頑固おやじ、苦悩する(朝川)
≪ 山波善郎視点 ≫
「あー……」
時計の時を刻む音がやたら耳につく。縁側から朝の憎らしいほど朗らかな陽射しが差し込んでくる。
「どうしたもんか……」
居間の座卓の上に置かれた異様な植物を前に腕を組んで唸っていると、妻の和子がお茶を持ってやってきた。
「どうするんです? これ」
座りながら尋ねてくる和子に、善郎は黙ってかぶりを振る。
「芽衣子は?」
二日酔いと心労で痛むこめかみを押さえながら問うと、和子は湯呑を手で包みながら答えてくる。
「とりあえず会社に行かせました」
「そうか……」
自分の失態で梅の種を発芽させてしまった娘の芽衣子は、こちらが思う以上に取り乱した様子だった。
なんとか落ちつかせ、なんだかんだといつものように食事を摂ったはいいものの。
責任は自分が取ると言い出し、なかなか家を出ようとしなかったのだ。
けれど、妻の説得の甲斐があって、どうにかいつも通りの娘に戻ってくれたらしい。湯呑を両手に一息吐く。
「これでこいつも元に戻ってくれりゃあ問題ないんだがな」
目前でねろねろと粘液を吐き出し続けている植物を見据えながら、善郎はしみじみとぼやいた。
「戻ったら、ってあなた、出てしまった芽を戻す方法なんてあるんですか?」
妻が出涸らしのお茶を湯呑に入れながら、問いかけてくる。
「そりゃ、お前。あるわけないだろうが」
「ですよねえ」
植木鉢を眺めながら同意してくる妻に頷きながらどうしたものかと頭を巡らせるが、いい案が少しも浮かばない。
「まあ、植えてしまったものはしかたないんじゃないですか? 会長さんには帰ってきたら素直にお詫びすればいいじゃないですか」
きっとわかってもらえますよ、と呑気に和子が微笑む。
「バカ言え!」
そんなこと、言えるわけがない。会長は自分にならば、と信頼して種と古文書を渡してくれたのだから。
「そうだ! 文書だ、文書!」
慌てて風呂敷に包まれていた古文書を手に取り、中身を見る。だが、古文書に書かれている文字は、古字に慣れた自分でも解読不可能な内容だった。
(さっぱりわからん!)
善郎は古文書を閉じ、風呂敷へ包み直す。妻が何か言いたげな様子で見てきたが、結局何も言わずにTVをつけた。
「どれ……」
なんとなくその場に居づらくなって立ち上がる。
「行きますか?」
仕事場に、という意味だろう。尋ねてきた和子へ、善郎は首を横に振った。
「散歩いってくる」
「あ、はいはい」
和子はしきり頷いて、視線をTVへと戻す。なんだか色々見破られている気がするが。
(まあ、いいか……)
妻の後ろ姿に苦笑い、善郎は部屋を後にした。




