頑固おやじ、小さな護衛を得る(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
(こんなちっこい女の子が護衛とはねえ)
善郎は前を行く小さく細い背中を見ながらしみじみと思った。
(まあ、小さな子でも大丈夫なくらいの試練ってことなのかもな)
1人納得して、話しかけてみる。
「こっちには追手がついてきてないみたいですなあ」
だが、望んでいた答えは返ってこなかった。それでも善郎は諦めきれず、もう一度紅へ問いかける。
「みのり様たちは大丈夫なんでしょうかね?」
頼むからなにか答えてくれ、と善郎は内心で願った。親しくない人間とともにいるのは存外疲れる。それが自分よりも小さな子どもであれば猶更だ。いざという時には自分が守らなくてはならないのだから。善郎が重い溜め息を吐いていると、前方から淡々とした声が聞こえてきた。
「兄さんいる。大丈夫」
言葉短に答えてきた紅が、「それより、こっち」と宣言して細い路地へ入り込む。
「おおっと」
よろけながらその後ろについていくと、今度はここ上る、と無機質な口調でフェンスを指差した。
「ずいぶん信頼してるんですなあ、あのお兄さんのことを」
善郎はフェンスをよじ登る。ふと思いたった考えを口にしてみると、紅が振り向き首をかしげてきた。
「信頼? わからない。大丈夫、いつものこと」
淡々と見上げてきたその面に、善郎は軽く眉を寄せる。どうも話が噛み合っていない気がする。
(今の若い子っていうのはこんなもんなのか?)
疑問に思いつつフェンスから降り立つと、紅が足元を指し示してきた。
「おじさん、そこ危ない」
見ると、フェンスの網が壊れてる箇所がある。
「おう? ありがとう」
素のまま礼を言い、はたと嫌な予感が頭を掠めた。
「もしやとは思いますがね、あんたもお兄さんが好きなんですかい?」
善郎は壊れたフェンスに気をつけながら紅へ近づき、問いかける。だが、紅は淡々とした口調を崩しもせず端的に答えてきた。
「アタシ好き、お嬢さま」
紅の言葉に善郎の思考は停止する。
(お嬢様が好き? なんだ、それは? まさか前にたっつあんが言っていた同性愛とかいうやつか?)
もしそうなら一刻も早く更生させなくては。善郎は動揺する心を抑えて前方の紅を見つめた。
「おじさん、早く」
紅が立ち止まり、振り返る。急いで頷くと、こっち、と愛想のない言葉で草に覆われた路地裏を示してきた。
「え、ええっと……」
ためらっているのをよそに、紅が道なき道を突き進む。善郎は溜め息を吐き紅の後を追った。無言の小さな背中へ向かい、おもむろに問いかける。
「あのー、つかぬことをききますがね。あんた、みのり様に恋してるってことですかい? 女ですぞ?」
言外に非難を込めつつ尋ねるも、紅は振り返りもせずに答えてきた。
「恋? お嬢さま、命の恩人。1番好き」
淡々と応える紅の態度に、善郎は胸を撫で下ろす。
「なるほど。じゃああんたはかなりまともなんですな。それはよかった! 本当によかった!」
安心からしみじみ告げると、紅が立ち止まり首をかしげてきた。
「あの、つまりだねえ……」
訳を説明しようと口を開いたその途端、紅がピクンと身体をこわばらせる。どうやら何かに反応しているらしい。
「隠れて!」
鋭い声で告げられ、善郎は紅に言われた通り地を這う。
「い、いったい何が?」
草の中へ隠れながら紅に説明を求めると、左側にあった生け垣の側へと引きずり込まれた。
「人の気配。追っ手……」
「はあ。よくわかりますなあ、そんなことが……」
小声で語る紅に感心して彼女を見ると、善郎は絶句する。紅の手から茶色い体毛が生え、爪も鋭く変化していた。
「じゅ、獣人!」
目を瞠る善郎の前で、紅の手はさらに変化していく。
(じょ、冗談じゃねえぞ!)
内心で絶叫していると、複数の足音が近づいてきた。




