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 朝方、ヒーラギが目覚めると、体に毛布がかけられていた。白犬となって一緒に寝ていたブランは、いつの間にか人型に戻り、焚き火の番をしていた。酔っ払いだったスラは、昨日のお片付け中で、その側にロンさんの姿がなかった。


 ヒーラギは掛けられていた毛布を畳み、ブランとスラにあいさつした。


「おはようございます、ブラン、スラ。ロンさんは?」


「おはようヒーラギ。師匠は人間の国を見てくるって、いまから一時間前に出て行ったよ」


 ――人間の国を見てくる?


「ニュ!」


 スラと"おはよう"のハイタッチをして、何やらいい匂いを出して、調理中のブランの横に座った。その手元を覗き込むと、ブランは二枚重ね合わせたフライパンの様な物を、薪の上で焼いていた。


「いい匂い。ブランは何を作ってるの?」


「これか? いま作っているのは、食パンと食パンの間にハムとチーズを挟んだホットサンドだ。熱々で、中はチーズがトロトロで美味いぞ」


「パンとパンの間に具を挟んだホットサンド? 熱々で、チーズがトロトロ? わぁ、楽しみです!」


 ヒーラギはブランの横に座り、ホットサンドが焼けるまで待っている。ブランはホットサンドが焼けたのか、蓋を開けて中身を確かめた。


「よし、いい感じに焼けた!」


 2枚合わせのフライパンを火から下ろして開くと、両面カリカリに焼き上がったホットサンドが現れる。ブランはそれをまな板で半分に切り、木の皿に乗せてブランはヒーラギに渡した。


「出来たての熱々が旨いが、火傷に気を付けて食べて」


「ありがとう、ブランも一緒に食べよう」


「そうか? じゃ、遠慮なくいただきます」


 熱々の食パンで作ったホットサンドを、フーフー冷ましながら手に持ちサクッと食べる。中からトロトロのチーズと、分厚く切ったハムが顔をだした。


「んんっ、美味しいわ! 食パンがサクサクで熱々のチーズと厚切りのハムが最高! ブラン、このピリッとする味は何?」


「それは粒マスタードだな、アクセントにいいだろう? このマスタードはソーセージにつけても美味いぞ」


 と言い。


 マジックバッグから、今度は分厚いソーセージを出して、片面で焼き、もう片面で細長いパンを焼きはじめた。


 スラは片付けを終えてカバンの中で休憩していて、ヒーラギはブランと朝食をとっていた。ガザガザと近くの草を踏む音が聞こえて見上げると、人間の国に行ったと言っていたロンさんがいた。


「ただいま、いい匂いだね」


「お帰りなさい、ロン師匠」

「おかえりなさい」


 ロンさんはブランのマジックバッグから、トマトを取り出して反対側に座り、魔法でサッとトマト洗いかじる。美味しそうにトマトをかじる、ロンさんにブランは話しかけた。


「ロン師匠、どうだった?」


「どうもこうも……酷い有様だったよ。新聖女アリカは祈りも捧げず部屋に引きこもって、役に立っていないみたい。国中、深夜問わず森から魔物の叫び声が聞こえて、焦った王子は人を雇い、必死にブラン嫁を探している。一番の驚き――人間の国の王妃はこの状況のなか、国王を置いて若い男と別の国へと逃亡したよ」


 そのロンの言葉に、ヒーラギは驚きの声をあげる。


「えぇ! 新聖女が引きこもって、王妃様が逃亡……ローザン殿下が私を探している?」


 ヒーラギが国いなくなった一日で、あまりにも様変わりすぎだ。


「僕の見立てだと、あと一時間もしないうちにカザール国の結界は更に弱くなる。近隣の森まで攻めてきている魔王軍はいま、カザール国の騎士団と睨み合っていると聞いた。国を覆う結界が弱くなったら一気に魔王軍が攻め込む……聖女なしの騎士団が、いやカザール国は壊滅するね」


 ――魔王軍が攻め込み、カザール国が壊滅?


「ロンさん、その話はおかしいです。王城には私が作った最上級と上級のポーションがあるはずです。数も両方あわせて千本以上だったはずです?」


 聖女だったとき、それくらいの数を作ってきた覚えがある。――だから、王城には最上級と上級あわせても、千本以上の在庫は確保できている。魔物、魔王軍と戦い、騎士が瘴気を纏う大怪我をしても、そのポーションを使えば傷は癒せる。


 数もあるし、作ったポーションを使えば数日は持つはずだ。そう伝えてヒーラギにロンは眉をひそめた。


「あー、それがね……ブラン嫁に言いにくいんだけど。王妃が王城から出て行くとき、数百本盗んでいったらしい。その残りは王子が人を雇う金のために全部、商人に売ったと聞いたよ」


 王妃が数百本を盗み、殿下は残りのポーションを商人に全部売った……


「国民の事を考えず。私が作った……千本以上のポーションを盗まれ、すべて売ってしまった。……し、信じられない。私がその量を作るのにどれだけの日数をかけたと思うの。それだけじゃないわ。私は聖職者、騎士団の救護係にポーションの作り方を、詳しく書いたメモを置いてきた。材料だって採取した物が揃っているはず。それなのに誰もポーションを作っていないの?」


 あの人たちは、人の手柄は簡単に取っていく、くせに。


「ヒーラギ、奴らは自分達のことしか考えない。だから……ヒーラギが心を痛め、落ち込まなくていい。上の連中は下っ端ばかりこき使って、何もしない……俺達は使い捨てじゃないんだ!」


 ブランは怒りをあらわにした。

 

 昨夜、「認めてもらえない」とロンさんと話をしていた。ブランもどれだけ努力して、己の力を使っても――認めてもらえなかったヒーラギと同じなのかな。

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