頑固おやじ、考える(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
「そ、それより、場所の特定をしませんとな」
善郎は白眼視してくる碧の視線から逃れ話題を変えた。だが、みのりのほうはそうもいかなかったらしい。居住まいを正し、頭を下げてくる。
「うちの側近が失礼なことを言って、すみませんでした」
やはり若いながらもきちんとした方だ。必要な時に間違いを認めることができる人間はそうはいまい。善郎は深い敬意を込めてみのりを見やる。なんと大人げないことをしてしまったのだろう。己の短慮を恥ずかしく思い頭をかいた。
「いやいや、こちらこそ。つい私情を挟んでしまいました。面目もございません」
深々と首を垂れると、みのりがはっきりとした口調で宣言してくる。
「いえ、いいんです」
凛とした声に身の引き締まる思いで顔を上げると、みのりの後ろに控えていた碧が不服そうな声を上げた。
「僕はよくありませんけど」
「黙りなさい、碧」
明後日の方角を見て告げてくる碧をみのりが叱責する。 仲のよい兄妹の喧嘩にしか見えないその光景が、なんとも微笑ましい。善郎は目を細め、一人っ子で育った娘のことを思った。
「それで、えっと場所ですよね」
話を元に戻してきたみのりに対し、善郎は慌てて頷いた。
「あ、はい。そうですそうです」
思い出に浸りすぎて現実を見失っていたらしい。善郎は決まりの悪い気分で頬をかく。それをよそにみのりが顎に人差し指をあてた。
「そういえば、昔何かの本でずっと梅の実が青いままの木があったような?」
よく思い出せないのか、自信なさげに目を上向けるみのりに善郎は尋ねる。
「本、ですか?」
「そうなんです。あれは確か文兎先生の授業の……」
自分も本を扱う稼業ではあるが、そんなことを書いた本にはあまりお目にかかったことはない。
(子供用の絵本か何かかねえ……)
だとすると、まずは図書館に行き調べてみるのが得策だ。結論づけて声をかけようとすると、碧がおもむろに口を開いてきた。
「お嬢様、それは黄梅に存在する神社や寺院の授業の宿題ではないですか?」
なるほど、と善郎は内心で唸る。さすがは梅宮家の次期当主。黄梅に伝わる伝承についての勉学にも力を入れているのだろう。
「神社や寺院、ですか……」
黄梅にはそれこそ無数の社寺仏閣がある。だが、いつまでも青いままな梅の実が成る木のある神社や寺院には、聞き覚えがない。腕を組み考え込んでいると、みのりが唐突に手を叩いた。




