↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
78/88

EP 3

残暑の社会保険料改定(定時決定)に怯える社畜と、内定者配属AIの支配で純資産5億8,000万円へ!

 八月下旬、終わりの見えない記録的な猛暑が列島を焼き尽くし、第一工場のトタン屋根からは触れるだけで火傷しそうな熱気が立ち込めていた。

 正午のサイレンが鳴り響いた食堂の大型扇風機は、生ぬるい温風を撒き散らすだけで、工員たちの額から吹き出す汗を止める役には立っていなかった。

 だが、その熱気以上にドロドロとした怨嗟の叫び声が、食堂の給茶機の前から響き渡った。

「……ぎゃあぁぁぁっ! 残業代! 春に必死で入った残業代のせいで、秋から手取りがさらに減るってどういう罠なんだよぉぉぉっ……!!」

 パイプ椅子を蹴倒して床に突っ伏し、額を床板に激しく打ちつけていたのは、同期採用四年目の山岸だった。

 今年で二十一歳になった山岸だが、作業着の背中は汗の塩で真っ白に粉を吹き、手元のスマホには給与シミュレーションの画面が表示されている。

「おい山岸、床で頭を打つな。冷水機のコップを取る邪魔だぞ」

 俺――倉科湊が、保温ランチジャーから氷でキンキンに冷やしたスダチ素麺と、母が持たせてくれた若鶏の唐揚げ甘酢あんかけ弁当を取り出しながら声をかけると、山岸は鬼のような形相で這いずり寄ってきた。

「邪魔どころの騒ぎじゃねえよ倉科ぁぁぁっ!

 先週のお盆休みで、実家への帰省代と飲み会で財布が完全にスッカラカンになったばかりだぞ!?

 そこへ持ってきて、七月分のエアコン電気代【一万九千円】の請求書が届いて息が止まったんだ!

 なのに……さっき総務の掲示板を見たら『九月支給分より標準報酬月額改定(定時決定)』って貼り出されてやがったんだよ!

 俺、四月と五月、新入社員の指導とトラブル対応で毎月三十時間も残業したんだぞ!?

 残業代で一時的に給料が増えたせいで……社会保険料のランクが一気に【二等級】も引き上げられて、九月から毎月の手取りが【七千円も強制天引き増額】だぁぁぁっ!!」

「典型的な『四・五・六月の残業トラップ』だな」

「罠すぎるだろぉぉぉっ!!」

 山岸は絶叫し、床を拳で殴りつけた。

「住民税で一万二千円引かれ、九月からは社会保険料でさらに七千円引かれ、電気代は二万円近く跳ね上がり……

 春に残業して稼いだ小銭なんて、秋からの天引き増額と電気代で一瞬にしてマイナスだ!

 汗水垂らして働けば働くほど、後から国に首を絞められる……!

 手取り十二万円台で、俺はどうやって生きていけばいいんだよぉぉぉっ!!」

 周囲のベテラン工員たちも、手元の明細を苦々しい顔で見つめながら「四・五・六月に残業すると一年間社会保険料が高くなるから一番損なんだよな」「働いたら負けとはよく言ったもんだよ」「秋からはインフルエンザの予防接種代もあるしな」と、力なく肩を落として冷めた麦茶をすすっている。

 俺は小さく息を吐き出し、水筒の冷たいほうじ茶を一口喉へと流し込んだ。

「山岸。中学生でもわかる、社会保険の標準報酬月額と『定時決定』の算数をしよう」

「算数なんか聞きたくねえ! 俺の手取りを返せ!」

「返せと言っても日本の法制度通りだ。

 健康保険法および厚生年金保険法において、毎年九月から翌年八月までの社会保険料の基準となる『標準報酬月額』は、毎年【四月・五月・六月の三ヶ月間に支給された給与の平均額】によって決定される。

 この三ヶ月間に残業代や各種手当で給料が跳ね上がると、等級が上がって社会保険料の天引き額が一年間にわたって固定化される。

 秋以降に残業がゼロになっても、引き上げられた高い保険料は容赦なく引き落とされ続けるため、実質的な手取りが激減する【残業貧乏スパイラル】に陥るんだ。

 国の徴税ルールすら知らず、目の前の残業代に釣られて時間を切り売りする労働者は、制度を設計した側にとって最も効率のいい『搾取の養分』でしかないんだよ」

「ぎゃあぁぁぁっ! 制度の養分って言うなよぉぉぉっ!!」

 耳を塞いで食堂の隅へと逃げ出していく山岸。

 山岸は震える指でスマホを取り出し、自暴自棄に画面をスクロールした。

「……あ、そういや倉科! 東京の大学組の内定者たちの最新の動き、見たかよ……!?」

「同級生がどうした?」

「もう完全な選民思想の権化になってるぜ!

 東証プライム大手に内定をもらった大学四年の同級生連中、いま企業から出された【内定者事前課題】と【配属希望エントリーシート】に必死になってんだよ!

 グループLINEで『俺は海外事業部か経営企画志望!地方工場や営業現場に飛ばされる奴は負け組w』『人事部長にアピールするためにTOEIC900点取ったわ』って、お互いに牽制し合いながらマウントを取り合ってんだ!

 『高卒で一生現場作業の倉科たちには、本社のエリート部署の出世競争なんて一生無縁の世界だよなw』って、わざわざ俺たちの名前を挙げて大笑いしてやがったんだぞ!

 あいつら……来年の四月からエリート社員として高みの見物を決め込む気満々で、反吐が出るぜぇぇっ!!」

 他人の傲慢さに歯ぎしりし、パイプ椅子を蹴る山岸。

 だが、その山岸自身も、社会保険料の増額と電気代の請求書に怯えて震えているのだ。

(山岸、お前には見えていないんだよ。

 東京の内定者どもが花形部署の配属を巡って必死に課題を提出し、高卒の俺たちを嘲笑っている横で……

 あいつらの配属先と出世の運命を左右する【配属判定アルゴリズムの絶対神】が、目の前にいる高卒四年目のライン工だという現実がな)

 同級生たちが大学を卒業し、社会に出て自らの市場価値の低さに絶望するまでの、残り二百二十日。

 前話(第77話)で、あいつらの内定先である東証プライム上場企業3社の大株主に君臨し、確定総純資産は【5億5,300万円】を突破。

 バランスシート総額は十億円を超えている。

 そして今夜――あいつらの『配属先決定権』を完全に掌握する【究極のBtoBエンタープライズSaaS】が、大手企業群で本格稼働を迎える。

「定時で上がるぞ。今夜、あいつらの人生の採点表を検収する」

 午後十七時零二分、定時退社。

 タイムカードをパチンと切った俺は、夕暮れの心地よい初秋の風を切り裂き、地方都市の駅前に構えたミナト・ホールディングスのオフィスへと自転車を疾走させた。

 ◇ ◇ ◇

 午後十七時三十分、合同会社ミナト・ホールディングスのオフィス。

 ダイキンの最新エアコンが静かに二十四度の快適な室温を保ち、ディフューザーからはペパーミントとベルガモット、そして上品な白檀と初秋の和梨のアロマがふわりと漂っていた。

「湊くん……! お帰りなさい!」

 扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。

 淡いオリーブグリーンの上質なシフォンブラウスに、清楚なアイボリーのマーメイドロングスカート。

 ショコラブラックの豊かな髪を首元ですっきりとまとめ、黒縁メガネを外した大きな茶褐色の瞳が、夕陽を浴びてキラキラと輝いている。

 二十一歳の洗練された美しさと大人の落ち着きを身にまとい、株式会社スタジオ・シオリの代表取締役としても堂々たるオーラを放っていた。

 部屋に入った瞬間にふわりと広がる甘い石鹸と果実のアロマに、俺の心拍計がピクリと跳ね上がる。

 デスクの上には、最新のM4搭載iPad Proと、氷を浮かべた特製の耐熱グラスが用意されていた。

「白石、待たせたな」

「ううん、全然待ってないよ! 湊くん、暑い工場のライン作業お疲れ様……!

 これ、外はすっごく喉が渇いたでしょ? 買収したハーブ園の無農薬ペパーミントと、鳥取県産の初摘み二十世紀梨をまるごと搾った『特製アイスハニー和梨モヒートスカッシュ』だよ! 冷たいうちに飲んでね!」

「サンキュー、白石。生き返るよ」

 グラスを受け取り、一気に喉を潤す。

 二十世紀梨のシャリッとした爽快なみずみずしさと、ミントの清涼感、そして蜂蜜の上品な甘みが、渇いた身体の隅々までじんわりと染み渡っていく。

 めちゃくちゃうまい。

 だが、俺は彼女の華奢な指先に、大手人事部向け内定者適性診断AIダッシュボードの最終UI監修による微かな強張りがあるのを見逃さなかった。

(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に作動している)

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。

 銀座の老舗名門サロンが完全予約制で仕立てた『最高級・完熟二十世紀梨と京都一番摘み宇治抹茶の極上初秋エメラルドジュレテリーヌ』と、高密度ナノグラフェン温熱と超音波ナノミスト温冷機能で手根管から指先までを深層ケアする最新型コードレスメディカルハンドエステ機だ。

「ほら、白石。これを受け取れ」

「えっ……!? これ、すごく大きな和梨が透き通ったジュレとお抹茶の層になってるテリーヌ……! それに、最新のエステ機……!?

 湊くん、私がお茶を出しただけなのに、どうしていつもこんなに高価なものをくれるの……?」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織財務と人事DXプラットフォーム本稼働に伴う人的資本BCP防衛の講義だ。

 純資産五億五千万円を突破した我がグループの最高アートディレクター(お前)が、残暑の寒暖差によって浅指屈筋および手根管周辺の柔軟性を低下させ、これから即時稼働する東証プライム企業向け内定者配属最適化AIの最終UIベクター検収を〇・四秒遅延させた場合、東証上場五十社へのシステムアップデート遅延に伴う事業機会損失は【試算で最低でも月額八千五百万円】に跳ね上がる!

 二十世紀梨の高濃度アスパラギン酸と宇治抹茶のカテキンによる疲労物質の急速キレート排出、ならびにグラフェン温熱による指先の微細神経機能維持は、グループ中核クリエイターの【中長期的アジリティを担保するための戦略的初秋BCP防衛および役員福利厚生投資経費】だ!

 お前への甘やかしなどではない!

 今夜生み出される何億円ものSaaS純利益から逆算すれば、このテリーヌ代などROI(投資対効果)は【実に十一億%】を超える!

 極めて合理的でドライな財務上の防衛支出だから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて手を突っ込め」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! アスパラギン酸……? ROIがじゅういちおくパーセント……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」

「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『防衛経費』で美味しく手をポカポカにして、十一億パーセントのお返しができる世界一可愛いデザインを描き続けるね!

 ……あ、湊くん! テリーヌ、お梨がシャキシャキでジュレが宝石みたいだよ! はい、あーん!」

 フォークにみずみずしい和梨の果肉と上品な抹茶ジュレをたっぷり乗せ、夕陽に照らされた満面の笑顔で差し出してくる詩織。

 至近距離から漂う爽やかな果実のアロマ、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。

「お、おい……自分で食える……」

「ダメー! 新システム本稼働の景気づけなんだから! ほら、あーん!」

 観念して口を開けると、シャリッとした極上の果肉から甘酸っぱい果汁が溢れ出し、抹茶の上品な苦味が口いっぱいに広がった。

 めちゃくちゃうまい。

 そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止しかける。

(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、どんな強固なセキュリティをも一瞬で溶かしてしまう……)

「ふふっ、美味しい? 湊社長!」

「……ああ、最高だ。……よし白石、本題に入るぞ」

 ◇ ◇ ◇

「白石、今から中学生でもわかる、大企業の人事権の完全掌握――【内定者研修&配属最適化AI(ES-Master Placement)の独占提供】の算数をしよう」

 俺はノートPCを開き、ホワイトボードの前に立った。

「あいつら同級生たちは今、東証プライム大手の内定者課題を必死にこなし、『経営企画や海外事業部に行きたい』とイキがり倒している。

 だが白石、あいつらが課題を提出しているそのWebポータルの正体……何だと思う?」

「えっ……? もしかして……!」

 詩織がハッと息を呑んだ。

「その通りだ!

 東証プライム上場企業五十社に導入された、俺たちの最新SaaS――

 ――【内定者育成&初期配属最適化AI『ES-Master Placement』】だ!」

 俺は画面に、企業の人事部長向け管理ダッシュボードを展開した。

【『ES-Master Placement』システム概要】

① 内定者課題&行動データのリアルタイム解析:

・内定者が提出する事前課題の論理性、提出スピード、AIチャットでの質問傾向、ストレス耐性テストを統合解析。

② AIによる初期配属適性スコアリング:

・各内定者に対して「経営企画適性」「現場適性」「離職リスク」を客観的数値で自動出力。

・人事部は、このAIスコアを基に【来春4月の初期配属先(本社花形部署か、地方の過酷な支社か)】を決定する!

③ 料金体系:【東証プライム50社・年間追加契約】

・1社あたり年間追加ライセンス:【2,000,000円】

・確定追加ARR:【50社 × 200万円 = 1億円(年間一括前払い!)】

「……えぇっ!? あいつらの配属先を決めるシステムを、湊くんが作っちゃったの……!?」

 詩織の息が止まった。

「そうだ。

 あいつらが必死に深夜まで書いて提出した事前課題は、すべて俺たちのサーバーに送られ、俺たちのアルゴリズムによって採点されている。

 そして、あいつらの画面には『課題受領完了』と表示されるだけだが、

 俺たちの管理画面には――」

 カタカタ、ターンッ!

 俺はエンターキーを叩き、同級生たちの実名が並んだ配属判定レポートを表示させた。

【内定者行動解析レポート(抜粋)】

・内定者A(大学同期・マウント主犯):

 課題提出遅延、AIによる文章盗用度68%、プライド偏重によるチーム摩擦リスク極大。

 ⇒ 【AI推奨配属:北関東物流センター 倉庫管理現場(適性ランクD)】

・内定者B(大学同期):

 ストレス耐性数値脆弱、自立的課題解決力欠如。

 ⇒ 【AI推奨配属:地方支社 テレアポ新規開拓飛び込み営業(適性ランクE)】

「……っ!! あいつら、本社どころか……地方の倉庫や飛び込み営業に配属判定が出てるよ……!?」

 詩織が目を丸くした。

「当然だ。客観的な行動データに基づけば、遊んでばかりで口先だけのエリート気取りなど、現場の過酷な環境で鍛え直すのが企業経営の鉄則だからな。

 あいつらが『高卒を見下してワインで乾杯』している裏で、

 その首輪の鎖と、配属先の運命を決定づけるシステムを握っているのは、他ならぬ高卒ライン工の俺たちだ!

 そして――このシステム導入により、東証プライム五十社から【追加の一億円】が一括着金した!」

 俺は資産管理スプレッドシートの統合確定ボタンをクリックした。

【合同会社ミナト・ホールディングス グループ連結資産集計(8月28日時点)】

・前回までの確定総純資産:553,000,000円

・『ES-Master Placement』50社追加契約前受純利益:+42,000,000円(納税引当後実質プール分)

・老舗旅館『翠月亭』夏休み確定純利益:+19,800,000円

・古民家茶房『花咲庵』晩夏特需純利益:+7,900,000円

・BtoBエンタープライズ+大学包括+辞退防止SaaS月割純利益:+22,400,000円

・個人向け就活SaaS+メディア連合+D2C定期純利益:+24,500,000円

・月額アカデミー(MRR 620名分純利益):+6,100,000円

・コア資産運用配当&米国債利息:+1,120,000円

・法人税・消費税追加納税引当プール金:▲94,420,000円

★ 確定総純資産残高(純資産ベース):【582,400,000円(祝・純資産5億8,200万円突破!)】

★ グループ運用総資産規模(バランスシート総額):【11億2,840万円(総資産11億円突破!)】

★ グループ月間経常純キャッシュフロー:【+1億2,200万円(月利1億2,200万超え!)】

「……ご、おく……はちせんにひゃくまん……! そして総資産は十一億円だよぉぉぉっ!!」

 詩織は歓喜の声を上げ、勢いよく俺の胸元へと飛び込んできた。

 至近距離で弾む少女の息遣いと、柔らかなシフォンブラウスの温もり。

 俺の心拍計が激しく跳ね上がり、脳内プロセッサが心地よい熱を帯びる。

「湊くん、本当にすごいよぉぉぉっ!

 あいつらがいくら威張っても、その人生のレールを敷いてるのが湊くんなんだね……!」

「ああ。お前が作ってくれた完璧なUIがあったからこそ、人事部はこのシステムに全幅の信頼を置いている。最高のパートナーだよ、白石」

 俺は胸元で抱きついてくる詩織の背中を優しく撫でた。

 夕暮れのオフィスに、二人だけの温かく甘い至福の時間が静かに流れていた。

 ◇ ◇ ◇

 午後二十一時、地方都市の小高い丘の上に建つ、九条源蔵の屋敷。

 広大なリビングで、俺が提示した配属判定データと『582,400,000円』の資産管理シートを見つめていた源蔵が、ふっと老眼鏡を外した。

 そして――。

「……カッカッカッ!! ワッハッハッハッ!!」

 屋敷の太い梁をビリビリと震わせるほどの、豪快な大爆笑が初秋の夜空に轟いた。

 源蔵はバシバシと欅の一枚板テーブルを叩き、テーブルを揺らした。

「大株主になるだけじゃ飽き足らず、内定者の配属先決定アルゴリズムまで握りやがったか!

 ワッハッハッハッ! 痛快だ湊!

 本社エリートを気取る阿呆どもが、てめえのアルゴリズム一つで地方の倉庫や飛び込み営業に叩き落とされる……

 ケッ、完全に神の視点で蟻の行列を眺めるゲームマスターじゃねえか!」

「ええ。人事部長たちも『AIの客観的データだから文句のつけようがない』と絶賛しています。

 純資産は五億八千万円を突破し、月間純キャッシュフローは一億二千二百万円に達しました」

「ケッ! 月利一億二千万か! 工場の初任給の約八百七十年分を毎月叩き出す怪物の誕生だな!」

 源蔵のぎょろりとした鋭い眼光が、獲物を仕留める直前の猛獣のようにギラリと光った。

「いいか湊。二十一歳にして日本の全世帯の上位〇・一%の絶対頂点に君臨した今、

 手取り十三万に怯える山岸や、配属に浮かれる同級生どもが、何万回生まれ変わっても拝めねえ【五億八千万円の絶景】をてめえは手に入れた!

 来春の卒業式まで、残り二百二十日!

 このまま圧倒的な資本の暴力を研ぎ澄まし、あいつらが手取り二十万の現実で泣き喚くあの日、完全なる【人生の最終回答】を叩きつけてやれ!」

「はい、じいさん!」

 俺の力強い咆哮が、初秋の静寂を切り裂いた。

 窓の外を見上げると、澄み切った夜空に、神々しいまでの満月が輝いていた。

 高校卒業から三年と五ヶ月。

 同級生たちが大学を卒業し、社会に出て自らの市場価値の低さに絶望するまでの、残り二百二十日。

 手取り十四万の食品工場ライン工社長と、覚醒した天才美少女絵師。

 純資産五億八千万円を突破し、同級生の運命すら掌握した二人の快進撃は、ここから来春の卒業式へ向けた「絶対王者の最終回答」という、伝説のフィナーレへと突き進んでいく!

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:21歳/食品工場ライン工・合同会社ミナト・ホールディングス 代表社員(純資産5億8,200万・総資産11億円突破!)

・総資産残高:582,400,000円(前話比:+29,400,000円 ※配属SaaS追加契約前受+旅館+MRR)

・グループ運用総資産:1,128,400,000円(バランスシート11億円完全突破!)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+122,000,000円(グループ連結月間純利益・過去最高益更新!)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「大企業の内定で威張る奴はただの歯車、その歯車がどこに配置されるかを決めるアルゴリズムを売る奴が市場の支配者だ。運命の配属先まで握られた奴らがどれだけイキがろうが、来春の卒業式での答え合わせは完全なる処刑台になるんだよ!」

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。