第5話 ナリカケ 前半④
タンガとサイクロプスから逃げることに成功したジャンヌは息を上がって膝ついていた。
「あ~もう厄日だ!ナリカケが出できちゃうし。変な奴らに殺されかけるし。厄介者がいるし」
アキセをにらみつける。
「それって俺のこと?助けにきてやったのに」
こんな状況でもヘラヘラと笑う。イラ立つ。
「あんた、あのサイクロプスに何をしたの?」と立ち上がる。
「あ~あれ。君が死にかけた蛇の毒の塊」
せきへびの魔女メドゥーサ・ゴーゴンの時に、最後の力で操った毒蛇に噛まれ、死にかけたところアキセが奪う力で抜いたあの毒の塊だった。
「持ってたの・・・」
「もったいないだろう。ちなみにさらにあの毒を増せたんだ。ジャンヌだったらもう即死だな」
毒を増したというのは、アキセの奪う魔力で毒の塊に毒を増したのだろう。
――やっぱ、この男とは一緒にいたくない
「でも君は驚かないのか」
「何が?」
「俺がリリムだってことに」
「検討はしてたわ」
魔族の血が流れている。見た目から当てはまる魔族は限られる。見た目がほぼ人間と変わらない者。あの特殊な魔力。魔族の中であの魔力を持っている種族は聞いたことはない。
その一つとして考えられたのが魔女の子供。魔女の子供ならどんな魔力も得られると思うが、ただ、世界で最強と言われるよきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーの子供とは思わなかった。
そういえば、リリムは淫魔に似た体質を持っている。
淫魔は相手を誘惑し、性行為をして生気を奪っている魔族。メドゥーサの時、市役所の部屋で女を誘惑させていたのか。それにリリスの血が流れていれば、メドゥーサとグレモリーのように魔女も誘惑できるのも納得した。
「さすが聖女様」
「まさか予想が当たるとは思わなかったけど」
ジト目で見つめる。
「正体が分かったところで、どうするんだ?」
「え?何言ってるの。あんたがリリムだろうが関係ない」
「ん?」
「今までの腹いせのために殺すだけ」
「あれ?俺の正体知りたかったんじゃ・・・」
「ついでに分かればいいくらいだし。そこまで重要じゃないし。そんな価値はない」
「ええええええ、今までの下りなしか!あんな拷問までして」
「してない!」
「まだ喧嘩する気か」
別の声が割り込んできたので、視線を向けば、コゼットが不機嫌そうに立っている。いつの間にかついていた。
「おいおい、何でいるんだ?コゼット」
アキセがジト目で見る。
「俺はレオンだ!俺だって逃げたかったんだ!」
「それはリリスから逃げたかったんだろうが」
レオンかコゼットかどちらか本名か分からないエルフは、ぴくっと震えた。
「え?どっちが本名なのよ。それにコゼットって女の名前だよね・・・」
「ぐ・・・」
レオンは言葉を詰まる。
「教えてやろうか~ジャンヌ」
アキセは気安くジャンヌの肩を乗せる。
「見た通りエルフのリリム。んで、リリスが一番気に入ってさ。着せ替え人形のように遊ばれてるって結構有名な話」
「え?」
思わず驚愕する。
「じゃあ、女装していたのは・・・リリスの趣味だったってこと・・・」
「そうなんだよ」
最強の魔女と言われるよきの魔女リリス・ライラ・ウィッチャーが、そんな趣味をしているとは。魔女の考えはよくわからない。
そのことで思い出す。
レオンもリリムなら、ナリカケが言っていたあの女とは、レオンが流れるリリスの血を嗅いだのだろう。それにアキセの時もグレモリーがあの女と言っていた。
リリスは、かなりの気分屋と聞いている。魔女の間でも毛嫌いしているのだろう。
「着せ替えで終わるならまだマシだ。あの女!俺をおもちゃしか見てないんだ・・・夜の相手にされるし。いろいろと俺の心をいじるし・・・」
レオンは悔しがる。
「じゃあ、本当に今リリスから逃げているってことなの・・・」
レオンは頭を小さく縦に振る。
いろいろと呆れてジャンヌは溜息をはく。
「そんな君がなんでまだいるのよ」
「さっき言ったろ。逃げたかったって。なんか・・・変な奴らに目つけられたし・・・逃げられそうにもないし・・・今は聖女と一緒にいた方が捕まらずに済みそうだし」
先に逃げようとした彼だったが、どうやら考えを変えたようだ。この状況で単独でいる方が危険だと判断したのだろう。
「そう。この際なんでもいいわ。一応協力するってことね」
「仕方なく」
「分かった。もし裏切ったら、殺す」
ジャンヌの殺意を込めた目つきをレオンに向ける。レオンもその目つきに圧倒したのか、ビビっている。
「・・・はい」
レオンとアキセは兄弟の関係だ。アキセと同じように裏切られる可能性もある。念のため脅しておく。
「もしかしてあの時のことそんなに根に持っているのか」
「一生かけても忘れない」
殺しかけおいて、簡単に忘れるなんてできるものか。あの時のことを許してしまっては後々アキセが付け上がるに違いないからだ。
「まさかとは思うけど、協力してくれるのかしら?」
ジャンヌはアキセに凝視する。
「一応そうだけど」
「ふ~ん。じゃあ私と一緒にいなさい」
「一人になるのかいやなのかな~」
「違う。あんたが離れるとろくなことがないからよ!」
この男は、見放される方が何されるか分からない。状況を悪化する。今までのアキセの行動を考えれば、近くで監視した方がいい。
「もういい加減今後の話ししようぜ」
レオンが横から入る。
とりあえず現状を整理した。
ナリカケの出現と襲撃にきたリリム。
「どう考えても、あのナリカケは、誰かが仕向けている」
「おい、ナリカケってなんだ?」
レオンがジャンヌに問いかける。
リリムなのに知らないのか。
「手っ取り早く言うけど、魔女が黒女神なる途中の段階のことよ」
「え?それってけっこうヤバいことだよな」
「黒女神が復活するかもしれないのよ。ヤバいに決まっているでしょ。この世界がなくなるかもしれないんだから」
「さっき俺に襲ってきたあの魔女たちがそうなのか」
「そうよ。かなり共食いをしているから、今のうちに退治しないと」
「じゃあ、仕向けたっていうのは?」
レオンが問いかける。
「ナリカケが同時に2体も出現するなんて。しかも1か所に魔女を大量に食べているのよ。不自然でしょ。どうやったって誰かがナリカケを飼っているわよ」
「それってどう考えても」
「魔女しかいないだろう」
レオンの問をアキセが答える。
「ナリカケの飼育なんて人間、魔族ができる技じゃないだろう。それにさっき襲ってきたサイクロプスと眼鏡は、その魔女の手下当たりだろう。聖女殺害にさ。ナリカケを殺せるのは、聖女だけだから」
「説明どうも」
ぶっきらぼうに返す。
「で、勝つ賞賛あるのか。」
「言えるほど自信がないわよ」
「じゃあ、逃げる?」
「仕事上逃げるわけにはいかないでしょ。私だって、関わりたくないわよ。でもほっといてもやる羽目にはなるから」
ナリカケが対処しきれなかったら、黒女神になる前に聖女総意で戦うことになる。つまり強制参加させられる。さらに面倒ごとになる前に対処する。
「それにもう敵に目をつけられたし。私に襲ってきたこと後悔させてやる」
――それが私の信条だから
夜空を見れば、先ほどまで晴れていたが、黒い雲に覆われている。
「ねえ。レオン。精霊術で使える?」
「ん~。今『呪い』で汚染しているから、精霊が少ない。けど時間を稼げばどうにか・・・」
「そう・・・」
ジャンヌは考え込む。
「作戦あるのか?」
アキセが訊いてくる。
「一応ね。歩きながら、話すわ」
歩き出そうとした時にアキセが突っ込んでくる。
「え!?」
ジャンヌの腹に激痛がした。
視線を下に落とせば、腹にナイフが刺された。




