17
出発からブランは休みなく走り、ものの数十分で国境手前の街――アスールに着いた。乗ったときと同じく伏せてくれてヒーラギが下に降りると、ブランは『待っていて』と近くの木陰で獣化を解き、耳と尻尾を隠した人型になって現れた。
「え、あなた、ブランなの?」
ただ、耳と尻尾がないだけで変わって見えてしまい、ヒーラギは確かめるように彼の名前を呼んでしまった。そのヒーラギの態度に目を座らせた、ブランにおでこを人差し指で突っつかれる。
「ヒーラギ、俺の耳と尻尾が無いだけで、俺が分からなくなるなよ」
「いたっ、だって別人に見えたから……ごめんなさい」
ごめんなさいと謝る、ヒーラギのオデコを突きながらブランは「今回は許してやる」と、ニシシッと笑った。
「さて、街へ行くか」
「うん」
「ニュ!」
行こう、と。差し出したブランの手に、ヒーラギは手を乗せた。
街の入り口に『国境の街アースルへようこそ!』と、書かれた垂れ幕が掛かる門を通り抜けて、ブランとスラ、ヒーラギは街の中へアタッシュケースを売りに質屋へと向った。
「ニュ」
「そうだな、美味そうな匂いがするな」
人に見られないよう、カバンの中のスラと小さな声で話て、ブランと手を繋ぎ街を歩く。アスールの街は八百屋、お肉屋、魚屋の客引きの声が響き。出店の焼き鳥、コロッケ、たこ焼と近くの国から輸入された、珍しい食べ物とお菓子が多く売られていた。
アスール街の人々は楽しげに笑い。
日々を平和に、笑顔で過ごしているようだ。
「ヒーラギ、質屋だ」
ブランが指さした紺色の暖簾、その中央には太い白文字で質と書かれた暖簾をくぐり中に入る。入ったすぐの木製の帳場に座る、質屋の店主の前に移動した。
「こんにちは」
「いらっしゃいませ、ミゾレ質屋へようこそ」
「あの、こなアタッシュケースを売りたいのですが?」
と、ヒーラギはアタッシュケースをカウンターに置いた。
「おおこれは、質の良いアタッシュケースですね。すぐに査定しますので、いましばらくお待ちください」
店主はアタッシュケースを見るなり、ヒーラギの愛用の虫眼鏡を取り出して、外側と内側を査定した。
「むむむ、これは一流の職人が手がけた良い品です。10000……いや、15000マス(15000円)でいかがでしょうか?」
「15000? そ、それでお願いします」
(使い古しだけど、いい値で売れた!)
実はこのアタッシュケースは唯一、ローザン殿下から送られたヒーラギの私物。お揃いのアタッシュケースだと聞いている。だけどローザン殿下はそれが気に入らず、一度も使用せずクローゼットの奥にしまっていた。
このアタッシュケースを作るのに、どれだけの人の手とお金が掛かっているのか彼は分かっていない。私物が少ないヒーラギにとってはありがたかった……騎士団の遠征について行くとき、このアタッシュケースにポーション、回復薬を入れて怪我をした騎士のために走り回った。
まだ使用出来るから、新聖女のアリカに渡そうとしたけど、彼女はこれよりもいい物をもらっていた。
「ご来店ありがとうございました」
このお金は、ローザン殿下からヒーラギへの迷惑料と、慰謝料だ。
「ブラン、こよお金で必要な物を買いましょう」
「そうだな。だったら、先に買うのはヒーラギの服だな」
「服?」
「ニュ!」
そのブランの言葉に、スラも賛成のようだ。




