頑固おやじ、種植えの仕組みを知る(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
墨良神社へ辿り着くと、みのりが厳しげな口調で告げてきた。
「山波さん、私についてきてください」
軽くこちらを一瞥し、先頭きって正面の階段を駆け足ぎみに上っていく。
「は、はい!」
善郎は粉がついたゼンマイらしき植物の鉢植を持ったまま、直立不動で返事をした。それから、一足先に駆け上がりだした御付きたちの背中を追う。
「それでお嬢様、どうして墨良神社なのです?」
ステップを踏むように軽い足どりで階段を上っていた碧が、みのりへ尋ねた。
「山波さんが実ったものと私が実らせたものを掛け合わせたら、古文書のヒントが出たのよ」
「ヒント?」
ひたすら前方だけを見据えているみのりに対し、碧が訝しげな声をあげる。ここは自分が事情を補足するべきところだろう。善郎は慣れない運動に息を切らせながら、自信たっぷりに口を開いた。
「話合いの結果、ここしかない、ということになりまして」
「そう。それを山波さんと一緒に解読したらこの場所だってことになったの」
振り返ったみのりが言葉へ重ねるように早口で結論を語り、同じく立ち止まった碧が目を丸くする。自分たちを交互に見つめてくるところから察するに、どうやら押し隠していた興奮が表に出てしまっていたようだ。大人気ない言動を内心で恥じ入っていると、碧が瞳をしばたたきながら問いかけてきた。
「ということは、山波さんは古文書が読めるのですか?」
「はあ、まあ。ほんの基本程度ではありますが……」
完璧にはほど遠い知識なだけに、なんとなく決まりが悪い。誤魔化すように頬をかいていると、それは心強い、と碧が感心したように微笑んでくる。
「恐れ入ります」
面映い気分で頬を熱くしていると、階段を上がりきったみのりが、早く、と手招きしているのが見えた。
本殿の鳥居をくぐると、みのりが奧にある梅の木へと駆けていく。誘われるままについていくと、ここです、と種を植えた場所を指さした。
「お嬢様、ここで何をするのですか?」
碧が珍しく含みのない声で尋ねる。
「もう一度ここに植えるのよ」
短く宣言するなりしゃがみこんだみのりが、素手で土を掘り起こし始めた。
「わたくしも手伝います」
あんな白くて細い手をした存在を、たった1人だけ汚させるのは偲びない。善郎はみのりの隣へしゃがみ込み、一緒になって掘り起こす。穴が一定の深さになったところで、善郎は慎重に鉢植からぬるぬるネバネバを取りだし穴の中へ置く。そこへ、みのりが丁寧に上から土をかけていった。
「やっぱり水が必要なんでしょうか?」
植物を植えたら水をやる。それが植物を育てるときのセオリーなのかもしれないが、中には例外もあるだろう。万が一のときを考えて問うと、みのりが、ええ、と頷いた。
「古文書に『古の流るる深き水』と書いてありましたから」
土を軽く均しながら答えたみのりが、背後を振り返らず手を後ろへ差しだす。
「碧、水をちょうだい」
碧がペットボトルに入った水を取りだした。
「古の流るる深き水」ということは、あの中に入っているのは古い水、ということだろう。
(古い水……。黄梅で古い水ってえと……)
やはり、まいまいず井戸の水ということだろうか。いまいち状況を掴みきれず、善郎は助けを求めて碧を見やる。が、碧が視線に答えることはなく。無言で見守る中、碧からペットボトルを手渡されたみのりが、ためらうことなく植物へと水をかけた。




