お嬢さま、助けを求める②(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
「飛田さんは、株式会社オジカの営業さんでしたか」
「あ、はい。ご存じですか?」
「えぇ、もちろんです。林業では最大手の会社ですからね。生産、加工までに留まらず、建築、設計、最近では造園まで手掛けていらっしゃる」
スラスラと出てくる碧の言葉に飛田は驚いているようだった。だが、みのりは別の意味で驚いていた。
(この人、そんなスゴい大企業で働いているようには見えないわ。碧を見てわかっていたつもりだけど、人って見かけによらないのね)
みのりは、感心しながら飛田たちを眺めた。
「そ、それより、追われているっていうのは?」
男たちだけで盛りあがっていた話を、芽衣子が元に戻す。
「あー、そうでした。そうでした」
「本当なんですか?」
飛田も思い出したのか、信じられないとでもいうような顔をする。
「現在みのりお嬢様は次期当主としての試練中でして、本家から迫り来る追っ手から捕まらないように根合寺まで向かわなくてはいけないのですよ」
彼らに考える隙を与えないように、みのりも碧へ続く。
「この近くに警護の者がたくさんいるみたいなんです。お願いします。どうか試験に合格するためにも根合寺まで行ってもらえませんか?」
必死さをアピールして頭を下げる。人の良さそうな彼らだったら無碍にはできないだろう。
「本家? 本家が敵なのね! 飛田君! 乗せてあげましょう!」
案の定、芽衣子が食いついてきた。みのりは顔を下げたまま、ほくそ笑む。しかし、乗り気な彼女とは反対に、飛田は二の足を踏んでいるようだった。
「い、いや、芽衣子ちゃん。もうちょっとちゃんと話をきかないと……」
さすがは草食動物だ。警戒心が強い。
「何言ってるのよ! そんなこと言ってる間につかまっちゃったらどうするの!」
「で、でもお義父さんの植物の方は……」
「そんなこと言ってる場合じゃないわ!」
だが、2人の力関係は彼女の方が上なのだろう。ことごとく反論されている。やはり草食系男子だ。押しに弱い。
(というか、あの人たちって恋人同士だったのね)
言い合いをしている2人を眺めながら、そんなことを考えているうちに決着がついたようだ。
「さ! 乗ってください、お2人とも!」
軍配は芽衣子にあがったらしい。
「ありがとうございます」
それでも本当に良いのだろうかと不安になり、飛田の顔色をちらりと窺う。しかし彼はこちらに視線に気づくことなく碧へ話しかけていた。
「あ、あのう……」
「何か?」
「そこに停めてある車って、貴方がたのですよね? あれが貴方がたのだったらあそこにあのまま置いておくと、逆に乗り換えたってことがばれちゃうんじゃないですか?」
飛田の意見も一理ある。だが、車で移動しているところを追っ手に見つかってしまった今、車を乗り捨てるしか彼らを出し抜く方法はない。
「ぼ、僕思うんですけど。追手を撒くんだったら誰かがあれに乗っていった方がいいと思うんです」
「そうは言いましても、みのりお嬢様は免許を持っていませんし。わたくしが乗ってしまうと追っ手に見つかり意味がない。それにお嬢様を守れません……」
「あ、あの。よかったら、僕が乗りましょうか?」
「えっ、でもいいんですか?」
飛田の発言に驚く。先ほどまで気乗りしていないふうだったので、それは余計にだった。
「は、はい。僕でよければ……」
「それはとても助かります。ありがとうございます、飛田さん。」
飛田が照れくさそうに笑う。彼の好意を受け入れようとすると今度は芽衣子が異を唱えた。
「だめよ! 飛田君じゃいざって時に角が目立ちすぎるわ!」
「え、でも僕以外じゃ……」
「私が乗るわ!」
「えっ? お姉さん運転できるんですか?」
助手席に座っている彼女が運転できるとは思いもしなかった。驚いているみのりの隣で碧が素朴な疑問を口にする。
「角をしまえば問題ないのでは?」
「それがこの人、すぐ角が出ちゃうんです。あがり屋さんだから」
苦笑交じりの彼女の言葉に、碧は不憫そうな目線を飛田へ向けた。
「そうなんですか。それは大変ですね、色々と……」
「は、はあ……」
碧の含みのある物言いに、飛田は角を揺らしながら顔を真っ赤にさせた。
(本当だ。すぐに赤くなるのね)
おもちゃみたいにカクカクと動く飛田を興味深く見つめていると、芽衣子が胸を叩いた。
「まかせてください! 私が必ず敵を撒いて見せます!」
その言い方に既視感を覚える。だが、それを思い出す前に、碧が彼女の出鼻をくじいた。
「いえ、それでしたら、一緒に根合寺までついてきてくださると助かります」
「は、はあ。わかりました。じゃあさっそく」
芽衣子は言うやいなや車を降り、乗り捨てた車へと走って行った。みのりは、彼女と入れ替わるように碧と後部座席へ乗り込む。
「あの、本当にあのお姉さん車の運転大丈夫なんですか?」
なんとなく不安になり、飛田へ声をかけた。
「あ、大丈夫ですよ。あれで結構慎重な人なんです。僕よりは……ですが……」
「それなら安心ですね」
(この人の方がよほど慎重そうだもの)
安心するこちらを揶揄するように、碧が口を開いた。
「大丈夫ですよ、お嬢様。あの車は護衛用車ですから、ちょっとやそっとぶつけただけじゃ壊れません」
みのりは碧を睨みつける。
「何、失礼なことを言ってるのよ。車よりも中の人のことを心配しなさいよね」
「はははは……」
飛田がミラー越しに乾いた笑いを浮かべた。何か変なことを言ってしまっただろうか。みのりは内心で首をかしげつつ、頭を下げた。
「それじゃ、よろしくお願いします」
「はい」
飛田は芽衣子が車に乗り込んだのを確認すると、車を発進させた。




