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Gold Plum ー 西多摩地区鎖国国家地帯 ー  作者: 宿り木
第一章 はじまりの種 ~野木崎律子の場合~(高木)
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主婦、庭いじりをする①

 翌日。律子は朝から精力的に家事をこなしていた。午後からガーデニングを勤しもうと思っているからだ。趣味に没頭して家事を疎かにしないこと。それがガーデニングを始めたときに交わした夫との約束だった。


(私が何かに没頭して、食べることを忘れちゃうなんて思わなかったわー)


 寝食を忘れてのめり込むなど今までなかったから知らなかったのだ。しかし自分はどうやらその手のタイプだったらしい。


(何事も節度をもって楽しまなきゃダメってことよね)


 掃除機をかけながら昨日買ったマリーゴールドとペチュニアをどう植えようかと考える。それだけでワクワクしてくるのだから現金なものだと苦笑した。いつもは遅々として進まない家事もあっという間に終わり、気がつけば昼はとうにすぎていた。


(まだ、子供たちが帰ってくるまで2時間はあるわね)


 急いで昼食を食べたかいもあってか、1時になると同時に食べ終わる。食休みをすることなく、子供たちから母の日にプレゼントしてもらった腰巻きタイプのピンクのエプロンと揃いの手袋を身につけ、庭へと出た。


 もうそろそろ梅雨に入るはずなのだが、今日も初夏のような陽気だ。日焼け防止のためとはいえ、長袖を着たのは失敗だったかもしれない。


(せめて、もう少し薄手の長袖にすれば良かったかしら?)


 だが着替えに戻るのも面倒だ。律子は諦めて、少しだけ柔らかくなった日ざしに照らされている花たちに話しかけた。


「今日もキレイよ。今日も暑いから、もう土がカラカラだわ。のどが渇いたでしょう? 夕方になったらお水をあげるから待っててね」


 庭を横切り、昨日買った苗の場所へと向かう。一昨日植えたばかりの白と薄ピンクと紫色のペチュニアが見えてきた。


(この子たちの周りにマリーゴールドを植えようと思ったけど……)


 昨日買った苗だけで寄せ植えするほうがいいかもしれない。ペチュニアの周囲にはまだ余裕はあるが、植え替えしたばかりだから土になじんでいないだろう。せっかくキレイに咲いてくれる子たちを弱らせるのは忍びない。律子は新たに寄せ植えするべく、使っていない鉢植えを出すことにした。


「ペチュニアさんで囲いを作って、真ん中にマリーゴールドちゃんを植えたらきれいよね」


 ポットから紫色のペチュニアを取り出しながら、お気に入りの歌を口ずさむ。巷では悲恋の歌として代表する曲なのだが、自分にとってはつき合い始めたばかりの恋人たちの歌だった。それというのも、いかに人目を憚らず二人だけの世界を作っていたかという内容の歌詞を友人たちがその悲恋の曲に合わせて披露宴で替え歌として披露してくれた曲なのだ。それからというもの、律子はこの歌を聞くときは必ず友人が替え歌で歌ってくれた歌詞に変換してしまう。口ずさむときも替え歌の歌詞なので弾んだような感じになってしまい、原曲がなんなのか聞かれる事もしばしばあった。


(よし、これで植え替え完了っと)


 植え替えを終え、律子は庭の草むしりへと移行する。しゃがみこんで作業していたため、足が痺れてきた。血の巡りをよくするため膝を伸ばすよう立ちあがると、葉っぱのような色合いのパーカーにジーンズ姿の青年が目に入った。


(この辺りじゃ、見かけない子ね? もしかして押し売り?)


 昼もとうに過ぎた時間にウロウロする人間といえば、勧誘くらいしか思いつかなかった。


(でも、勧誘ならスーツよね。そうすると学生って可能性も捨てきれないわね)


 すぐそばに子供たちが通っている私立黄梅学園がある。だが、こんな時間から学校へ行く人間なんているのだろうか。首をかしげたと同時に、閃く。


(もしかて不登校の子が学校へ行くために頑張ってる途中なのかも!)


 きっとそうに違いない。律子は、自分の推理に満足げに頷いた。


(でも制服を着てこないと中には入れないはずよね。久々で忘れちゃったのかしら? まぁ、どうでもいっか)


 青年の姿が見えなくなったとたん興味をなくし、律子は庭へと戻る。そして再び、草むしりを再開させた。しばらく経って、何かが近づいてくる音が聞こえてくる。屈んでいた腰をあげ、音のする方へ視線を向ける。家の脇を黒い車がものすごい勢いで走り去って行った。


「まったく、住宅街であんなスピード出すなんて、常識ないのかしら?」


 もうすぐ子供たちが帰宅する時間だというのに困ったものだ。危ない走り方をする車に怒りを覚え、律子は顔をしかめた。


(そういえば、さっきの車もスモークガラスしてたわね)


 ここは平和な場所だと思っていたのだが違うのだろうか。


(とにかく子供たちが帰ってきたら、スモークガラスのある車には近寄らないことって言っておかないと……)


 律子は決意を新たに、心拍数のあがった鼓動を落ち着かせるため庭の花を愛でた。


(さてと、続き、続き)


 軽く取るくらいだった草がもう袋一杯になってしまった。新たに袋を取り出そうと、物置へと移動する。門扉に近づくと、若いスーツ姿の女性が走ってきた。

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