喫茶店
喫茶店
男子と女子が密会するように、こうして階段に座り込みながら、こんな話もあったんだと俺は里子に話した。
「あたし、もうN一中には行かないんだ」
第一中学校の校舎が見える、街のデパートにある喫茶店の窓際で、俺の同期のオケラの女子がつまらなそうに言ったことがある。
「どうして?」
「校長が、一中OBは迷惑だから、もう校舎には入らないでくれって。OBオケの練習場所も学校ではなくて他を探してくれって。どうしても探し出せなかったらこっちで探すから、とにかく学校には立ち入らないでくれって」
二十歳になったばかりの女子は長く伸ばした髪の枝毛を一本ずつ切りながらそう言った。
「ゾンビ、まだ指揮してるの?」
俺がそう尋ねると、彼女は嫌悪感いっぱいで、吐き捨てるように言った。
「とっくの昔に辞めたよ」
「辞めた?」
「だってガキじゃない、あの男」
俺たちが中学を卒業したころ、N一中のOBオーケストラが創設されて、そこでも指揮はゾンビがすることになった。しかし、楽団員にも成人が増えてくるにつれ、いい加減に中学生相手のようなゾンビの得手勝手は効かなくなり、やはりゾンビは性格の悪い、精神年齢の幼い嫌われ者。楽団員に本性を丸出しにさらけ出させられて、非難ヒンシュクでクビになったという。
「一中もゾンビがうさん臭くなって来て、そしたらゾンビが『私がこの学校を辞めたら、管弦楽部はどうなるか分かっているんですか? 辞めさせられるものなら辞めさせてみなさい』と大見え切ってみたら、校長に一言『ああ、辞めて』って」
全国優勝連覇、そう言ったゾンビの功績よりそう言う教師がのさばって、学校内で勝手なことをされているほうが、よっぽど学校組織には困ることだったらしい。
「校舎に入りたくもない管弦楽部OBもいるんだ。それが全国優勝をする部活だったんだ」
「はあ……そうなんですか……」
里子にはすとんと落ちて納得するものがない。いつの間に里子と喫茶店で向かい合い、考え込んでいる里子はコーヒーに白い粉を入れてスプーンでかき混ぜた。って、
「里子、それ塩!」




