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第20話 真奈美とエレン、可愛い喫茶店

生成AI(Grok)による本文作成を行い、微調整しています。

苦手な方はご注意くださいませ。

 文化祭の午後は、思ったより穏やかに始まっていた。

 真奈美とエレンが校内を一通り回って教室に戻ると、クラスの喫茶はすでにいくつかのテーブルにお客が入っていた。奏海が落ち着いた様子でオーダーを取り、詩歩が元気よくドリンクを運んでいる。サポート枠の二人はまずは裏方で荷物を整理したり、補充の準備をしたりしていた。


「思ったより平和だね」


 真奈美が小さく呟くと、隣にいたエレンがこくりと頷いた。


「はい。落ち着いていて、いい雰囲気です」


 窓から差し込む秋の陽射しが、白いクロスの上に柔らかく広がっている。飾り付けの紙がわずかに揺れ、紅茶の香りが薄く漂っていた。準備のときから二人で整えてきた空間が、ちゃんと機能しているのが何だか嬉しかった。

 真奈美は軽く息をついて、メニューボードの位置を微調整した。エレンはテーブルの端に置かれた花瓶の向きを直している。特別に話すこともなく、ただ並んで作業をする時間が流れていく。校内を回っていたときの余韻が、まだ胸のどこかに残っていた。隣にいるだけで、空気が少しだけ優しくなる感覚。最近、それが当たり前のようになってきている。


 しかしその穏やかさは、突然終わった。


「真奈美! 柚香ちゃん!」


 詩歩が少し焦った声で二人を呼んだ。振り返ると、詩歩の額にうっすらと汗が光っている。


「ごめん、ちょっと人手足りなくなった! 急に団体が来た上に、裏方の二人も急に抜けちゃって……。一人は気分が悪くなって保健室、もう一人は他のクラスに借り出されて戻ってこないんだ。接客が回んなくなった。二人とも、すぐヘルプお願い!」


 奏海も奥から顔を出し、困ったように眉を寄せた。


「悪いんだけど、エプロンだけじゃなくて、メイド服に着替えて出てきてくれる? 表に出る人数が本当に足りなくて」


 本当にピンチになっているようだ。真奈美は一瞬だけ目を見開いてエレンも同じように固まっている。サポート枠だと思っていたのに急に表に出ることになった。しかも、ただ忙しいだけでなくスタッフ自体が欠けている状態だ。

 エレンの肩がわずかに強張っているのがわかった。人前に立つことへの苦手意識が、すぐに表情に出る。真奈美はそれを見て、自然と声のトーンを落とした。


「わかった。すぐ行く」


 先に答えエレンの方を見る。エレンは唇をきゅっと結んで小さく頷いた。不安そうな色が瞳に浮かんでいる。その目を見て、真奈美の胸の奥がきゅっと締まった。


「柚香、一緒にやろう」


 小さくそう言うとエレンはわずかに肩の力を抜いた。その反応だけが、今は何より安心材料だった。

 二人は急いで更衣室代わりにしていた空き教室へ向かった。借りていたメイド服がハンガーに並んでいる。淡い色の生地に、袖と裾に控えめなフリルがついたデザインだ。やりすぎない可愛さで、クラスの喫茶の雰囲気にも合っていた。


 着替えて鏡の前に立ったとき、真奈美は思わず息を飲んだ。

 隣に映っているエレンの姿がいつもと違っていたから。

 プラチナブロンドの長い髪が、メイド服の襟元で柔らかくまとわりついている。赤いリボンはそのままだが、フリルのついた袖が細い腕を優しく包み、全体の印象がどこか儚げで、整っていた。普段の控えめな雰囲気が、衣装によってさらに際立っている。静かで、触れにくいような距離感があった彼女が、今は少しだけ身近に、そして眩しく感じられた。


(……綺麗)


 思ったより強く胸の奥が動いた。ただ「似合う」という言葉では足りない。いつもと違う姿を見てしまったことで何かが内側で静かに崩れるような感覚があった。守りたいという気持ちが一気に表面に近づいてくる。


「真奈美さん……」


 エレンが小さく呼ぶ声で、真奈美は我に返った。エレンは自分の袖を摘まみながら、少し困ったように俯いている。鏡の中で彼女の耳がすでに赤い。


「私、こういうの……初めてで」

「ふふ、でもとても似合うよ」


 真奈美は自然とその言葉を口にしていた。自分でも、思っていた以上に声が柔らかかった。


「本当に。普段と違う感じで、すごく……いい」


 エレンが驚いたように顔を上げる。その瞳が揺れている。真奈美は自分の言葉が思ったより真っ直ぐすぎたことに気づいて、少しだけ視線を逸らした。でも嘘ではなかった。今のエレンは普段以上に目を奪われる。


「ま、真奈美さんこそ……」


 エレンが掠れた声で続けた。


「いつもと違って、すごく……似合ってます」


 その言葉に、今度は真奈美の方が胸を突かれた。お互いがお互いの、いつもの姿ではないところを見ている。その事実が、妙に新鮮で、少しだけ特別に感じられた。胸の奥で、小さな熱がゆっくりと広がっていく。


(お互い、見とれちゃってる)


 そう自覚した瞬間、照れくささと、どこか甘い気持ちが同時に湧いてきた。


「よし、行こう」


 真奈美が先に気を取り直すように言った。少し表情を変えたエレンはこくりと頷き、赤いリボンを無意識に触った。その仕草がいつになく愛おしく感じられた。

 教室に戻ると予想以上にお客が入っていた。複数のテーブルが埋まり、注文の声が飛び交っている。詩歩が「こっち!」と手を振り二人を呼んだ。


「柚香ちゃんはそちらのテーブル、真奈美はこっちお願い! まずはオーダー取って!」


 エレンの肩がびくりと震えた。真奈美はすぐにその横に寄った。距離を詰めて声を落とす。


「柚香、深呼吸。私が隣にいるから」


 エレンはそっと息を吸って吐き出した。それから覚悟を決めたようにトレイを持った。その横顔を見ながら、真奈美は自分の役割を再確認する。接客をすること自体より、エレンが無理をしすぎないように支えることの方が今は重要に思えたから。

 最初のテーブルでのエレンの声は小さかった。


「い、いらっしゃいませ……ご注文は、お決まりでしょうか」


 けれどお客は笑顔でメニューを指差す。エレンはメモを取りながら時折真奈美の方を窺うように視線を送ってきた。その視線が真奈美の胸に直接届く。頼られている。必要とされている。その感覚が、思っていた以上に温かかった。

 真奈美は自分の担当テーブルをこなしつつ、できるだけエレンの近くを意識して動いた。ドリンクを運ぶとき二人が同時にカウンターに戻ってくるタイミングがあった。エレンの手が微かに震えている。


「大丈夫?」

「……はい。なんとか」

「無理はしなくていいから。わからないことがあったら、すぐ呼んで」


 エレンは小さく「ありがとうございます」と返し、再び客席へ向かった。その後ろ姿を見送りながら真奈美は改めて思う。いつもより少しだけ背筋が伸びている。緊張しているのに、きちんと役割を果たそうとしている姿が、何だか眩しかった。


 やがて、二人の動きに自然な呼吸が生まれ始めた。

 真奈美がオーダーを取っていると、エレンが次に必要なトレイをすでに用意している。エレンが少し詰まりそうになると、真奈美が目配せだけでフォローに入る。言葉をほとんど交わさなくても、次に何をすべきかがわかる。準備の期間に一緒に過ごした時間が、こうして表に出ているのかもしれない。

 その息の合った様子を、詩歩がカウンターの向こうから目を丸くして見ていた。


「……あれ、二人ってそんなにコンビいいんだ」


 奏海も少し驚いたように呟く。


「柚香ちゃん、あんなに緊張してたのに真奈美が横にいるとちゃんと動けてるねー」


 彼女たちの視線に気づきながらも、真奈美は今はそれに構っていられなかった。目の前のことに集中する。エレンを一人にしないこと。それだけを考えて動く。


 真奈美が奥のテーブルを片付けていると近くの席から女性客の声が聞こえてきた。


「あの子、すごくいいね」


 振り返ると、若い女性が二人で座っている。彼女たちの視線の先には丁寧にティーカップを下げているエレンの姿があった。


「すっごく可愛くて、雰囲気が柔らかくて。声も優しくて癒される」

「メイド服も似合ってるし。最初は緊張してそうだったけど、でもなんかそれも良い……」


 その言葉を聞いた瞬間、真奈美の胸の奥が熱くなった。誇らしいような、少しだけ胸が締め付けられるような感覚。自分が知っているエレンの良さがちゃんと他の人にも届いている。それが予想以上に嬉しかった。

 エレンがカウンターに戻ってきたとき真奈美は小さく声をかけた。


「今の人たち、柚香のこと褒めてたよ」


 エレンが驚いたように目を見開く。


「え、え……?」

「雰囲気がいいって。声が優しくて癒されるって。あと可愛いって」


 エレンの耳がみるみる赤くなった。俯きながらも唇の端がわずかに緩んでいる。真奈美はその様子を見て、自然と笑みがこぼれた。


「事実だから。ちゃんと伝わってるよ」


 それ以上は何も言わなかった。でも、エレンの肩の力がまた少しだけ抜けたのがわかった。

 混雑がピークを迎えたときも、二人の連携は崩れなかった。真奈美が素早く動いて空いたテーブルを整え、エレンがその間に次の客へ案内する。アイコンタクトだけで意図が通じる瞬間が増えていく。詩歩が途中で「すごいな、もう完全に息合ってる」と本音を漏らすのが聞こえた。奏海も「助かった……本当に」と安堵の息を吐いていた。


 午後の光が、徐々に色を変えていく。

 お客の流れが一息ついた頃、奏海が「一旦休憩していいよ」と声をかけてくれた。真奈美とエレンは、教室の隅の方へ移動した。壁に背を預け並んで立ちながら大きく息をはく。肩が触れそうな距離。メイド服の袖がわずかに重なる。


「疲れた?」


 真奈美が聞くと、エレンは首を横に振った。


「大丈夫です。でも……少し、緊張しました」

「よくやってるよ。最初よりずっと自然になってる」


 エレンは俯いて、自分の袖のフリルを摘まんだ。その仕草を見ていると、真奈美の胸がまた優しく痛む。


「真奈美さんがいてくれたから、なんとか……。隣にいてくれると、落ち着きます」


 その声は小さくて、でも確かだった。真奈美は彼女の横顔を見た。汗は浮いていないが、頬が少し赤い。メイド服がその赤みを優しく映しているみたいだ。いつもの制服では見えなかった柔らかな表情。


「私も、エレンがいてくれて助かった」


 二人きりのときだけ使う名前を、意識して口にした。エレンがゆっくりと顔を上げる。視線が重なる。いつもより近い距離で、いつもの制服ではない姿でこうして顔を見合わせている。

 何かが少しだけ違う。

 真奈美はそう感じた。胸の奥で、静かに何かが動いている。守りたいという気持ちと、ただ近くにいたいという気持ちが、今日は特に強く混ざり合っている。この子の違う姿を見てしまったこと。支え合ったこと。お客に褒められる彼女の姿をすぐ傍で見られたこと。その積み重ねが関係を静かに変え始めている。


「……似合うよ、本当に」


 真奈美がもう一度言うと、エレンは目を細めた。


「真奈美さんも、です」


 短い言葉だった。でも、その中に込められた温度が、ちゃんと伝わってきた。お互いがお互いをいつもと違う角度から見て、認め合っている。そのことに気づいたとき真奈美は自分の気持ちが、以前よりずっと明確になっているのを感じた。


 教室の反対側では、詩歩がまた元気に「いらっしゃいませー!」と声を上げている。お客の話し声と、紅茶の香りと、秋の光。その中で二人はしばらく並んだまま、言葉を少し交わすくらいに過ごした。


 まだ文化祭は終わらない。

 このあとも、また呼ばれるかもしれない。でも今は少しだけ、この時間が続いたらいいと思った。いつもの教室ではない場所で、いつもの制服ではない姿で隣にいること。それが思っていた以上に心に残るものになっていた。

 真奈美はそっと息を吐き、エレンの横顔をもう一度だけ見た。フリルの向こうに見える細い首筋。赤いリボン。静かで少しだけ疲れた瞳。


(このまま、もう少しだけ、そばにいたい)


 その想いは、言葉にはしなかった。ただ、胸の奥で確かに、昨日より強く育っていた。

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