ドジっ娘、飲み会に参加する
都庁を出て、黄梅駅行きの電車に乗り込む。通勤特快に乗り換えるべきか迷ったが、疲れていたのでやめておいた。電車も達河駅で駅員が入街証を確かめにきた以外はスムーズだったが。それでも果杷駅まで辿り着いた頃には、19時を少し回ってしまっていた。
麻里は急いで会場の花米へと向かう。店に入ると、威勢のいい女性店員が席まで案内してくれた。
「来たきた! 小越さん! こっちこっち! 真ん中の吉永さんの隣に座って!」
相田が嬉しげに座席へ誘導してくれる。
「小越さん、ビールは大丈夫?」
「あ、はい」
相田の問いに答えると、彼女がメニューを差し出してきた。
「第一弾はもう頼んじゃったんだけど、好きなのあったら注文して」
「ありがとうございます」
礼を言ったところで、店員がビールと料理を持ってきた。相田が集まった面々に声をかける。
「お皿足りますか? ビールは? 大丈夫? はい、じゃあ、始めますよー!」
相田の声に反応して、それぞれがグラスやジョッキに手を静まり返った。
「えーっと、ではみなさんもご存じだとは思いますが、今年度入られたお二人、小越麻里さんと吉永夏希さんです」
相田の紹介に応え、麻里は吉永とともに立ち上がる。
「小越です。まだまだ右も左もわからない状態ですが、がんばりたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします」
吉永の一言が終わって2人で頭を軽く下げると、拍手が沸いた。その音へ被せるように相田が言葉を紡ぐ。
「今回はこの2人の歓迎会と称しまして、黄梅学園高等部一同の交流を深めようと、この場を設けさせていただきました。そんなわけで、私たちのさらなる飛躍を願いつつ、乾杯の音頭をとらせていただきます。それではみなさま、乾杯!」
乾杯、と一同に声が上がった。グラスを打ちつけ合い口に含むと、思った以上に喉が渇いていることに気がつく。
(あらら?)
いつもより口当たりがまろやかな気がする。グラスをかたむけ思うまま一気に飲み干すと、周りから拍手と歓声が沸き起こった。
「小越先生、案外イケる口なんですねえ」
嬉しげに話しかけてくる松波に、麻里は赤面する。
「いえ、今日はちょっと喉が渇いてて」
手を振って言い訳を試みるが、構わず新たなビールをそそがれた。
「まあ、でも確かに忙しそうだったわよね」
空になったビールを座席の隅に置きながら、相田が尋ねてくる。
「誰かと会う約束だったの?」
麻里は内心冷や汗をかきつつ否定した。
「いいえ。あー、えっと、人探しというか……」
「それって、お身内?」
「いいえ。あの、梅宮さんを捜していたんです」
ためらいがちに告げると、場の空気が一変した。
「梅宮さんって、梅宮みのりさんのこと?」
「はい。あの、どうかしたんですか?」
麻里は首をかしげる。 相田がポテトグラタンを皿によそいながら、何気ない素振りで問いかけてきた。
「梅宮さんと何かあったの?」
「いいえ。ただちょっと気になることがあって……」
麻里は答えて目の前にあった御通しを口にする。
「気になることって?」
やけに食いついてくる相田へ対し、麻里はここはチャンスかもしれない、と腹をくくった。
「彼女、いつも1人じゃないですか。授業中もたいていうわの空で聞いていないみたいだし。何か気になることがあるのかと思ったものですから。みなさんは、何かご存じですか?」
表向きではあるが本心から尋ねると、側にいた相田や横澤、松波が一様に溜め息を吐いてきた。
「小越さん。悪いことは言わないから、彼女には関わらないほうがいいわ」
相田が重々しい口調で告げてくる。
「なぜですか?」
「だって……」
重ねて問うと、相田が口を濁した。気まずそうに視線を逸らす相田の代わりに、横澤が口を開く。
「あのですね。梅宮みのり嬢は我々にとってはこれ以上ないほど特別な人間なんですよ」
「それは、梅宮美都子理事長の娘さんだから、ですか?」
尋ねると、横澤が苦笑う。
「確かにそれもありますが。そもそも彼女は特別なんです。何しろ梅八家の頂点である、梅宮家の次期当主となる人物ですから」
「はあ……」
麻里は曖昧に頷き、でも、と続ける。
「それでは他の生徒に示しがつかないんじゃないでしょうか。どんなに大きなお家の跡取りであろうと学園の生徒である以上は、対等に教育するべきなんじゃないですか?」
言葉を切ってビールを口に含んでいると、いいかい、と松波が諭すような声音で話を継いできた。




