第8話 勝利の聖女③
箱から現れたのは、体中に黒い入れ墨を入った体。腰まである長い黒髪の黒目の少女だった。体中、布で覆われている。
「私、起こされるの。嫌いなんだよね」
イタズラな笑みで不機嫌に言い、『呪い』を可視化した黒いモヤが広がる。
黒いモヤが騎士団を包み込むが、ジャンヌとヴァルキリーは避ける。
騎士団は苦しむ中、体が溶けていく。
「あら、聖女いたの」
パンドラは静かに箱から離れ、石段を下りる。
ジャンヌはロザリオを構える。
ヴァルキリーは鞘から聖剣『ヴァルホル』を引き抜く。細い剣だか、『光』を注ぐことで剣の幅を広げ、大剣へと変える。
「ここで食い留める!」
ヴァルキリーが前に出る。
パンドラの『呪い』は災害を起こす。洞窟の外に出しては対処しきれない。
ここで押さえるにしても、崩れやすい洞窟の中では大技を出せず、日からの『光』の吸収も得られない。
どう考えても勝ち目がない。
それでもヴァルキリーは『ヴァルホル』を大きく振り上げ、パンドラに振り下ろす。
パンドラは腕で受け止める。
「何?相手してくれるの」
パンドラの余裕の顔。
その時だった。
ヴァルホルがパンドラの腕を斬り落とした。
ヴァルキリーは距離を取り、ヴァルホルを構える。
ヴァルキリーの『光』が最古の魔女に効いた。
パンドラはきょとんとした顔で切り落とした腕と切口を見る。
「へ~」
不適な笑みを見せるパンドラが瞬時にジャンヌに近づく。
「邪魔」
ジャンヌを腕で払う。
勢いよく飛ばされ、ヒビが入るほど壁に右肩から当たる。骨が砕けたような音がする。
――右肩やられた
さらに壁に張り付いたカースネロが落ちる。その中にカースホタルが入ったカースネロも一緒に。このままでは落ちた衝撃でカースホタルが爆発し、周辺のカースホタルを巻き込み、大惨事になる。
すぐさま白い炎を放ち、カースネロごとカースホタルを浄化する。爆発は免れた。
「久しぶりにやりがいのある子ね。少しは付き合ってもらおうかしら」
ジャンヌの行動を気にせず、パンドラは、失った腕が黒い手に再構築され、二本の黒い剣を生み出し、ヴァルキリーを襲う。
敵わないのは分かり切っているが、邪魔扱いされるのにイラつくと思っていても、間に入る隙間がない。
パンドラは踊るように2本の黒い剣を振り回すが、ヴァルキリーがヴァルホルで受け止める。目が追い付くのが精いっぱいだろう。
「よくついてこれるわね」と余裕な顔を崩さずにパンドラが言う。
「だったら!」
ヴァルキリーは距離を取り、『ヴァルホル』の先端に溜めた光の球を飛ばす。
「何よ。それ」
パンドラが黒い剣で光の球を刺した瞬間、光の球が結晶化し、光の刃へと変わり、パンドラに向かって集中に飛ぶ。
その一本の光の刃がパンドラの箱を刺した。騎士団で撃った弾には傷つかなかった箱にヴァルキリーの光の刃が刺さった。
その直後、黒いモヤが一斉に放たれた。ヴァルキリーが放った光の球を飲み込むほどだった。
黒いモヤの隙間から見えたパンドラは、これまで以上に目が血走っていた。
「殺す」と発した時。
ヴァルキリーの両腕が唐突に斬られる。
「え・・・」
一瞬にパンドラがヴァルキリーの両腕を斬った。
「うわああああああああああああああ」
ヴァルキリーが叫ぶ。
「よくも私の箱に傷ついたな!」
パンドラは寝床である箱を傷つけて、逆鱗に触れてしまったようだ。
パンドラはヴァルキリーの腹を足で倒す。
「うるさい!」
パンドラは足で踏みつけ、ヴァルキリーの腹に穴を空く。その穴に黒いモヤを大量に注がれる。口や耳、腹の穴から黒いモヤが溢れていく。
「ヴァルキリー!」
叫ぶ。
体内で『呪い』と『光』が反発しあっている。あのままでは体がもたない。
黒いモヤが止まったようだか、ヴァルキリーが動いていない。
「あ~あ、スッキリした」
パンドラは清々しく言い、足をヴァルキリーから引き抜く。
「そうだ。前から見たいものがあったんだ」
無邪気な笑みを見せる。
「見せなさいよ」とパンドラはヴァルキリーの胸を引き裂く。
ヴァルキリーの胸から赤く輝く。
「綺麗。これが宝石心臓ね」
宝石心臓は聖女に覚醒した女の心臓が宝石に変化する。それが聖女の『光』の心臓になる。
『呪い』に抗体がない聖女を守っているため、通常のエンジェライトより強力。最古の魔女であるパンドラでさえ、宝石心臓の光に浴びただけで顔が焼ける。それでもパンドラは苦しむことなく、宝石心臓に手を伸ばす。
ヴァルキリーの宝石心臓を引き抜くつもりだ。
ジャンヌはロザリオで白い炎の波を放つ。
白い炎の波は確実にパンドラに当たったが、パンドラには何一つ傷がついていない。
パンドラの『呪い』の力量が高く、『光』が浄化しきれなかったからだ。
「まだいたの」
パンドラはヴァルキリーから離れる。
「せっかくだから、あなたのも見せなさいよ」
宝石心臓を狙ってくる。
左手でロザリオを構えた瞬間、パンドラが消えたと思えば、目に映らない速さで移動し、黒い剣が迫ってくる。
ところが、あと、指一本のところで黒い剣が止まった。
冷や汗をかく。
「あれ、こんなに小さくなっちゃった」
パンドラは幼い姿になっていた。
『呪い』を浪費して、幼くなっただろうか。
「それにもう眠いし」
口を手で塞ぎ、大きなあくびをしながら、箱の中に入る。
「寝よう。おやすみ」
静かに眠りに入り、箱は閉じられ、消えていった。




