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Gold Plum ー 西多摩地区鎖国国家地帯 ー  作者: 宿り木
第二章 交錯 ~みのり&善郎の場合~
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頑固おやじ、青い実を探す(朝川)

≪ 山波善郎視点 ≫



「お嬢様、まずはどこから捜しますか?」


 碧の問いかけにみのりが答える。


「やっぱり『青い梅』の木かしら?」


 きょろきょろとあたりを見回しながら告げるみのりへ、芽衣子が尋ねた。


「『青い梅』なんてあるんですか?」

「えぇ、このお寺にずっと青い実のままの梅の木があるそうなんです」

「みのり様、目の前にあるあれではないですか?」


 芽衣子に答えるみのりへ向かい、善郎は目前に見える梅の木を指差す。


「本当だ……以外と小さいのね」


 みのりが落胆したのかぽそりと呟いた。


「なんかあまりに普通な気が……」

「でも、確かに梅の実は成ってるわね」


 飛田とみのりが口々に感想を述べ、碧が梅の木に近づき口を開いた。


「一応、色づいてはいないようですが……」

「これがずっと青い実のままなの? 違いがまったくわからないわ」


 眉を顰めて梅の実を確認する碧の横で、みのりが腕を組む。


「『青い梅』と書いてあるのですから、きっと青い実のままなんでしょうね」


 憤慨した様子のみのりを宥めるように、碧が苦笑した。その横で、飛田が軽くその場の匂いを嗅ぎ、でも、と首をかしげる。


「でも、少しだけ猛々しい香りがするような……」

「本当。いい匂い」


 紅が飛田に倣い香りを探り、うっとりと告げた。


「えっ? 本当に?」


 みのりが梅の実に鼻を近づけたが、しばらくして小首をかしげた。どうやら普通の梅の香りしかしなかったようだ。善郎は、次期当主へいいかげんなことを言った飛田に腹が立った。


「なんだなんだ! また余計なことを……!」


 正直に苛立ちを口にすると、芽衣子が目を剥いてくる。


「余計って何よ!」

「余計は余計だ!」


 飛田の肩ばかり持つ愛娘が実に憎らしく、善郎は芽衣子に噛みついた。


「ちょ、ちょっと、2人とも落ち着いてください!」


 割って入ってくる飛田を睨んでいると、緊張を孕んだ声が飛んできた。


「兄さん」

「みのりお嬢さま、追っ手が近づいてきてるようです」


 紅の言葉に、碧が即座に反応する。善郎は芽衣子とともに目を剥くと、みのりが代弁してくれた。


「えっ! どうするのよ」


 非難がましい声を上げるみのりに対し、飛田が狼狽える。


「ど、ど、どうするんですか!」


 太い枝のような角を出しおろおろとする飛田を、善郎は押さえつけた。


「バカ! しまえ! しまえ!」


 飛田が、痛い、と不平を漏らすのも構わず、角をぐいぐいと押し込む。角と格闘しているのをよそに、碧がみのりへ向かい冷静な声音を発した。


「ここは隠れて、やり過ごしましょう。ちょうど大きな石碑もあることですし」


 碧が梅の木の横に聳え立つ石碑を指差し、みのりへ進言する。


「兄さん、もうすぐ来る」


 迷っている態のみのりをよそに、紅が緊張を強めた。


「さぁ、お嬢様。みなさんも、一緒に……」

「は、はい」


 みのりの背中を押しながら促してくる碧に、善郎は頷く。飛田と芽衣子を引きつれ、石碑の裏へ回った。


「あっ、ここにも文字が」


 みのりが石碑を凝視し、小さく声を上げる。


「文字?」

「どこです?」


 善郎は目をまたたかせて問う芽衣子に倣い、石碑を見あげた。


「お静かに!」


 碧の鋭い声に首を竦めていると、みのりがそっと石碑の文字を指差してくる。指し示された指の先へ目をやったところで、数人の足音が聞こえてきた。黒服の男たちが数人で境内を探し回っている。善郎は彼らに見つからないよう身を縮めつつ、石碑に刻み込まれた文字を眺めた。


「こりゃ……何かの手がかりのようですな」


 声を顰めて答えると、芽衣子が小声で問いかけてくる。


「お、お父さん、こんなの読めるの?」


 善郎は驚きを多分に含んだ質問に答えようとして、やめた。


「おい、いたか?」

「いえ、こちらには……」


 黒服の男たちがイヤホン越しに会話を続けているのが目に入り、知らず背筋が凍りつく。横では飛田が、聞こえてきた声に反応してますます角を出してきた。


「あちらへ回り込むか……」


 善郎は飛田の角を押さえつけながら、近づいてくる足音に反応して息を詰める。ふいに、男の1人が携帯を取り出した。


「はい、こちらA班」


 話し出した男を尻目に、善郎はみのりたちへ尋ねた。


「こ、このままじゃ埒が明かないんじゃないですかね?」


 こんな無理な態勢でいては、見つかってしまうのも時間の問題だ。どうにかして先手を打つべきだろう。善郎は自らの懸念を込めて碧を見るが、返事はない。その間にも、男の通話は続いていた。


「お嬢様たちの車が藤端へ? ですがこちらにも同じ車種が……」


 男がサングラス越しにちらりと門扉へ目をやる。


「えぇ、いや、しかし……はい。わかりました。こちらもそちらへ合流いたします」


 小さく礼をして、男が携帯をしまい込んだ。不満げな息をついた後、諦めたように口を開く。


「おい、おまえ達、車へ戻るぞ」


 短く宣言して、男が踵を返した。


「はっ」


 釈然としない様子ながらも先に引き返した男に続き、男たちが退散していく。


(どうなってるんだ?)


 善郎は去っていく追手の姿を息を詰めて見守りながら、内心で首を捻った。どうやらみのりが藤端にいる、という偽情報が流れているらしいが。いったい誰が、と眉根を寄せていると、背後で碧が口を開いた。


「お嬢様、もう良いですよ。みなさんもお疲れ様でした」

「ふぅー、一時はどうなるかと思ったけど……」


 みのりが軽く肩の力を抜き碧へ微笑む。


「し、死ぬかと思った……」


 芽衣子も大きく息を吐き、敷き詰められた石畳に腰を下ろした。


「芽衣子ちゃん、ちょっと大げさだよ」


 苦笑しながら芽衣子へ手を差しだす飛田にむっとして、善郎は飛田の手を払う。


「おい、お前! うちの芽衣子に文句があるってのか?」

「と、とんでもない! 誤解です!」

「ふん!」


 慌てて両手を左右に振る飛田に対し、善郎はありったけの不満を込めて鼻を鳴らした。そっぽを向いてみのりに目をやると、あちらでは紅がみのりの手をそっと握っている。


「お嬢さま大丈夫。アタシ守る。必ず」

「紅、ありがとう」


 みのりが礼を言いながら手を握り返し、口元を綻ばせる。微笑み合う2人を引き裂いたのは、碧だった。


「まぁまぁ、落ち着いてください。お嬢様も僕の紅の手を握らない」


 みのりを押し退けさりげなく紅の肩を抱いた碧が、硬い声音でみのりに告げる。


「追っ手がいなくなったとはいえ、いつまた現れるかわかりませんよ」


 軽く諌めるような口調の言葉に、みのりの頬が少し膨れた。


「わ、わかってるわよ。今始めようと思っていたところだったのよ」


 失態を指摘されたと思ったのだろうか。みのりが何かをごまかすように慌てて石碑の文字を見た。


「みのり様たち、あの『青い梅』に用事があるんですよね?」


 芽衣子が尋ねると、みのりが頷く。


「えぇ。……たぶん」


 自信なさげなその様子が儚げだ。無理もない。


(なんせまだお若くていらっしゃるのだからな……)


 善郎は内心で頷き、なんとしても次期当主の力にならねば、と決意を新たにした。

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