お嬢さま、説得する(高木)
≪ 梅宮みのり視点 ≫
「大丈夫ですよ、山波さん。会長さんも次期当主たるみのりお嬢様のご助力のためなら進んで譲られるのではないですか?」
碧が、なかなか承諾しない山波に詰め寄る。まるで相談相手のいない老人に優しい声をかけて騙す詐欺師のようだ。黒いスーツのせいもあるだろうが、碧の場合はそれだけではない。あの薄ら寒い笑顔が、余計に胡散臭く見せているのだろう。
「いや、しかしですね」
(あのおじさん疑り深いのかしら?)
山波はまだ警戒しているのか、眉間に皺を寄せたままだった。碧が膝を曲げ、山波にだけ話しかける。
「それとも、会長さんに……」
「や、それもちょっと……」
最後の方はまったく聞き取れなかったが、みのりには碧が山波を脅していると容易に想像がついた。
(きっと囮になってくれた人も、あんな感じで迫られたのね)
腹の立つことの方が多いが、碧がこちら側の人間で本当に良かった。みのりは心底実感する。しかし山波はなかなか首を縦に振らない。あの笑顔と巧みな話術で、どんなことも自分の思い通りにしてしまう碧が苦戦している。
(あれが頑固親父っていうのかしら?)
ずいぶんと難攻しているらしい。どのくらい時間が経ったのかわからないが、みのりは強情な山波にだんだんイライラしてきた。
(なんて面倒くさい親父なの! もう待ってられないわ!)
気がつけば碧と山波の間に割り込んでいた。
「どうしても必要なんです。譲ってください! お願いします」
思いのほか大きな声が出てしまった。山波が目を丸くしたまま微動だにしない。しばらくして口を開く。
「はあ……。まあ、そういうことでしたら……。ひとっ走りして取りに行ってきますが」
しぶしぶではあるが、了承してもらえたようだ。みのりはホッとため息をついた。
「それでしたら、わたくしどもも一緒に」
自己解決し勝手に家へ戻ろうとしている山波を碧が止めに入る。しかし、その言葉はすぐさま山波に拒否されてしまった。
「いやいや、次期当主様にそのようなことはさせられません!」
恐縮する彼に、ここでもまた押し問答になるのかとみのりは話し合う前からげんなりする。そこへ紅の警戒するような声が聞こえてきた。
「兄さん」
紅は目だけを動かし、辺りを探っているようだった。自分にはさっぱりわからないが、何かがいるらしい。碧も気がついていたのか、紅へ向かって嬉しそうに相槌を打つ。
「分かってるよ、僕の紅。みのりお嬢様、ちょっと厄介なことになりそうです」
普段よりも甘くなった声を紅へ向け、どこか楽しんでいるようなひょうひょうとした声を自分に向けてきた。その合間に紅同様碧も、目線だけを動かして辺りを窺っている。
「どういうこと?」
もう本家の人間に見つかってしまったのだろうか。みのりは緊張で手に汗を握った。そんな中、山波は異変に気づいていないのか、話を続ける。
「ここはわたくしめが取りに……」
その声を最後まで聞くことができなかった。なぜなら2、3人の黒いスーツ姿の男に取り囲まれていたからだ。




