28
ブランは拳を握り締め、悲しげな表情で叫んだ。
「あの人は――自分自身が助かる為に、母さんを人間に渡した。贅沢ばっかする義母上、弟達もみんな無能すぎる……その行いの悪さで、多くの人を傷付けて――友のヤンを怒らすんだ」
ヤン?
弟?
「ブランから聞いた話だと、兄弟はお兄様達ではないの?」
私を見る、ブランの瞳が哀しみの色に染まった。
「ブラン、興奮すぎ。全部、嫁にしゃべっているよ」
「ロン師匠、俺は嘘が嫌いだ……ヒーラギと出会ってからずっと嘘をついていて胸が痛い。……ヒーラギ、ごめん。俺は出会ってからずっと嘘をついている。母さんの力を受け継ぎ、強力な聖女となったヒーラギが、人間の国にいては俺達の計画が台無しになる……」
「え?」
――ブランのお母さんの力?
――私が強力な聖女?
――計画が台無し?
「話がよくわからないわ。私の力が必要で、城に連れて行くんじゃなかったの? それに私の力が強力なのも……」
「昨夜、まだ眠っていないヒーラギに俺は嘘を言った。……本当は人の国で聖女ヒーラギが守る結界は、魔王ですら破壊できなかった。だから当初の計画の内容を変えるしかなかった」
「……」
「魔王の偉大な魔力で、異世界からアカリを召喚してもらった。あの王子は聖女ヒーラギを嫌っているし、新しい聖女が現れたら、必ずヒーラギを国から追い出すと思った」
苦しそうに語り、押し黙ったブランの続きを、ロンさんが話してくれた。
「無理やり呼び寄せた、異世界人のアカリに。――どうしてこちらへ呼んだかを説明して、聖女の役を頼んだんだ……彼女は話を聞いてやると言ってくれた。アリカには自分が危ない目に遭いそうになったら、部屋から出るなと言ってある」
二人の話にヒーラギの頭は混乱する。
魔王は次元を曲げて、他所の国から自分達の計画のためにアカリを呼び寄せた。
ヒーラギとの出会い、ブランから聞いた話は全て嘘。
ブランの優しさも、全てが嘘なんだ。
――悲しい。
「他の場所からアカリさんを呼んでまで、あなた達は何を企んでいるの? その計画を行うためなら、人を傷つけてもいいの!」
「ヒーラギに、ごめんしか言えない。ヒーラギが国境を超えてから、計画は始まってしまったんだ……誰にも止められない。――この計画は。魔王、竜人、俺達の思惑は一致してる。お互いに願うことがあるから手を組んでいる」
――思惑?
「ニュ」
「10年か……もっとかな、長い計画だったね」
(スラと、ロンさんもこの計画を知っているんだ)
「ちょっと待って! いま、魔王軍がカザール国を攻めてきていると言っていたわ。王族には騎士がいるけど、カザール国に住む国民はどうなるの?」
守る者がいない、国民は無力。
「ヒーラギ、それについては大丈夫だ。魔王は国民には手を出さない約束だ。――誰も争いなんて、求めちゃいないんだ。だけど……人を傷付けると、倍になって返ってくることを、カザールの王族、父上達に教えてやりたい。母さんを物のように扱った人間は許せない……なにより、俺が愛するヒーラギまで、物のように扱っていたなんて許せるかよ!」
ブランの瞳に怒りの炎が見えた。
+
――ブランのお母様が、人に物のように扱われていた?
「でも私、ブランのお母様が王族に使われていた? そんな話は聞いたことがないわ」
「俺の母さんはヒーラギが聖女になる前まで。人の国で、聖女と呼ばれていた」
――私が聖女になる前って、5年前に亡くなった聖女の事?
「亡くなったんじゃないの?」
「いいや、俺たちがヒーラギと出会う5年前に、母さんを王城からなんとか助け出した。そして。ロンの友達で、ヒーラギの祖父母の屋敷に……精神と、体がボロボロな母さんは匿われていた」
「あの日。俺が魔物を連れて大怪我をして、死にそうになった俺を"助けたい"と願ったお母さんと、ヒーラギの心が重なったんだとロンは言うのだけど、実際のところはわからない。現実に母さんの力はそのとき消えて、ヒーラギに移ったんだ」
「ブランのお母様の力が、私の移った?」
「ああ、そうだ」
(あの日、急に芽生えた力は私の力ではく。ブランのお母様の癒しの力。――それが私に移った。その力でブランの怪我を治して、私は聖女となった。その力は魔王すら跳ね返すほどの力)
「ブラン。お母様の力がどうして私に移ったのか、理由は知っているの?」
そのヒーラギの問いに、ブリンは首を横に振った。
「その原因はまだ、わからないんだ」
「じゃ、ブランのお母さんは?」
「近くの村で、元気にしてるよ……その村で、優しい伴侶ができて、いまは幸せに暮らしてる。あの日、俺のせいで、ヒーラギは聖女となり、10年もあんな場所で。一人で、ごめんな……辛かったろ」
ブランは真っ赤な目をして、自分の唇をギリッと噛んだ。




