フルート
フルート
堀尾さんはこのごろ機嫌が悪い。校内が荒れている学校ではないとしても、もう一つ第一中学校に堀尾さんがなじめないのは傍から見てもよく分かる。
「外見だけで人を判断されてもね」
堀尾さんは悩みを一つ口にした。
「そうだな、外見ばかりで中身のない女子はどうしようもないな」
「そこまで言うことはないでしょ!」
昼休みに堀尾と井ノ原が漫才をしている。可愛いという自分の見てくれで、あたしは何人の男子に恋をされているのだろう……。堀尾さんは憂鬱になっていた。
下心ばかりの男子たちの恋は、どうにもグロテスクだ。そこまでの外見の堀尾さんだけど。それにしてもモテるなあ。
堀尾が廊下を歩いていたら、オケラの一年生が堀尾に挨拶をしていった。どうして挨拶をされる堀尾なのだろう。鈍い俺の頭脳は察しがつかなかった。。
放課後、誰もいなくなった教室に居残って、俺が美術の宿題をしていると、堀尾がフルートを持って教室へ入ってきた。譜面台を立て、楽譜を整えて練習を始める。
そのとき俺は気づいた。堀尾さんは管弦楽部に入っていたのか、あのオケラへ?
まさか堀尾がフルートを吹けるなんて知らなかった。秘密がひとつ明かされた瞬間の驚き。楽器を奏でる幸せな中学時代を送る、そのうらやましさ。
俺の右手が知らず知らず、トロンボーンのスライドポジションをたどっている。トロンボーンの何もかもをこの右手は知っている。
筋肉が微妙に反応してピッチを整え、音階も手首が正確に記憶している。この右手を動かしていると、泣きたいほど心の深いところから、音楽があふれてくる。




