お嬢さま、製本屋の誤解を正す(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
「兄さん……?」
みのりは、胡乱な目で碧を見つめる山波を見て焦る。早く訂正しなくては。
「あ、違うんです。兄妹なんですけど血は繋がっていないんです」
血縁関係ではないことさえわかれば問題ないだろう。それでも人によっては敬遠するかもしれない。山波がそのどちらに入るかはわからない。今はまだくすぶっている程度だが、いつ噴火してもおかしくない状況だ。今なら別の話へ切り替えて、爆発を未然に防ぐことができるはずだ。しかし、その考えは碧のせいですべて水の泡となった。
「そうなんです。ですから結婚だってできるんですよ」
恍惚と話す碧に、みのりは舌打ちをしたくなった。
(何、余計なことを言っているのよ! これじゃ火に油を注ぐようなものじゃない)
案の定、山波が食いついてきてしまった。せっかく、鎮まりかけていた山波の熱が再度上昇する。しかも、先ほどよりもさらに熱くなっているようだ。こめかみに血管が浮き出ていた。
(あーあ、血管切れても私は責任取らないからね)
全責任を碧へ委ねてしまおう。みのりは山波のことを碧へ任せ、傍観者になることに決めた。
「しかし、血がつながっていないとはいえ、兄妹じゃあないですか!!」
「それが何か?」
山波は、碧の冷笑に怯むことなく人差し指を立て何やら説得し始めた。
「いいですかい? 結婚は相手が遠すぎても近すぎてもだめです! それだけは絶対にダメなんだ!」
(いきなり結婚の話? もしかしてこのおじさん、結婚にすごく苦労したのかしら?)
必死に話す山波の姿が不憫に思えてきた。しかし、碧の応酬は続く。
「僕の紅を思う気持ちに、そんなもの一切関係ありませんよ。大切なのは、お互いがどう思っているかでしょう?」
「碧の場合は一方通行じゃない」
正論を言っている碧へ、突っ込みを入れる。だがその声は彼らの耳には届かなかったらしい。
「そんなのは茶番ですな」
山波は、聞く耳持たずと言ったふうに、鼻を鳴らしてそっぽを向いた。
「そうですね。そんなものは当事者だけがわかっていれば充分ですからね」
(そもそも碧の場合は、紅に伝わっていないじゃない)
彼らの恋愛談義に、いい加減厭きてきた。みのりは気づかれないよう欠伸をかみ殺す。すると、山波が急に頭を掻き毟り始めた。
「俺は認めん! 認めんぞ! 芽衣子!!」
突然の喚き出した山波に、目を見開く。おそるおそる声をかけた。
「あの、山波さん?」
「絶対、ぜったいに……ってあれ?」
こちらの声が聞こえたのか、我に返ったようだ。それでもまだ安心できず、みのりは窺いながら話しかけた。
「大丈夫ですか?」
「いや、あ、はい。あは、あははははは」
(この人を仲間にして良かったのかしら)
頭をかいて誤魔化す山波を見ながら、みのりは一抹の不安を感じた。




