第四十九話 薄汚れた日常 (side?)
いつからだろうか、生きることは流れ作業だと感じるようになったのは。時間という流れに乗ってくるイベントを適当にこなすだけの毎日。そこに感情の起伏はなく、やりがいもない。ただ、最低限のノルマをこなしていけば生きていける。それが俺の出した結論だった。
起床のベルが鳴る。今日もまた始まる。いつもと変わらない毎日が。俺は気怠く体を起こすと部屋の前に出る。きちんと起きているのかの確認があるためだ。これを破ると、手痛いお仕置きが待っている。
「よし、起きているな。それでは次、033番!! 貴様! なぜまだ起床していない! ドアを開けるぞ!!」
看守らしき人物がドアを開けると言葉を失う。しかし、すぐさま切り替えて業務的な口調で報告する。
「こちらAグループ。たった今、033番の生体反応が失われたことを確認した。対処をお願いする」
この部屋の中にはトイレや寝具と言った最低限の物しか備え付けられていない。おそらく、魔力を凝縮させた何かを使って自分の体に矛先を向けたのだろう。俺は何も感じない。ここではたまに見かける現象の一つだ。逐一反応していては自分のパフォーマンスを下げるだけ。ここでは生きていけない。
看守らしき人物は報告を終えると、すぐさま点呼を再開する。あの看守らしき人物は何を考えて生きているのだろうか。最近考えるのはそんなことばかり。俺には生きている意味が分からなかった。それでも、死ぬよりはましだと思って生きている。全員そんなものだと俺は思っていた。だから、みんなに問いたかった。あなたはなぜ生きているのか。答えは俺とは違うのだろうか。
点呼が終了した俺は着替えを済ませて食堂に向かう。ここでも時間は厳守。加えて、何時から何時までの間に食べないと、これまたお仕置きが待っている。力をつけさせるためか、ご飯は普通なことが何よりもありがたかった。
「むっ? 134番!! 135番!! 今、何をした? 135番、その手に持っているものを見せてみろ!!」
どうやら、134番が食べられなかったご飯を代わりに135番が食べてあげたようだ。馬鹿なことを。そんなことが見つかれば、お仕置きが待っているだけなのに。ここでは助け合いなど不要だ。自分が生きてさえいればそれでいい。他人を気にする余裕など持ってはけない。そんなやつから脱落していく。至極当然のことだ。
連れていかれる二人を尻目に俺は食堂を後にする。ここでの生活は基本的にトレーニングや勉強だ。持久走をしたり、色んな教科の勉強をしたりする。トレーニングをする全員が必死になって取り組んでいる。それはそうだ。何度も言うようだが、あちらの期待に応えられなければお仕置きが待っているのだから。
「056番! 何を途中で立ち止まっている? こちらへ来い!」
「待ってください! 今朝から体調が悪いんです! どうかご容赦を! 寛大な処置をお願いいたします!」
「馬鹿者! 体調管理も役目の一つだ。それをおろそかにするとは何事だ! いいから早くこちらへ来るんだ!」
どうせお仕置きが終わった後には治療班によって治療されるんだ。そんなことをわざわざいえばお仕置きが増えるだけだろうに。頭を使わないと駄目だ。そうしなければ、ここでの平穏は保たれない。かといって出る杭は打たれはないが目立つ。
俺は荒い呼吸をして息を切らせながら、なんとかゴールをしたように装う。お咎めなし。まあ、まだまだ前哨戦だ。他にもやることはたくさんある。最初にも言ったが、これは流れ作業。一つ終えたに過ぎないのだから。
俺は筋トレ、体術の練習、戦闘の勉強、各教科の勉強を平均値でこなす。普通と言うのが一番大事で難しい。普通は目立たない。何も言われない。俺の人生はそれでいいのだった。今日が終わる。いつもと変わらなかった今日が終わる。明日も今日と同じ日になるだろう。そこには希望も夢もない。生きていればそれでいい。それでいいんだ。俺は自分の考えを正しいと思い込むように、それ以外は何も考えずに眠りにつく。
起床のベルが鳴る。今日も始まる。いつもと変わらない退屈な毎日が。俺が部屋の前に出ると、点呼が始まる。昨日の今日だ。隣の033番の部屋は空席となっていると思っていた。だが、そこには小麦色の肌をした、黒髪のショートカットの女の子が存在していた。もう新しく人が入ったのか。相変わらず熱心なものだな。俺がちらりと033番を見ていると、こちらに向かってウィンクをしてきた。
「033番! 今、お前は何をした? 誰かに合図でも送ったのか?」
「申し訳ありません! 片目にゴミが入ってしまい、目をつぶってしまいました!」
「……そうか。それならいい。次のやつ、返事をしろ!!」
危ない野郎だ。もし、俺にウィンクをしたことがばれれば、俺まで疑われて罰せられるところだった。俺がため息をついてもう一度隣を見る。すると、今度は嬉しそうに笑いながらもう一度ウィンクをするのであった。俺は関係ないといわんばかりにそっぽを向いて白を切る。俺とこいつの奇妙な関係がこのときから始まったのであった。




