第8話 勝利の聖女④
ジャンヌは右肩を支えながらヴァルキリーに近づき、疲れ切った顔で見つめる。
ヴァルキリーの斬られた腕と腹の切口に『光』を結晶化させて、止血していた。
まだ息はある。『呪い』を大量に注がれでもよく生きていたものだとヴァルキリーの生命力に驚く。
「逃げなかったんだね・・・」
ヴァルキリーが言う。
「あんな状況で逃げきれると思うの」
「そうだな・・・」
ヴァルキリーが苦笑する。
「ヴァルキリー・・・もしかして分かっててこの任務に参加したの・・・」
「いくら私でも勝てないよ」
最古の魔女に傷を負わせただけでも驚異的だというのに、それでも実力はそこまでしかなかった。
「本当に何かあったの?わざわざ私を協力させて・・・あなたの行動がどう見ても自殺しに来たようにしか見えない」
「最後に見てほしかった・・・」
その発言に別に驚かなかった。予想をしていたからだ。わざわざ討伐に参加させたのは、つまりこういうことだった。
「私はね。ただ助けたかっただけなんだ。困ったときは助けて。苦しんでいたら助けてさ。
人を助けただけなんだ・・・けど。魔女に襲われて村一つなくなったんだ。もっと早ければ助かった。でも私が遅れたから亡くなったんじゃない。来るのを信じて何もしなかったんだって。それからかな。見えなかった物が見えてきたんだ。ある時は責められて。ある時は私一人だけ行かせて怠ける騎士団もいたんだ・・・」
ヴァルキリ―は疲れ切った声で言う。
「意識していたら、だんだん分からなくなったんだ・・・あまりにも人が変わるから、人が気持ち悪くなってきたんだ・・・」
「人を知らないからよ」
はっきり答える。
「人って・・・弱くて感情に弄ばれて、自分勝手なんだ。自分が分からないまま変わってしまうことも、変わったことにも気付かないんだから。それに真面目なんだよ。ヴァルキリーは昔から・・・」
「私は、人間を信じたかった。どんなに穢れても、欲に満たれても、人間は救われたいって・・・人間が皆悪い人間ではないって・・・救わなければ、幸せになれない人間もいるって・・・」
「欲張りすぎるんだよ」
はっきり言った。
「倍に生きているイヴ様やマリア様ができなかったことをしようとするんだから。私も信じたかったよ。もうそんな簡単に信じられないよ・・・」
虚ろな目でヴァルキリーを見つめる。
「けど・・・あんたと会えて固執しちゃいけないかなって・・・」
「それって・・・」
ヴァルキリーが言い切る前に、洞窟の出口から足音がする。
「増援だ・・・今の内に逃げて。ジャンヌ」
本当ならヴァルキリーを連れ出したい。けど、右肩を負傷し、聖女の地へも連れて帰れない。
「すまない・・・」
惜しみながらジャンヌはヴァルキリーを置いて後を去った。
目を覚める。
「なんか、長い夢見てたなって」
ヴァルキリーの最期。
あれからどうなっただろうか。騎士団に回収され、実験体にされているのだろうか。それとも死んだのだろうか。もし死んでいたら、イヴやマリアが察知している。分かっていたとしてもヴァルキリーの情報は暗黙の領域かもしれない。
今思い出しても何も解決しない。
立ち上がろうとしたが、背中が重い。
よく見れば、アキセが私を抱いて寝ていた。
「あれ、起きた」とアキセが呑気に言うので、ジャンヌは一発殴る
ヴァルキリーは目を覚めた。
ジャンヌが去ったあと、増援部隊により回収されたようだ。
周囲を確認しても、暗い部屋だった。唯一明るかったのは、目の前にあった大きい光だけだった。
起き上がろうとしたが、動けなかった。
よく見れば、体中に鎖で拘束され、身動きが取れなかった。
何がどうなっている?なぜ、縛られている。
「あ~目覚めたのか」
誰かが近づいてくる。
顔がよく見えなかった。声からして男だろうか。
「今回はご苦労だったな」
頭に手を乗せる。
「じゃあ、本題に入るか」
その笑みはとても不気味だった。




