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Gold Plum ー 西多摩地区鎖国国家地帯 ー  作者: 宿り木
第一章 はじまりの種 ~梅畑涼介の場合~(朝川)
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お坊ちゃん、危機一髪

 なだらかな坂道を早足で進む。おそらく下校時刻はとっくにすぎているはずだが、児童や生徒たちの姿は少しも見えない。


(もしかして、そんなに急がなくてもよかったのか?)


 まあ、あのお嬢様のことだから、万が一学園へ登校していても帰りは迎えが来ているのだろうが。それでも委員会やら部活やらで、学内に残っている可能性は十分にある。とはいえ……。


「そもそも、家出していて授業なんか受けにくるのか?」


 一度は律儀な人間だから来るかもしれない、と単純に思っていたが、万が一本気の家出だとしたらいない可能性のほうが高いかもしれない。

 涼介は呻いた。


(いろいろ本気出してないなあ、俺)


 立ち止まり、腕を組む。


(でもまあ、他に手がかりもないしな)


 ここはやはり予定通りに学園へ向かったほうがいいだろう。こめかみの下を軽く指で掻きながら誰にともなく内心で言い訳を試みていると、前方からモーター音が近づいてくるのがわかった。赤いバイクに白いヘルメットをきっちり被り紺の制服に身を包んだその姿は、遠目から見ても郵便屋であることが一目瞭然である。


(ここらへんは配達が午後なのか)


 少し端に寄りながら何気なくその姿を見送っていると、郵便配達人の背中に自分にはまったく馴染みのないものを見つけた。お尻の辺りから、大きなふさふさとした茶色い尻尾が生えている。


(あ、そうか。郵便屋は獣人たちの仕事だったけか)


 涼介は目を瞬き、事実を認識していなかった己を少しだけ恥じた。


「あの尻尾からすると、あの獣人さんはムササビかな?」


 いや、郵便配達業はたしかムササビではなく、ウグイスなどの鳥類たちが担っているはずだ。


(バイトかな?)


 たまに別種がアルバイトしてるとかいう噂を小耳には挟んだことがあった。


(獣人ねえ……)


 涼介は歩きながら改めて辺りを見回す。自分が今、獣人と人とのハーフが多く住む地域、根株にいることを思い出したからだ。


「さっきの獣人はハーフかな、それともオリジンかな?」


 呟きながら先を歩く。梅と名のつく自分の家柄は、代々獣人を嫌っている。郵便や運送業、役所や市のあらゆる機関に携わっている獣人は決して少なくはないのだが。それでも自分たち一族の長である梅宮家の当主が良しとした獣人以外は、認められていないのが現状である。それゆえに、一般市民の間でも差別する者は多く、様々な軋轢も生まれ続けていた。


「すべては『黄金梅』のため、か」


 涼介は誰にともなく呟き、白い雲がぽっかりと浮かんでいる青空を見上げる。

願いが叶うという黄金の梅の実。それを守ることが自分たちが住むこの黄梅市という地の安泰に繋がるのだ、ということは重々承知していた。何しろ『黄金梅』を守るというそれだけのために、梅八家は自らの街と他の都道府県との交流を絶ったのだから。自分たちは黄梅市民の発展と安寧のために『黄金梅』を守っている。そのことが梅八家の矜恃きょうじなのだ。


 それなのに獣人は、その大切な『黄金梅』が彼らの物であると主張し続けている。

これでは平行線になるのも無理はない。かといって、『黄金梅』を都や国に献上することも、ご先祖様の手前安易にやってはいけない気がするのだ。

 涼介個人としては獣人たちに対して悪感情を抱いたことは一度もなかったし、これからもないだろう。だが同時に、種族間の争いがなくなるなどという日も、来るはずはないと確信していた。


「まあ、何事も諦めが肝心ってことだよな」


 涼介は小さく肩を竦める。いつの間にか止めていた足を再び動かし、学園を目指すのだった。


 歩くこと数十分。やっとのことで私立黄梅学園の西門へと辿り着く。なんだか途中、埒もないことを色々考えすぎたせいで、思った以上に時間がかかってしまったらしい。涼介は内心で小さく反省しながら、開け放たれた門扉を見た。

ほとんど見るべきものはないのだが、白いコンクリートにはめ込まれた鋼鉄の板に目をやる。『私立黄梅学園』と印されたそれをしばし眺めた後、校内へ入るべくゆっくりと足を伸ばす。

 刹那、前方から轟音が轟いた。

 咄嗟に横へ避けて振り向く。

 ここはどこぞの峠か、と錯覚しそうなほどのフルスピードで、黒塗りの高級車が走り屋よろしくパーカーを掠めて通りすぎた。


「あっぶねえなあ」


 攻めるなら学校でなく山奥にしろ、と悪態を吐きながらみるみるうちに遠くなる外車を見つめる。誰が乗っているのか定かではないが、どうせどこかの成金野郎に違いない。


「今度見かけたらただじゃおかないからな」


 ナンバーを押さえて必ず警察に一懇入れてやる。涼介は固く心に誓いながら、西門を通り高等部に続く上り坂へと足を踏み出した。

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