頑固おやじ、逃亡者にされる(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
近づいてきたのは碧と同じような黒服を着た男たちだった。あっという間に周囲を取り囲み、みのりへ向かい丁寧に一礼する。
「みのりお嬢様、お探しいたしました」
だが、みのりが黒服たちに返答することはなかった。拳を握り締め険しい相貌で唇を引き結んでいる。
(なぜだ?)
深々と礼をしてくるところからすると、この黒服たちも側近とやらではないのだろうか。状況についていけず混乱していると、碧がみのりに声をかける。
「お嬢様、こちらへ」
碧が紅に頷くと、紅がみのりの手をとった。走り始めるみのりたちを前に呆然としていると、碧が振り返る。
「山波さんもついてきてください」
「へ? お身内の方じゃないんですかい?」
目を白黒させていると、碧が強引に手を引っ張ってきた。
「おっとと!」
バランスを崩しながらも横に並んで走り出すと、碧が手を離し説明を始めた。
「先ほど申しましたが、今お嬢様は、次期当主になるための試練中なのです。彼らはその妨害役とでも言いましょうか」
なんとなく視線を逸らしぎみに言葉を紡ぐ碧を前にして、善郎はこれ以上の詮索は無用であることを判断した。
「なるほどー! 当主になるのも大変なんですなあ!」
我ながらわざとらしい声でしきりに頷いてみせる。すると、碧がこちらの意図を悟ったかのような笑みを浮かべてきた。
「これも次期当主となるためには致し方ないことなのですよ」
爽やかな笑顔で告げる碧に首肯していると、前を行くみのりが碧へ問いかけてきた。
「碧、そんなことよりもどこへ向かっているの?」
「特に考えておりません」
碧のあっけらかんとした答えに、みのりが吠える。
「えっ! どうするのよ」
まったくだ、と内心で同意していると、碧がのんびりとした口調で話しかけてきた。
「そうですねー。そうだ、山波さん。どこかに隠れる場所をご存じないですか?」
「隠れるところ、ですか?」
ここに地の利があるのは自分だから、そのまま家に帰るというのが得策なような気もするが。そう思い碧に視線を送ると、青年が、ええ、と人差し指を立ててきた。
「このまま山波さんのお宅へ行くのは危険なので」
にっこりと微笑む碧を見て、善郎は頷いた。つまり、あの黒服たちはそれ相応の腕と知恵を持っているということなのだろう。
(親衛隊とか、そんなものなのかねえ……)
内心でひとりごちつつ、碧へ提案する。
「それなら、近くに知り合いがいますから。そこへ向かうのはどうでしょう? 煎餅屋なんですが」
問いかけに、みのりが承諾してきた。
「案内お願いします」
「わかりました」
簡潔に告げてくるみのりに肯定していると、遠くから複数の足音が聞こえてきた。思った以上に追手が早い。善郎は一行の先頭に立ち、左に曲がる。
「こっちです」
短く促して細い路地裏へ入っていった。




