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 出発からブランは休みなく走り、ものの数十分で国境手前の街――アスールに着いた。乗ったときと同じく伏せてくれてヒーラギが下に降りると、ブランは『待っていて』と近くの木陰で獣化を解き、耳と尻尾を隠した人型になって現れた。


「え、あなた、ブランなの?」


 ただ、耳と尻尾がないだけで変わって見えてしまい、ヒーラギは確かめるように彼の名前を呼んでしまった。そのヒーラギの態度に目を座らせた、ブランにおでこを人差し指で突っつかれる。

 

「ヒーラギ、俺の耳と尻尾が無いだけで、俺が分からなくなるなよ」


「いたっ、だって別人に見えたから……ごめんなさい」


 ごめんなさいと謝る、ヒーラギのオデコを突きながらブランは「今回は許してやる」と、ニシシッと笑った。


 


「さて、街へ行くか」

「うん」

「ニュ!」


 行こう、と。差し出したブランの手に、ヒーラギは手を乗せた。


 街の入り口に『国境の街アースルへようこそ!』と、書かれた垂れ幕が掛かる門を通り抜けて、ブランとスラ、ヒーラギは街の中へアタッシュケースを売りに質屋へと向った。


「ニュ」

「そうだな、美味そうな匂いがするな」


 人に見られないよう、カバンの中のスラと小さな声で話て、ブランと手を繋ぎ街を歩く。アスールの街は八百屋、お肉屋、魚屋の客引きの声が響き。出店の焼き鳥、コロッケ、たこ焼と近くの国から輸入された、珍しい食べ物とお菓子が多く売られていた。


 アスール街の人々は楽しげに笑い。

 日々を平和に、笑顔で過ごしているようだ。


「ヒーラギ、質屋だ」


 ブランが指さした紺色の暖簾、その中央には太い白文字で質と書かれた暖簾をくぐり中に入る。入ったすぐの木製の帳場に座る、質屋の店主の前に移動した。


「こんにちは」

「いらっしゃいませ、ミゾレ質屋へようこそ」

 

「あの、こなアタッシュケースを売りたいのですが?」


 と、ヒーラギはアタッシュケースをカウンターに置いた。


「おおこれは、質の良いアタッシュケースですね。すぐに査定しますので、いましばらくお待ちください」


 店主はアタッシュケースを見るなり、ヒーラギの愛用の虫眼鏡を取り出して、外側と内側を査定した。


「むむむ、これは一流の職人が手がけた良い品です。10000……いや、15000マス(15000円)でいかがでしょうか?」


「15000? そ、それでお願いします」


(使い古しだけど、いい値で売れた!)


 実はこのアタッシュケースは唯一、ローザン殿下から送られたヒーラギの私物。お揃いのアタッシュケースだと聞いている。だけどローザン殿下はそれが気に入らず、一度も使用せずクローゼットの奥にしまっていた。


 このアタッシュケースを作るのに、どれだけの人の手とお金が掛かっているのか彼は分かっていない。私物が少ないヒーラギにとってはありがたかった……騎士団の遠征について行くとき、このアタッシュケースにポーション、回復薬を入れて怪我をした騎士のために走り回った。


 まだ使用出来るから、新聖女のアリカに渡そうとしたけど、彼女はこれよりもいい物をもらっていた。


「ご来店ありがとうございました」


 このお金は、ローザン殿下からヒーラギへの迷惑料と、慰謝料だ。


「ブラン、こよお金で必要な物を買いましょう」

「そうだな。だったら、先に買うのはヒーラギの服だな」


「服?」


「ニュ!」


 そのブランの言葉に、スラも賛成のようだ。

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