第3話 喰愛の魔女③
「あれ・・・ここどこ?」
アキセは目を覚ます。
どうやら屋敷にいるようだった。
所々窓が割れているが、建物を覆っている葉が変わりに塞がってくれている。窓から漏れている月明かりが唯一の明かりだった。部屋の中もベッドだけの寂しい部屋だった。
アキセはここまでの経緯を振り返る。
ジャンヌにブラックドックを押し付け、モナを護衛しようと戻れば、唐突にモナにキスされ、なぜか気を失った。失う前に薄ら笑いをしたような気がする。
体を起こそうにも、全く動けなかった。よく見れば、縄でベッドの端に縛り、大の字になっていた。それになぜか上半身が脱がされている。
「あ!やっと目が覚めた!」
アキセが声をした方向を見るとモナがこっちに近づいてくる。
「え~と、これはどういうことですか?」
いやな予感がする。
「あれ、気づいていなかったの?」
モナはイタズラな笑みを見せ、優雅に一回転する。
桃色の髪。血のように赤い目。体と一体化したような赤と白の服。足の関節部に透き通った淡い桃の布。別の格好へと姿を変えていく。
「もしかして…」
「そうよ。私、喰愛の魔女グレモリー・アムール。それが本当の名前よ」
魔女は、時に人間姿に変えることがある。『呪い』を調整し、全く出ないようにさせているため、気付くことができない。
「魔女でしたか・・・」
「あれ?驚かないの?」
グレモリーは、あざとく首をかしげる。
「まあ、何度も魔女に会っているもので」
「ふ~ん」
「しょくあいってことは・・・つまり愛を食べるってことか?」
「あら、よく魔女名が分かるなんて、賢いね」
魔女名は、魔女が象徴する名前。ただ魔女しか読めない魔女文字を使うため、その意味を解読した者は多くない。現在解明されている魔女文字は、数えられる分しかいないという。
「まあ、それなりに魔術師をやっているので」
「ふ~ん」
グレモリーは、興味なさそうに返す。
「私。恋がしたくて溜まらないの~」
グレモリーは、頬を赤くして、気持ちが高まっている。まるで恋する乙女のようだった。
「恋って素敵じゃない。こう、ドキッて胸が高まる瞬間。これがたまんないのー。きゃっはー!!」
――一人で勝手に盛り上がっている。これが普通の女の子だったらかわいいのに。
「特に人間と恋するのがだ~い好き!」
「はあー」
アキセは気が抜ける声を出す。
「人間ってホント、かわいくて仕方がないの。食べちゃいたいほどに」
「そうですか・・・分かったから、これを解いてくれる?」
「え?どうして?」
グレモリーの高まった気持ちが静まり返る。
「これから食べるのに解くわけないじゃん」
グレモリーは不気味な笑みを見せる。
アキセは冷や汗をかく。
「私ね。人間の恋を食べたいの!とってもおいしいの!特にね。お互いに恋している時ってのがたまんないの!いつもならお互い恋してから食べるけど。今回は今までにない恋をしちゃったの。あ・な・た・に」
グレモリーは、瞳を輝きながら見つめている。
「君とは出会ったばかりだし・・・お互いまだ知らないし・・・」
「それまで待てない。我慢できないほどあなたに恋をしたもの」
グレモリーはベッドに乗り込み、アキセの上に乗る。
「だから、あなたをこれからじっくり食べようと思いまーす」
グレモリーは気楽に言う。
その言葉に理解するのに数秒かかった。
食べたいくらい恋をするという言葉はよく聞く。彼女の恋というのは、つまり食べるということらしい。現在進行でアキセに恋をしている。
「ちょっと待って!」
「待てない~」
グレモリーが四つん這いでアキセの肩に口を近づける。逃げ出そうにも手足が縛られているため、動けない。
グレモリーは食べたくで仕方がないのか、口からよだれが出でいる。
「あ~、いい体。おいしそう…」
「おいおい!」
「いただきまーす」
グレモリーは、口を大きく開け、アキセの肩に噛み付く。
「ぐう!」
アキセの肩に激痛が走る。
グレモリーがアキセの肩の肉を噛みむしり、飲み込んだ時だった。
「ああああああああああああああああああああああああああ」
グレモリーの悲鳴が部屋中に響き渡る。
「あ、あああああ、ああああああ」
グレモリーは口を押さえながら、ベッドから落ち、もがき苦しんでいる。
理解ができなかった。なぜ急に苦しみ始めた。『光』で浄化されたわけでもなく、魔術も使っていない。なぜだと考え始めたが。
「なるほどね」
聞いたことがある声。声をした方へ向けば、ジャンヌが立っていた。




