近所の人妻(偽):1
「私ね、思うのよ」
「何をだね」
「学校のジンクスよ、豆内高校の」
「豆内……聞いたことないな」
「あなたね、自分の通ってる学校の名前くらいは憶えておきなさいよ……」
意外と自分の所属とかって意識から抜けるよね。自分の家の住所とかそらで言えないとか割とあるよね。それと同じよ。胸張って言おうぜ!住所不定ってさ!きっと開放感すごいぜ!
「ともかく、ジンクスがどうしたって?」
「アレ、バカ=美少女ってことでしょう?今まで考えないようにしていたけれど、私にも該当するのかしら」
バカというと罵倒だけど、おバカにすると愛嬌がある不思議。あらゆる語句に『お』をつけると丸く聞こえる説。お死になさい、とかおくたばれなさいとか言われたらさ、あ、気配りの出来る人だなとか思うよね。そんな人間に俺はなりたいな。
「悪い知らせと良い知らせどっちから聞きたい?」
「ふぅ……いい知らせから聞きましょう」
「俺の隣にいるのは美女だよ」
「……ふぅん、ありがとう、悪い方は?」
「現実逃避よくない」
その色気で高校生は無理でしょ。俺と同い年だけど、コスプレで勢い余って制服きちゃったみたいな雰囲気醸し出しちゃってるもの。(キツいとか言ってはいけない)
「納得いかないわね」
「ローキックはやめなさい。お行儀良くしなさい」
「あら、あなたに行儀を説かれる日がくるなんてね、成長したわね」
流し目が似合う女って得だよね。この人妻風高校生見てるとつくづく思うよ。
まぁ、こういう立ち居振る舞いが余計コスプレ感助長するわけですがね。指摘はしないよ、紳士だからね。ふむ、改めて見てみると、随分……。
「髪伸びたな」
「あら、急にどうしたの?」
「いやもう一年経ったんだなって」
あの時は髪の長さは確か、肩くらいまでだったはずだ。今は、もっといい匂いがする。違った。腰まで髪が伸びたからもっといい匂いがするようになったのだ!あれ、これも違う。
「そうね……帰り道が同じって便利よね長篠君」
同じっていうか家が徒歩数10秒圏内じゃん。視認範囲内といってもいい。
「おう、で何買うの今日は」
「お米とトイレットペーパー。期待しているわ男の子」
「えーここぞとばかりに荷物持ちさせるじゃん女の子」
「少年これ全部あなたの家の物なのよ」
「……美女よ、待って俺今48円しか持ち合わせない」
「だと思ったわ。私が持っているから、お家で返してくれればいいわ」
「いよっ出来る女!素敵!母ちゃん!」
「次それ言ったら消失するわよ」
「ひゅーッ」
世話焼きの彼女は、ウチに生息する駄肉の親友でもある。やり取りから分かるように、二人揃って頭が上がらないのである。参ったねこりゃ。
「今日は何を作ろうかしら」
「個人的には麺類が好ましいです」
「また?昨日焼きそば作ったじゃない」
「俺食ってない」
「ん?」
「俺食ってないんだよ」
「まさか薫子さんたら全部……」
「ああ、聞いてくれよ」
そうあの駄肉ときたら「じゃんけんで勝った人が一口ずつ食べられるんだよぉ」などと吠えやがる。
だから興にのった俺いや、我も「フハハ、貴様など指二本で十分よ!」と王者の貫禄を見せつけてやったのである。
結果は言わずもがな、我が軍は圧倒的相性差を突きつけられ続け大敗。勝利の美酒ならぬ、勝利の焼きそばを目の前で貪られたのである。そうして必ず、あの邪知暴虐の駄肉を除かねばならぬという決意が固まったのだ!
「あなた達相変わらず楽しそうね……」
「こっちは毎日真剣に生きてるよ、でどうかね?」
「うーん、そうねぇ、でも薫子さんは二日続けてでしょ?」
「見方を変えればそうとも言うね」
「ひねくれた返答ね」
オイオイオイ、ひねくれ者代表の……。
「絵里奈ちゃんさんがそれ言う?」
「その変な呼び方腹が立つわね」
「だって『さん』をつけろってそっちが」
「宮代の方につけなさいよ……」
「ほら、スーパー着いたぞ、諦めろ」
「覚えてなさいよ」
「ハハッ」
この後たっぷり買い物に付き合った。ちなみにお夕飯は焼きそば風ビーフンでした。絶妙にこれじゃないが、おいしいから大丈夫でした。




