原稿用紙
原稿用紙
トロンボーンの代わりに、俺は一生懸命になって美術に打ち込んでいた。絵を描いても成績のいい俺である。その美術の時間、パンフレットが配られて、表紙に花が一輪描かれてある。
鼻の周りに光が放射するような線を暇つぶしに鉛筆で描いていた。隣に座っていた堀尾がそれを見てはきはきとハマ言葉で明るく声をかけてくる。
「そうすると花が引き立ちますね」
その瞬間、俺は体が停止してしまった。
里子!
俺が叫ぶと、シーツをかぶって昼寝をしていた里子がはっと目を覚まし、何ですか先生?事件ですか事故ですか? と寝ぼけまなこで起き上がった。
「何か応えなければいけない、堀尾さんに何か言わないと場が白ける、嫌われる、呪われる。里子、どうしよう?」
「どうしようと言われても。せいぜい呪われておきなさいよ、先生」
堀尾さんは俺の反応をうかがっていたが、やがて気まずく黙ってしまった。
最近は、俺は堀尾さんのことばかりが頭で回っていて、その堀尾ともすでに病的なまでにぎこちない。堀尾が俺のことをおかしな男子だと思っている。
どうしてヨシ君ってこんなにあたしのことを無視するんだろう。
そんなことを言ったって。普通に話をすると言ったって。堀尾さんと同じ話で盛り上がるなどおよそ無理だ。いつでも頭の中が真っ白になる。果たして俺はこの時どれほどまでに堀尾が好きだったのか。
「だけど、堀尾さんにはちゃんとラブレターを書いたんだよ?」
俺は里子にいった。
「それも原稿用紙に書いたんだ」
「あ?原稿用紙? 先生、マジでそんなことしたんですか?」
そう。そんな怪しい思考回路の俺だから、当然振られた。しかもそのあと気まずくなっちゃって、ますます話が出来なくなっちゃった。




