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ブランに師匠と呼ばれた、エルフのロンさんはヒーラギの記憶を消したと言った。
「私の記憶を消した? それはいつの話なのですか?」
『うーん。今から10年前の話かな? あの日……記憶を消したのはブラン嫁だけじゃないんだ。君の弟さん、その場にいた人の記憶も消した』
――え?
「待ってください! 8年前って……私に癒しの力が芽生えた日だわ……」
「うん、そうだね」
この話をロンさんと始めてから、ブランの様子が変だ。彼が――ブランが落ち込んで見えるのは気のせい? いつのまにかスラもカバンから出て、ブランを側で心配している。
「ブラン?」
「ん? あぁ」
やっぱり変だ。
『ブラン。記憶を消すことになった訳を、あなたの嫁に話しあげなさい』
「え、俺が?」
『ちゃんと、話してあげなさい』
「は、はい師匠。……お、俺のせいでヒーラギにも、弟さんにも、おじさんおばさんにも怪我をさせました……すみません」
ブランがヒーラギに深深く頭を下げ、彼は昔の話を始めた。
「俺は……」
ブランは黒狼王族のなかで、なぜか白く毛と膨大な魔力量を持って生まれた。ブランの母――王妃は魔力量の多いブランを産んだからか、原因はわからないがブランを産んで、すぐに亡くなってまった。
そのため、ブランは幼い頃から……家族に王妃が亡くなったのは『お前のせい!』『お前が母を殺した!』と、父親、兄弟に言われ続けた。
――僕のせいで、お母様が亡くなった。
ブランの心は不安定になり……緊張、焦りにより魔力量を上手く扱えず、興奮すると暴発させてしまった。手に負えなくなった国王陛下は魔力にたける、エルフ族のロンにブランを預けた。
そのエルフのロンは国境近く、人間の国のとある夫婦と仲が良く、彼らとは茶飲み仲間でもだった。弟子となったブランもたまに連れていってもらっていた。
『あら、ブラン君も来たの。ちょうど苺のケーキが焼き上がったわ』
『たんと食べて、大きくなるんじゃぞ』
いつも人々に苛まれ続けられたブランは、はじめて与えられた優しさに、この夫婦が大好きになる。
数年後――とある夏の日。
その夫婦の所に女の子と男の子が夏の休暇の間、遊びに来た。彼らは二人の孫――ロンはブランに『しばらく、夫婦に会わないほうがいい』と言った。その訳は大昔、人間は亜人族の力を恐れ、大量殺戮した時期があったのだ。
『でも、ボク……会いたい』
『……わかった。週に2回、会うのは数時間だけにしなさい』
『はい』
訓練でブランの魔力も落ち着いたからと、ロンに空間開けを習い、週に2回の数時間会いに行った。ブランは……孫が夫婦の側にいない時、夫婦に近寄りお菓子をもらっていた。
通い慣れてきたブランは。ある日……開けた空間を閉めることを忘れて、2人に会いに行ってしまった。ブランが開けた空間から、魔物が入ってきてしまう。
――そのとき丁度、庭園でお茶をしていた夫婦、孫達が魔物に襲われた。ブランは彼らを守るために体を張るも、大怪我してしまう。
(……ボクのせいで、ボクが弱いから……ごめんなさい)
もうダメだと思ったとき、ロンが助けに来てくれたが。彼もまた魔物を倒すことは出来ず、魔物を元の場所へ追い返すことには成功した。
『ブラン……』
魔物と戦い大怪我を負ったブラン……ロンが治療しても、瘴気を含んだボクのキズはふさがらない。
『ブラン、すまない……僕では君の怪我は治せない』
『ボクはいい、みんなの怪我を見てあげて……師匠』
『悪いね……』
『いやよ!』
泣きながら、この情景を見ていたヒーラギ。
彼が魔物から自分達を守ってくれと、どうにか治そうと『お願い、彼を治して!』と声を上げたヒーラギの体は光に包まれる。このとき――彼女に癒しの力が現れ、瞬く間にブランのキズを治した。
ブランの治した後に倒れてしまったヒーラギ。
『これは……彼女には偉大な癒しの力芽生えました。この力は素晴らしいことですが、バレない方がいい』
ロンとお爺さんとお婆さんと話し合いで、孫2人の記憶を消し、ヒーラギは弟のケガを治したことにした。その記憶のまま弟は『ヒーラギ姉さんが怪我を治した』と、両親に話してしまい、彼女の両親は有頂天となった。
しばらくして、ロンとブランがお爺さんとお婆さんの所に行くと。ヒーラギは……癒しの聖女になり王都にいると聞いた。
「あとはさっき話した通りだよ……俺は、この国のために聖女の力を借りにきた」
ヒーラギは、聖女の力が芽生えた日の記憶が曖昧だった。あの日の記憶は消されていたんだ。
「そっか、私……弟のケガではなくて、ブランのケガを治したのね」
「あぁ、そうだ。あの日、俺のせいでみんなを危険に巻き込んだ……すまない。そんな俺を助けてくれてありがとう。この国の為に来てくれてありがとう、ヒーラギ」
『僕からもありがとう、弟子を助けてくれて』
「ニュ、ニュ」
話の中で、ブランは両親に愛されなくて寂しかったんだ。それは私も同じだったからわかる……お爺様とお婆様はいつも笑顔で迎入れてくれて、優しくて、温かった。
彼も、その優しさに癒されたんだね。
「でも、よかった。あの日……私に癒しの力が芽生えてよかった……ブランを助けられてよかったわ」
「ヒーラギ!」
――ブランが叫び、いきなりに私に飛びついた!




