頑固おやじ、禁断の恋に眉を顰める(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
「本当の意味がそうだとしても、『異なる土』って意味として使ってるのならここじゃダメってことじゃない。山波さんは、それがわかっていたのですか?」
非難がましい目で見てくるみのりへ対し、善郎は素直に頷く。
「いえ、思いついたのは今しがたです。家で読んだ時は思いつきもしませんでしたや」
面目ない気分で小さく頭を下げるが、みのりの苛立ちは収まらなかったらしい。猶も苦言を呈してくるみのりを前に、善郎は小さく万歳して後ずさる。このままでは取って喰われるかもしれん。射抜くようなみのりの視線に生命の危機さえ感じる。
(どうしよう……)
ここはやはり土下座しかないか。冷や汗をかきつつ膝を折るのを抑えたのは、後ろにいた碧の声だった。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいお嬢様。それよりもこれでここではダメだとわかったのですから良いじゃありませんか」
「そ、そうですよ。碧さんの言う通りです」
碧の発言に、善郎はこれ幸いと便乗する。だが、納得がいかないらしいみのりが、不服そうな顔で碧を見上げた。
「じゃぁ、どこだって言うのよ。『青い梅』なんて高くなくたってたくさんあるじゃない」
「そ、それを今から考える、ということでして……はい」
善郎は引きつりそうな頬を必死で隠し愛想笑いをして見せる。だが、こちらの浅い意図などはや読み切っているらしいみのりは、小さく片眉を上げ唸った。
「『青い梅』変。実、完熟する」
ふいに呟いたのは碧の隣で佇んでいた紅だった。
「確かに。熟さない梅の実なんて聞いたことありませんな」
なかなか鋭いことを言う少女だ。さすがみのりお嬢様の側近といったところか。善郎は心底関心しながら深く頷く。みのりも紅の発言には響くものがあったらしい。顎に手をあて低い声を出す。
「確かにそうよね……『青い梅』なんてありきたりだから気づかなかったわ」
「さすが僕の紅ですね」
相好を崩して紅を見つめる碧を見て、善郎は目をまばたいた。
「あ、お二人は恋人同士だったんですか! それはそれは、お似合いですな~」
まさしく美男美女といった風情だ。
(いるところにはいるんだなあ、こんなカップルも……)
うちの芽衣子だって笑顔さえ見せていれば、まんざらでもない容姿をしているとは思うのだが。
(なんせ相手が相手だからなあ……)
密かに溜息を吐いていると、紅が淡々とした口調で答えてきた。
「違う」
言葉短かに告げた紅を前に、善郎は目を瞠る。
「へ? 違うんですかい?」
いまいち状況が呑み込めずに固まっていると、碧が紅に憂いを含んだ瞳を向ける。
「紅、僕はいつだって恋人になったっていいと思ってるんだよ」
「兄さん、うるさい」
「紅ー」
紅に縋りつくようなしぐさをしている碧を見つめながら、善郎は聞き捨てならないことを聴いた気がして、眉間の皺を深くした。




