お嬢さま、側近たちと合流する(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
ドアを開けると目の前に貸したパーカーを羽織ったままの紅が立っていた。心配気な表情で携帯を両手で握っている彼女の手を、みのりは軽く握り微笑みかけた。
「お待たせ、紅」
紅を先頭に車へと向かった。すぐに、見慣れた黒光りする車が見えてきた。ほんの少し離れただけなのにとても懐かしく感じる。
「お嬢さまと後ろの人、後部座席」
紅が後部座席の扉を開けた。そのままみのりは滑るように中へ乗り込んだ。
「これ、かなり目立つんじゃねえかな……」
「山波さん、急いで」
ぼそっと呟いたまま乗ろうとしない山波を急かす。
「は、はい!」
そんなに強く言ったわけでもないのに、山波が恐々と乗り込んできた。みのりは、碧の方へ身を乗り出す。
「碧、守備は上々なの?」
「お嬢様、僕を誰だとお思いで?」
ミラー越しに碧がにやりと笑う。
(訊くまでもないってことね)
みのりは、自信たっぷりの何かを企んでいそうな碧の笑みに苦笑した。助手席に座った紅がシートベルトを締めると同時に、碧が口を開いた。
「それでお嬢様? 我々はどこへ向かうのですか?」
「墨良神社よ」
間髪をおかずに応えた言葉に対して、碧が訝しげな顔をする。理由を聞きたそうな彼の表情に、笑みがこぼれた。いつも何歩も先を行く碧にわからなくて自分だけがわかっていることが、彼に勝てたような気がして嬉しかったのだ。顔が緩みを抑えきれずニコニコしていると、山波がおずおずと話しかけてきた。
「あの……。差し出がましいようですが、早く出した方がいいかと……。前から人も来ましたし……」
彼の言葉に前を向く。見知った顔を見つけ、みのりは即座に助手席の後ろを盾に顔を隠した。
「みのり様?」
山波が、突然のこちらの行動に驚いた様子で見てくる。しかし、みのりにはそれどころではなかった。
(なんでこんなところにやつがいるのよ! 本家から何か言われたのかしら……)
グルグルと考え出したこちらとは反対に、碧ののん気な声が聞こえてきた。
「おや、あれは涼介君じゃないですか? その隣の小さな子は誰ですかねー? 弟さんですかね」
「あいつに弟なんていないわよ。そんなことより早く車を出しなさい!!」
昨日に引き続き今日もあの顔を見てしまった。みのりは自分の不運さを呪った。
「お知り合いですかい?」
キョロキョロとこちらと運転席を行ったり来たりしている山波を無視して、前方から歩いてくる涼介たちを睨みつける。水色のシャツの上に白いパーカー、グレイのジーンズといった出で立ちの涼介が、紺色の袖がついた赤いとTシャツに、黒のズボンを履いている小学生くらいの男の子を連れて歩いている。
(なんで小さい子と一緒にいるのかしら? しかもなんだか楽しそうだし……)
昔会ったときには見ることがなかった涼介の笑みに苛立つが募る。
「えぇ、みのりお嬢様にとって忘れられない相手とでもいいましょうか」
「ほう。いいですなあ、初恋ですか」
山波の言葉に碧がくすくすと楽しそうに笑う。その耳障りな声が癪に触った。
「とっくに忘れてるわよ! 存在自体覚えてないから車で轢いてもわからないんだからね」
「ははは。おっかない話ですなあ」
こちらの言動に山波が距離を置くように、座り位置をずらす。
(もう、このおじさんなんなの! いちいちビクビクしすぎなのよ)
すでに外面用の仮面を外してしまっていた手前今さら取り繕うこともできない。何より、苛立ちを抑えることで精一杯だった。
「いいから早く車を出しなさいよ!!」
「そうですね。お嬢様の血管が切れる前に墨良神社へ行きましょうか」
碧は、何が楽しいのかにやけた笑みを浮かべたまま車を発進させる。みのりは、涼介たちと目が合わないように顔を伏せた。




