校舎
校舎
四十過ぎても独身、職なし、病気持ちの男。ウイークデーだというのに暇を持て余している雨の午後、インターネットでN第一中学校を検索してみた。
俺はインターネットを引いていない。スマホも持てないほどカネがない。しかし、妄想の世界でネットを弾いたつもりになるならば、検索ソフトでどこに中学校があるのか探し出して、しかもその校舎の中に入りこめるものかな。
映像が階段を上がり、五階の第二音楽室までたどり着いた。音楽室の古い木製の扉を開くと、金管楽器の生徒たちがメトロノームに合わせて、アンサンブルの練習をしていた。
俺たちの中学時代とは全く違う練習風景だった。第二音楽室においてアンサンブルの練習がまともに行われている、この不思議な光景。各楽器の音がきれいで音量も十分にある。
現在のN一中管弦楽部は、金管など出番の少ない楽器には、アンサンブルなどのコンクールを中心にして活動させることにして、それが各コンクールで金賞を取る結果も出していると、新聞に書かれてあった。
これが当たり前の部活の風景などと言われても。じゃあ俺たちは何をやっていたんだろう。アンサンブルの十二人の音がぴたりと合うまで、何度も同じメロディーを繰り返す。一悟の小さな背中が肺活量ギリギリまで膨らんで膨らんで、トランペットは最大音量を出していた。
「あ……」
突然廊下で、声音を失った古風な顔の少女が、俺を見上げて唖然と声を失っていた。
「ああ?里子いたのか?」
俺はその女子に、何気なしに声をかけた。里子はワンテンポ遅れて興奮のあまりに顔を赤くした。
「先生! 先生ったらばさ! なあにをやってるんですか?! ここ中学校の校舎ですよ?」
里子が俺のひじをぐいぐいと引っ張った。階段まで俺は引きずり込まれて、バイオリンを持った里子はそのまま俺を叱った。
「やっていいことと悪いことがあります! 本当はやっちゃいけないことは一切やらない先生なんでしょ?」
いやそうなんだけど、つい一悟の練習風景が見たくてと俺は言い訳がましくも声が消え行っていく。
「先生が一悟の練習を見るための正当な理由がありません! すぐ校舎から出て行って下さい!」
「そうは言っても、一悟は夢だから……」
俺は階段に座り込んで、楽器の音が反響する校舎の五階で、肩を落としてため息をついた。里子も俺の思いを察したのか、俺の隣のそっと座る。
「夢は夢のままで、そっとしておいたほうがいいんじゃないですかね? 先生」




