うぐいす、同士を見つける(高木)
≪ 鶯木麗視点 ≫
麗は角度によって色味が変わる種に目を見開く。箱を開けた瞬間広がった濃厚な香りに、うっとりと目を細めた。
「まぁ、いい匂い。これが黄金梅の種」
「そうだろう? 僕もこの香りにはうっとりしちゃうよ」
飛田が自慢気に語る。その一方で山波がしきりに鼻を鳴らしていた。
「そ、そうですかい? 俺にはとんとわからんのですが……」
麗たちが感じた匂いを知りたいのだろう。山波は顔を種に近づけたり、離したりを繰り返していた。
「私たち獣人は人間よりも鼻が敏感ですからね」
「そういうもんですかあ」
麗が当たり障りない慰めを山波へかける。山波が少しだけうらやましそうな顔を向けてきた。
「……頃合なのかもしれないわね」
山波の顔と箱の中の種を交互に見つめながら呟く。この人間たちなら自分たちが長年望んできた願いを成就するための味方になってくれるかもしれない。そんな確信にも似たものを感じた。
「頃合? ってもうすぐ芽が出るってことですか?」
「ふふふ。あなたたちに見せたいものがあるの。ついてきて」
麗は芽衣子の質問を笑って誤魔化し、宝物庫へと歩き出す。その後ろから3人が、ためらいがちについてくる。1分もしないうちに目的地である宝物庫が見えてきた。薄茶色をした土壁の蔵の中央には重たそうな鍵がしっかりとぶら下がっている。この鍵は仕掛けつきの南京錠で、順番通りに外さないと解除されない代物だ。もちろん自分はその解除方法を知っている。麗は躊躇なく鍵を解除し、宝物庫の中へ入ろうとする。しかし背後から聞こえてきた飛田の悲鳴にも似た焦り声が邪魔してきた。
「ちょ、ちょっと、いいのかい? おばさん!」
「お前、男のくせに麗さんがやることに文句を言うな!」
山波はこちらの味方をしてくれるようだ。その事実が嬉しくて頬が緩む。
「え? ぼ、僕はただ……」
「お父さん! 飛田くんは悪くないわよ!」
せっかく山波が味方をしてくれたのだ。山波の援護をしよう。麗は彼に叱られて涙目になっている飛田と目くじらを立てている芽衣子を諭すように、優しく語りかけた。
「大丈夫よ、まぁーくん。私を誰だと思ってるの?」
「え? ちょ、三長老さまの一人?」
「そう。だから大丈夫。さぁ、中へ入ってください」
麗は目をまたたかせている飛田へウインクを向け、電気をつけて先へ進んだ。
「中も寒いですなあ……」
おとなしくついてきた山波が両腕で抱きしめるように自身の腕を擦る。人間には体毛が少ないから、この中の寒さもこたえるのだろう。
(それにあの頭だとちょっと寒いかもしれないわね)
麗は地肌が微かに見える山波の頭を、彼に気づかれないようちらりと見た。
「蔵のようなものですからね」
「蔵というよりは冷蔵庫のような……」
山波が、ぶるっと震えながら呟く。麗は全員が部屋に入ったのを確認してから、宣言した。
「あなたたちの種を植えられるようにしてあげるわ」
「え? そんなことできるんですか?」
芽衣子が目を丸くする。
「えぇ。雪姫様から頂いた『凍った青い梅』を取り出せば氷が溶ける仕組みなの」
笑みを浮かべながら長老会のメンバーしか知り得ない秘密を告白すると、山波が鼻息を荒くして迫ってきた。
「雪姫様の!! そ、それはどこにあるんですか!」
「うふふ。これです、この中にあるんですよ」
ひっそりと隠すように置かれている箱を指差す。その上には木でできている蜂が乗っていた。
「ほほう!」
「お父さん! 失礼でしょ!」
「ま、まあまあ」
感嘆の声をあげ近づこうとしている山波を芽衣子が腕を引っ張って止めようとしている。そんな彼女を、宥めるように飛田が取り成していた。
「いいのよ、芽衣子ちゃん。善郎さんと私は同士なんですから」
「そ、そうなんですか? い、いつの間に?」
芽衣子はこちらへ視線を向けたかと思うと、すぐさま父親を品定めするように顔を上下に揺らしながらジロジロ見ていた。
「そうよ。雪姫様のことでこんなにも意気投合できるんですもの。私たちは立派な同士だわ」
「は、はあ……?」
よく理解できていないみたいだ。首をかしげたまま考えこんでしまった芽衣子の肩を飛田が軽く叩く。
「麗おばさんが言うんだから大丈夫だよ、芽衣子ちゃん」
「と、飛田くんがそう言うなら……」
「あら、あら、まぁーくんと芽衣子ちゃんはラブラブね」
麗は、突然見つめ合い始めた2人をからかう。
『そ、そんな……それほどでも……』
言葉どころか照れる姿までそっくりの彼らを微笑ましく眺めていると、2人の間を裂くように山波が割り込んできた。
「おい! 俺はまだ認めとらんぞ!」
「あら、そうなんですか? ふふふ、でも恋には試練がつきものだから仕方ないわね」
『はあ……』
飛田たちががっくりと肩を落とす。もしかしたら2人の仲を後押しすると思っていたのかもしれない。それが父親へ肩入れしたようにも聞こえる発言をしたのだ。彼らが意気消沈するのも無理はないだろう。
「頑張ってね。二人なら乗り越えられるわよ」
何事にもドラマティックな展開は必要だ。麗は、気休めにもならない言葉を飛田たちへ送り、ニッコリと笑って見せた。
「麗おばさ~ん……」
飛田の情けない声に笑い声が零れる。
「うふふ。善郎さんも手を抜いちゃダメですよ」
「もちろんですとも!」
山波は味方を得たとばかりに腕を組み、ふんぞり返った。




