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「いいえ、私は聖女ではありません。元聖女です――ホンモノの聖女は王城にいます、そちらに会いに行ってください」
「違う、お前は聖女だ。側にいるだけで、俺の怪我が治り、魔力を回復させた」
――私が魔力を回復させた?
この人は何を言っているのか? とヒーラギが前を向いてハッとする、慌てていて気付かなかったが、この男性が裸だったと言うことに。
ヒーラギは慌てて、両手で目を覆い。
「あの服を着るか、子犬の姿に戻ってください」
と伝える。
「あ、ああ? 子犬? 別に俺はこのままでいいが? ……あ、そうか、人間はいつも服を着ると師匠が言っていたな」
「そうです。かなり見た後ですみませんが……服を着てください。話はそれからです」
「――わかった」
男性が瞳を覆うヒーラギの前で、なにかしらの魔法を使ったのがわかった。そして「着替えた」の声に振り向くと、彼は外套とチュニック、皮の肩掛け鞄といった、旅人の様な服を身に纏っていた。
耳と尻尾はそのまま残っているが、ヒーラギはますます魅力的に感じた。
「着替えたぞ、これでいいか? それで、お前は俺に力を貸してくれるのか?」
「力を貸すかは――あなたの話を聞いてからにします」
彼の瞳を真っ直ぐ見つめながら聞くと、男性はコクリと頷いた。
「俺達、獣人の国はいま魔物と交戦中なんだ。父上、兄上、騎士達は傷付きながら……今も魔物と戦っている」
「ま、魔物と戦っている……?」
――もしかして、魔王が復活したの?
ヒーラギが騎士の遠征について行ったときは、まだ魔王が復活したとは確証が出来なかった。その遠征からは数ヶ月は経っているから、彼の言っていることは本当なのかもしれない。
「……俺は作り置きしていたポーションを使い、仲間のキズを癒して魔法で瘴気を払っていたんだ……だがポーションの在庫が切れ、瘴気を払える魔力も底をついた」
「……!」
この人、瘴気が払えるの?
なら、相当な魔力の持ち主なのね。
「……このままでは国は落ち、ほかの亜人領にも魔物が攻め込んでしまう。人間が苦手だとか嫌いだとか、今はそんなこと言っていられなくなった。人間の国にいる聖女の力が必要なんだ……」
頼む! と彼は深く頭を下げた。
彼の話が本当だとしたら獣人達の戦力、ポーション、魔力、全てが切れれば獣人の国は魔王の手に落ちる。落ちて仕舞えば、瘴気に満ちた国へとかわる。
……ゴクッ。ヒーラギとて瘴気に満ちた国が、後々どうなるかまでは知らない。
「噂で、人の国に素晴らしい聖女がいると聞いた……その癒しの力はホンモノだと。だから俺は残りの魔力を使い、この国まで聖女の力を借りに来た。まあ、来る途中の森で魔物に襲われて、腹に怪我をしちまったけどな……ハハッ」
「笑い事ではないわ! だったら……なぜ王都から離れたこの場にいるのですか? カザール国の聖女はアリカ様です。あなたはその方に助けを求めたのですか?」
その、アリカ様の名前に彼は眉間に皺を寄せた。
「アリカ様? 昨夜の舞踏会で聖女だと紹介されていた、あの女性か……あの方は聖女で癒しの力はありそうだが……瘴気まで払う能力はない」
(え? 嘘……)
お会いしたとき、確かに彼女からヒーラギとは違う感じがしたけど……聖女の力は感じた。だけど、彼の話が本当なら……アリカ様の癒しの力は最強でも、魔物に受けたキズは厄介だ。瘴気を取り除いてから癒し魔法をかけないと、すぐにキズは復活してしまう。
ヒーラギは騎士団の遠征で嫌っていうほど、彼らを癒してきたからわかる。忘れないよう、手帳にもしっかり記した。
いちど、アリカ様にお会いしたとき、書き記した手帳を渡そうとしたけど。アリカ様は笑いながら『必要ないわ』と言って、情報のやり取りは出来なかった。
「俺にはわかる――昨夜、舞踏会で婚約破棄されたベールの女が、本物の聖女だ! ……彼女は王城を出たすぐ膝を突き祈りを捧げた。そのときに見えた神々しい光と、緑色の髪と琥珀色の瞳、風が届けた薬草の香り……アレはポーションに使う薬草の香りだった」
彼に、昨夜の祈りを見られていたのね。
ヒーラギは王城を立つ前、数日間持ちこたえるように結界補強をした。
――ただ、この国の人々を思って。




