お嬢さま、よその恋愛事情に辟易する(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
「なら、私たちが囮になります!」
(なんでそんな話になってるの?)
みのりは芽衣子の考えに首をひねる。彼女の発言に目を丸くしている間に、話はどんどん先へと進んで行った。
「な、何言ってんだ! お前はまた!」
「私は本気よ。お父さんは邪魔だからここにいて。囮には飛田君と私がなるから。ね、飛田君?」
「え? う、うん……」
「ま、まてまてまてまてー!」
最初に言っていたことをまだ引きずっているのだろうか。みのりは彼女に運転を頼んだとき、芽衣子が敵を撒くと意気込んでいたことを思い出した。だが、だからと言って、せっかく敵が去った今言うことではないはずだ。
(芽衣子さんって実は今の状況を鬼ごっこか何かと勘違いしていたりする……?)
みのりは鼻息を荒くし立ちあがる芽衣子の姿を見て、顔を引きつらせた。
「お待ちください」
今にも歩き出そうとする彼女を止めたのは、落ち着きをはらった碧の声だった。
「へ?」
きょとんと碧を見る芽衣子に向かって、みのりも待ったをかける。
「そうです。ちょっと待ってください芽衣子さん。確かに青い梅の木に用事があるのは事実なんですが、それがどういった用事なのかわかってないんです」
「は、はあ……」
わかったのかわかっていないのか、芽衣子が曖昧な返事をする。それでももう一度しゃがみ込んでくれた彼女に胸をなで下ろす。みのりは、念をおすように彼女へたたみかけた。
「だから、それがどんな用事なのか一緒に探してもらえないでしょうか?」
「そうだぞ。だから言ったじゃないか」
山波が便乗するようにうんうん、と頷く。
「そんなこと言ってないじゃない!」
「まあまあ」
ひそひそとこちらに聞こえないように話してはいるが、彼らの声は筒抜けだった。それもそのはずである。まだ皆、石碑の後ろに隠れているままなのだ。
「まぁ、人手が多い方が見つかる可能性も高いですからね」
「はあ……、じゃあ、待ちます……」
碧の言葉に幾分がっかりしたように頷く彼女を見て、みのりは先ほど自分が思いついた考えがあながち間違っていないと思った。
(まぁ、普通は本気で本家から逃げてるなんて思わないわよね)
みのりは苦笑した。
「大丈夫。お嬢さま、ずっと一緒」
気落ちしていると思ったのかもしれない。こちらの感情を敏感に察知する彼女に、みのりは自然と頬を緩めた。
「それに、鹿さんの鼻」
「ぼ、僕ですか?」
追加された言葉に耳を疑い、紅を見る。しかし、彼女は飛田へ顔を向けていた。
(紅が他の人に話しかけるなんて)
やはり同じ獣人だから気安いのだろうか。なんにせよ、みのりは嬉しかった。主人だけに従う内向的な紅が、いつか他者と交流を持つことができるようになればいいと以前から思っていたのだ。これを機に少しずつ彼女の交友関係が広がっていけばいい。そんなことを考えていると碧の悲鳴に似た声が聞こえてきた。
「紅、僕以外の人間に興味が!! 離れなさい!」
「鹿さん、人、違う」
間髪入れずに応えた紅の言葉に飛田ががっくりとうなだれる。
「いや、そうはっきり言われるとちょっとへこむんですが……」
「私は気にしないわよ!」
「芽衣子ちゃん……」
気がつけばまた飛田と芽衣子は2人の世界へ入り込んでいた。その隣では、碧が青ざめた顔で頭を抱え唸っている。
「あーなんてことだ。僕の紅が!」
「兄さん、うるさい」
「紅ー」
(碧だけでも面倒くさいのに、芽衣子さんたちまでイチャイチャと……)
どう手をつければいいのかわからず諦めてかけていた雰囲気を、山波が両断してくれた。
「ええい! どいつもこいつも! 文字を読むんだろうが文字を!」
決して進んでは入りたくないような空気を壊してくれた山波(勇者)にみのりは心の底から感謝をした。
「そうよ。碧もイジイジしないっ!」
「そうだそうだ。うるさいぞ、芽衣子も角も」
「つ、角って……」
こちらの援護も空しく、山波も混乱の渦に飲み込まれてしまったらしい。涙目になった飛田の頭をなでようとする芽衣子の邪魔を始めた。
(あーあ、せっかく話が進められると思ったのに、山波さんまで仲間になっちゃったら意味がないじゃないの)
みのりが地団駄を踏んでいると、紅が眉を八の字にしてこちらを見ていた。
「ごめんなさい」
別に紅のせいではない。ただ碧が暴走し、空気を読まないカップルがいちゃついているだけだ。
「いいのよ、紅」
ツルツルと滑らかに滑る紅の頭をなでてやると、嬉しそうに目を細める。
(はぁー、癒やされる)
飽きのこない感触に和んでいると、殺気を感じ反射的にそちらへ目を向ける。三白眼をした碧と目が合った。瞬間、我に返る。みのりは慌てて紅の頭から手を放し、本題を口にした。
「じゃ、じゃぁ、読みますよ」
『は、はい!』
山波たちも殺気だった碧の空気を敏感感じ取ったのだろう。姿勢を正し返事をしてきた。
「えっと、青き梅……のもと、あい……みえし、いちのたね、うめよ。さればあらた……る、ひとつぶの……み……ん?」
解読できた部分だけ口にするが、意味が分からず首をひねる。すると山波が人差し指と親指で顎をつまみながら、視線を向けてきた。
「『あい……みえし』、はきっと『あいまみえし』ではないでしょうか?」
「あいまみえし? あー、確かに」
山波の解釈に納得していると、先ほどのことなど何もなかったかのような顔をして碧が山波へ話しかけていた。
「青き梅の木の元ってことは、やはりあの梅の木が『青い梅の木』で良かったようですね」
「そのようですな。それと最後の『み……ん』は『実がならん』だと思います」
「ということは、青い梅の木の元に何かを植えたら実が成るということですね」
「はい……。しかし、何を植えたらいいのやら……」
勝手に進み始めた彼らの話が終わったのを見計らって、みのりは口を開く。
「でもその前に、『あいまみえし』よ。これってどういう意味なのかしら?」
「簡単に考えると『一緒になる』ってことじゃないですか?」
今まで黙って聞いていた芽衣子が言った言葉にひっかかりを覚えた。それがなんなのかわからず彼女に詰め寄る。
「えっ? 今なんて?」
「え? え?」
「だから、芽衣子さん、今なんて言いました?」
後ずさるように身を引く彼女を不思議に思いながらも、さらに詰め寄った。
「え、えーっと、簡単に考えちゃえばいいんじゃないかな~って……」
目をキョロキョロと動かしハッキリとしない彼女に苛立ちが募る。
「その後です! その、あ、と!!」
「えと、えと……『一緒になる』?」
「そうよ! それよ!」
みのりは、涙目になった芽衣子の両肩を嬉々と叩いた。




