ。まあ、まずは本人に会ってみないと話は進まんだろうしな。今からか?」
「今からでも大丈夫なら、ぜひともお願いしたい。テストが終われば決闘研究会にいるはずだからね」
「私も顔を出しておきたいので、一緒についていきますね」
学園内はテストが終わって浮かれている人で満ちていた。テストが終われば後は夏休みに入るだけ。好きなことを好きなようにできるこの時期は、何物にも代えがたい特別な喜びがあることだろう。俺も合宿があるが、どちらかというと楽しみなくらいだ。俺も素直にこの特別な時間を満喫させてもらおう。そんなうきうき、ルンルン気分のみんなとは違い、肩を落としてしょんぼりとしている男子生徒が決闘研究会にいた。
「斎賀くん、何をそんなに落ち込んでいるんだい? 何か大変なことでもあったのかい?」
「聞いてくださいっすよ、荒武先輩。俺、今回の強化合宿には出るつもりなかったのに、俺の戦闘の成績を聞いた親が無理にでも参加しろって言ってきたんすよ。せっかくだから参加しろって」
「別に君が参加することで困るような人はいないけどな。何が心配なんだい?」
「だって、別に行ったって教えて下さる人たちを困らせるだけっすよ。どうせ俺、自分のスキルを明かすことはしないっすから。天岩学園の生徒なのに厄介なのがやってきたと思われるだけっす」
「大丈夫だよ気にしなくてもいい。去年参加したけど、人の事情を蔑ろにするような人たちは来ないさ。親御さんの言う通り、せっかくの機会なんだ。参加してみたらどうだ?」
「うーん……ちょっと考えるっす。ありがとうございますっす」
中性的な顔立ちで、焦げ茶色の片目が隠れた髪が特徴的な、内気な感じの男の子。どうやらこの男子生徒が最弱と呼ばれている男の子らしい。
「それよりも斎賀くん。今日は君にお客さんを呼んできたんだよ」
「こんにちは。斎賀でいいか? 俺の名前は八雲隼人だ。よろしく頼むよ」
「あっ、えっ、あっ、や、八雲先輩っすか!? こここんにちは! 自分は斎賀瑛心、決闘研究会の一年生っす!」
「話は聞いているぜ。俺に聞きたいことがあるんだろ? 俺なんかで良ければ教えてやるさ。……ただ一つ、聞きたいことがある。なんで君は戦闘希望者になったんだ? 嫌なら答えてくれなくても結構だ」
「それは……こんな自分でも必ず戦闘で役に立てる場面があると思ったからっす。自分のスキルが役に立つのがここだと思ったからっす。そのために、頑張っているっす……役に立つ場面は来ないかもしれないっすが」
「……なるほどな。いい理由じゃねぇか。俺も必ず斎賀が活躍できる瞬間があると信じている。そのために、まずは自分を信じろ。自分と本気で向き合えない奴は何も成し遂げることが出来ねぇからな。俺も最弱で最下位と呼ばれていたが、帝人先輩を超えて最強になるために自分と向き合うことにした。最強になるってのが死んじまった父親との約束でな。俺は自分のスキルが嫌いだったが、頑張ることにしたんだ。そして今はここまでなんとか這い上がってこれた。斎賀、お前にもできるさ。聞きたいことがあれば教えてやるよ。少しでも役に立てれればいいんだがな」
理由を応えているときの斎賀の目は本気だった。帝人先輩が俺を信じたように、俺も斎賀を信じることにした。帝人先輩がいなかったら俺はここまで強くなれなかった。俺に施しを与えてくれたみんなへの感謝が、俺の心を動かしていた。
「ありがとうございますっす! けど、その、えと、自分のスキルの内容については教えることができないっす。それでもいいっすか?」
「大丈夫だよ。スキルを隠してんのは、唯一の牽制札だからだよな? 隠してることによって相手の注意をスキルの警戒に割くことができる。誰にも話さないのは、万が一にでもスキルがばれたくないから。違うか?」
「そのとおりっす! 仲間のことは全員信用してるっすが、何かあったときに仲間を疑うようなことをしたくないんすよ」
「オーケー、それならまずはスキル発動時の魔力を見せてもらおうか。いつもはその状態で戦っているんだろ? それを見せてくれ」
「了解っす! ふぅー、はあっ! どうっすかね!」
斎賀は俺の時とは違い、スキルを発動することである程度は魔力が上昇している。この学園内では平均的であるが、最弱ほどの魔力ではないだろう。最弱と呼ばれているのは、スキルを発動するだけで一切能力を使わないからか。
「悪くないな。勝てる相手には勝てる魔力量をしている。ふむ、斎賀は俺に聞きたいことがあるんだよな。そっちの方から答えていった方が良さそうだ」
「はいっす。八雲先輩はスキルを使っていない間、どんなことに力を入れていたっすか?」
「基礎的な体力トレーニングと魔力の操作。後は魔力感知、筋肉の動きの注視と言ったところだな。特に大事なのは魔力感知と筋肉の動きの注視だ。これが出来れば、相手がどこを狙ってくるか分かるため、集中防御で対応することができる。それを支えるための体力トレーニングと魔力の操作だ。少ない魔力では身体強化に回せる魔力が少ない。それに、魔力の操作が上手くなれば、最小の魔力で相手を動かせたり、瞬時にガードをして敵のフェイントに対応しやすくなる」
「なるほどっすね! 戦うときに意識していることとかはあるっすか?」
「いかに相手のガードを広げ、集中魔力で薄くなった防御を破るかだな。魔力によるブラフが結構大事だ。それと、反撃をにおわせることで相手の集中攻撃への魔力を防御に回させること。全体攻撃に対しては、しゃがみこんで体の表面積を小さくすることで、全身防御を少ない魔力でも強くすることができる。こんなところかな」
「ほえ~、ためになるっすね。自分がどれだけ考えていないかを思い知らされるっす」
こんなことを言っているが、一年生のころに決闘で勝てたことはない。スキルも発動していない俺は魔力量で圧倒的に劣っているため、こんだけやってもどうにもできないレベルだったのだ。さらに、相手は俺の容姿を怖がって全力で挑んでくるために、隙などはほとんどない。
よって、このままやっても勝てはしないと、早期に諦めて次への対策を重ねていったのだ。そのまま無理して勝負するよりも、次に向けて動いた方が効率的だと思ったのだ。それが俺の一年生の不敗記録ならぬ、全敗記録の真実である。
「他に聞きたいことはあるか?」
「いえ、まずは今言われたことを意識してやってみたいっす。それと俺も強化合宿に参加することに決めたっすよ。実は故郷が島広の東側にあって、ついでに帰ってきて欲しいって言われてるんすよ。自分も親や自分と向き合って頑張ることに決めたっす」
「奇遇だな。俺の故郷も島広なんだ。俺は西側の方だがな。一緒に頑張っていこうぜ」
「はい! 光栄っす!」
その後は斎賀とひとしきり地元トークで盛り上がった後、練習をするためにトレーニングルームに行った斎賀と別れた。そして、俺と夜月がその他の決闘研究会のメンバーと会話を一通り終えて帰ろうした時だった。
「八雲、少し話がある。ちょっと来てくれないか?」
「え? 分かりました」
獅子王先輩から突然声をかけられて二人だけの場所に移動する。斎賀と話している途中でいらっしゃることは確認して、さっき挨拶をしたんだが、一体何用だろうか。
「八雲、単刀直入に言うと、今回の強化合宿に行こうかどうか悩んでいる」
「そうなんですか? 何か用事でもあるんですか?」
「いや、そうではないのだがな……一つ、聞きたいことがある。盗み聞きして悪いが、お前は斎賀との話の中で、『自分と本気で向き合えない奴は何も成し遂げることが出来ねぇからな』と言った。俺はそうは思わない。自分と向き合わなくても、無理してでも成し遂げられる奴はいると思っている。お前は俺の意見をどう思う?」
「……できる人はいると思います。ですが、オブラートに包まずに言えば、その先にあるのは虚しさだけです。周りからの評価は得られるかもしれませんが、自分が心から満足することはないと思います。それは多分、成し遂げたそのときじゃなくて、ずっと後に、悩む時が来ると思います」
訪れる静寂。時間が止まったかのような閉塞感。お互いに目は逸らさない。しかし、何かを隠した言葉と本音の言葉は強度が違う。先に崩れたのは獅子王先輩の表情だった。
「八雲の言うとおりだな。そんなことをしたところで、俺は満足できないだろう。俺は一生後悔をするだろうな。ありがとう八雲、もう少し考えることにする」
「……分かりました。どっちの選択でも俺は獅子王先輩を尊重しますよ」
別れを告げて夜月たちの元へ戻る俺。心の中は獅子王先輩の寂しそうな表情に荒らされて、乱れていた。獅子王先輩があんな顔をするなんて思わなかった。何か本人の中で底知れない葛藤があるのかもしれない。そんなこと、みんなには知られたくないだろう。俺が完璧な笑みを顔面に張り付けると、スマホにメッセージが届いた。相手は帝人先輩からだった。
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「八雲くん、最近の調子はどうかね? 上位勢とたくさん戦っていると聞いたのだが」
「ばっちりですよ。おかげさまで、自分も上位勢の仲間入りをすることが出来ました。ありがとうございます」
「礼には及ばないさ。一番利益を得ているのは私だからね。それよりも八雲くんに頼みたいことがあるんだ。これは、七つのうちの三つ目の問題と捉えてもらって構わない。ただ、この件はできればでいい。個人的に気になっていることだからね。この任務を失敗したところで、全く君の進級には関係のないくらいのものと思ってくれたまえ」
「なるほど……その頼み事と言うのは何ですか?」
「君は今回の強化合宿には参加すると聞いている。さらに、君は島広の出身だともね。島広の人間なら有名な話の一つだよ。『ゼオ』という謎の人間の名前を聞いたことがあるかい?」
『ゼオ』とは七年前くらいに島広で噂されるようになった謎の人物の名前である。そのものは最強であり、世界に名を轟かせる人間であるほどの強さを持っているということだ。なぜ、いきなりそんな噂が出回るようになったのか、正体が誰であるのかは判明していない。しかし、確かに実在したとされる人間なのだ。
同年の七年前に、島広では『真っ新な大地』と言われる日本中で有名な事件が起こった。そこには何かの建物があり、山に囲まれていた場所であったのだが、一夜にして何もない平面に変わったという事件だ。詳しい内容は知らないが、それを引き起こしたのがゼオだと言われている。世界でも最強になった男である帝人先輩は興味があるのだろう。
「知ってますよ。島広では有名ですからね。別にいいんですが、帝人先輩は行かれないのですか?」
「私と言うより生徒会のメンバーは色々と忙しくてね。今回は見送らさせてもらったんだ。ゼオと言う噂は前々から聞いていてね。気になっていた上に、ちょうど合宿の場所が島広になったから調べてみたかったんだ」
「そういうことでしたら俺が調べてみます。ただ、俺よりも夜月や夜月家の人間が詳しいかもしれないので、協力を仰いでもよろしいですか?」
「構わない。今回の任務は極秘ではないからね。それでは期待しているよ。合宿の方も頑張りたまえ」
「はい、ありがとうございます」
生徒会長室を出る俺。……ゼオか。俺も気になって調べようとしたことがあったんだよな。俺がずっとゼオと言う名前の意味を考えていた。そしてたどり着いたのは、ゼロの王。略してゼオなのではないかという推測だ。誰かが突如として覚醒し、『真っ新な大地』の事件を引き起こした。それが俺の見解なのであった。
ゼロと言うのは力のないもの。その力のないもののリーダーがゼオであり、力のないものを救うために覚醒した。ありえない話ではないかもしれないが、ちょっと突飛すぎるよな。それにしても、力のないものか……スキルがあっても上手く扱えない人物であったとも推測できるか……スキルは発動するけど、スキルの内容を見せない島広出身の人間。まさか……ね。




