それだからダメなんだ
この頃に「それだからダメなんだ病」は俺はうつされた。どれほどの全知全能の源次郎か知らないが、世間の凡庸なものに対して、何も見ても聞いても「こんなものはダメだよ」と言って回る源次郎。俺も大して何も分かりもしない世間のことに「こんなものはダメだ」といちいちケチをつけてしまう癖がついた。
物事に対してきちんとした評価をつけることができず、何事に対しても否定ばかりで、「それだったら何がいいんだよ?」と問われれば、バカの一つ覚えのように「フルトヴェングラー」としか答えられない。
フルトヴェングラーとは音楽の教科書にこそ載っていないが、モーツアルトやベートーヴェンのように歴史的な音楽家である。源次郎はその他、全ての音楽家を「ダメだ!」と切って捨て、自らをフルトヴェングラーの生まれ変わりと信じ、根拠もなく自らを天才だと豪語するものである。
「スピーチがもう間に合わないじゃないか! あと一時間後には役員選挙が始まるんだよ! 去年タカ君が書いた原稿を読めばいいから、適当にそれを写しなよ!」
「去年と同じものをスピーチしたら墓穴を掘るようなものじゃないの?」
「スピーチなんていい加減なものなんだよ! 去年のものなんて誰も覚えていないから、しっかり自信を持って僕を推薦する気概さえあればいいんだよ! ヨシ君が最大限に僕を理解して、最大限に僕を尊敬すれば格好がついて、みんなをだませるもんなんだよ!」
去年のことはしっかり覚えている。たかだか中学一年生の源次郎が、生徒会長選挙の演説で、上級生までを軽くバカにして、「生意気で政治家気取りで、鼻持ちならないカッコばかりで中身のないバカ」と生徒たちに毛嫌いされていた。
恥の上塗りのように源次郎の後で、当時の使用人だったタカ君が「小曽根君はスーパーマンのように万能で、それだけではなくカツオのようにひょうきんで……」とぼそぼそスピーチをしていた。お粗末な二人の話は語り草になって、いまだに同窓会のトークネタになっている。




