いちごとさとこ
いちごとさとこ
俺が消えた家では、俺のために母が買ってきたイチゴが誰にも食べられずにテーブルの上に置かれていた。
「ああ、なるほど先生。イチゴと一悟をかけたんですね」
里子はディスプレーにアップで映している、でかでかと映るイチゴの赤い光を顔いっぱいに受けた。そしてどういう意味で一悟なんですか?と聞いてきた。
「この子は大体十五歳くらいかなと最初に思って。一に悟る、悟りと言う漢字は五に心と自分の意見を発言できる口が入っている。それとこの子が、この齢で一つでも悟っているものがあるのかな?と思って一悟にしたんだけれど」
「色々考えたんですね」
じゃあ、あたしは何で里子なんですか?と俺の顔をちらと見る。俺も里子の顔を見た。眉に海苔を張ったような、鼻もいささか低い顔。途端に里子の顔を指さして、俺は大声を上げた。
「この顔はどう見ても里子じゃないか?」
「えー? 何でですか?」
抗議するように里子が不満の声音を出すから、何でって、いかにも昭和時代にありがちだった顔だろ?と俺が言うと、あたしはそんなに古臭い顔なんですか?と里子も言い返す。
「一応、あたしは平成生まれなんですけれど?」
「里子は里子。これはこれで可愛い名前だ。Y駅前で会った里子だから、あの街は俺の原点なんだ。いつでも帰りたい里のようなところだ。そこにいたお前は里子でいい」
「ええ?そうかなあ?そういう事で許されるものかなあ?」
ふーん、と考え込んで里子は長い前髪を指でつまむ。




