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『高卒で人生終了?――伝説の投資家に資本主義の裏ルールを学んだ俺、4年で資産1億円を築いて元同級生を見返します』  作者: 月神世一


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EP 4

お盆休みの帰省と、格差が開きすぎた同窓会の案内状

 八月十日、金曜日。

 アスファルトが陽炎でぐにゃりと歪む午後十六時、三晃紙器工業の敷地内には、一週間のお盆休みの始まりを告げる終業のサイレンがけたたましく鳴り響いた。

「……お、終わった……! 地獄の連続勤務、乗り切ったぞ……っ!」

 更衣室のロッカーの前で、油と汗にまみれた作業着のファスナーを下ろしながら、同期採用の山岸が膝から崩れ落ちた。

 だが、その顔に休暇を迎えた喜びの色は微塵もない。

 目の下にはドス黒い隈が二重に張り付き、頬はゲッソリと痩せこけている。

「おい山岸。今日から工場はお盆休みだぞ。少しは身体を休めろよ」

 俺――倉科湊が、私服の清潔感あるネイビーのポロシャツに着替えながら声をかけると、山岸は虚ろな目で首を激しく横に振った。

「休めるわけ……ねえだろ倉科ぁぁぁ……っ!

 明日からお盆休みの七日間、俺のシフト表を見ろよ……!」

 山岸が震える手で見せてきたスマートフォンのカレンダーアプリ。

 そこには、朝八時から夕方十七時まで『駅前立体駐車場の炎天下誘導警備(日当八千円)』、そして夜十九時から深夜三時まで『居酒屋の皿洗い(時給千二百円)』という、殺人的なダブルワークが七日間びっしりと赤ペンで埋め尽くされていた。

「睡眠時間、一日三時間……!

 これを全部こなせば、七日間で【約十万円】の現金が手に入る……!

 住民税の増額分と、ブログ塾のリボ払いと、サラ金の利息……今月中に払わなきゃマジでブラックリスト入りなんだよ!

 休んでる暇なんて一分一秒もねえんだよぉぉぉっ!!」

 血走った目で喚き散らす山岸。

 連休という貴重な時間を、炎天下での過酷な肉体労働と深夜作業にすべて差し出し、自らの健康と若さをすり減らして小銭を稼ぐ。

 そして稼いだ金のほぼ全額が、過去の見栄と無知で作った「負債の利息」へと消えていく。

「山岸。中学生でもわかる、人的資本の減価償却と機会費用の算数をしよう」

「また算数かよ! 俺は生きるために身体を張ってんだよ!」

「人間の身体は、すり減ったら取り替えの利かない【唯一無二の資産(人的資本)】だ。

 三十八度の炎天下で立ちっぱなしになり、深夜まで油鍋を洗い続ければ、熱中症や急性心不全で倒れる確率は跳ね上がる。

 十万円稼ぐために倒れて救急搬送され、一週間の入院費と検査代で十五万円請求されたら、手元に残るのは差し引き五万円の純損失と壊れた内臓だけだ。

 休暇のたびに身体を資本家へ安売りする生き方を改めない限り、お前の人生の貸借対照表(バランスシート)は永遠に債務超過のままだよ」

「ぐっ……! う、うるせぇぇぇっ! 俺にはこれしかねえんだよぉぉぉっ!!」

 耳を塞ぎながら更衣室を飛び出していく山岸。

 その背中を見送りながら、俺はスマートフォンの画面を静かにタップした。

(お盆休みの七日間……。

 労働者が時給労働に追われ、他人に時間を切り売りする横で、資本家は何をするか)

 画面に映し出されたのは、合同会社ミナト・キャピタルの法人口座、そしてStripeのリアルタイム決済ダッシュボードだった。

『本日(正午時点)の自動売上:【119,200円】』

・特化ブログ3サイト経由の特単アフィリエイト報酬:+59,600円

・完全自動ウェビナー(エバーグリーン)自社教材成約:+59,600円(2本)

「……半日で、約十二万円の自動キャッシュフロー」

 俺が一秒も働かず、工場のロッカーで着替えている間にも、ネットの海に仕掛けたエバーグリーンの歯車が二十四時間稼働し、山岸が命を削って一週間働く金額をわずか半日で口座に吐き出している。

 これが、資本のルールを知る者と知らない者の、決定的な格差だった。

「定時退社だ。涼しいオフィスへ向かうか」

 俺は愛用の自転車に跨り、地方都市の駅前に構えたデザイナーズ・シェアオフィスへとペダルを踏み込んだ。

 ◇ ◇ ◇

 午後十七時三十分、合同会社ミナト・キャピタルの契約個室オフィス。

 静かに作動する最新型のダイキン製エアコンが、室内を快適な二十四度に保ち、ディフューザーからはペパーミントとベルガモットの清涼感あふれるアロマがふわりと漂っていた。

「湊くん……! お疲れ様!」

 扉を開けると、そこには白石詩織が待っていた。

 淡いラベンダーのサマーリブニットに、風に揺れる清楚なホワイトのティアードロングスカート。

 ショコラブラックの豊かな髪を後ろですっきりとポニーテールにまとめ、うなじの透き通るような白さが際立っている。

 黒縁メガネを外した大きな茶褐色の瞳が、夕暮れの柔らかい光を浴びてキラキラと輝き、すれ違う誰もが息を呑むような大人の気品と透明感を放っていた。

 デスクの上には、最新のiPad Proと、霜のついたグラスが用意されている。

「白石、待たせたな」

「ううん、全然待ってないよ! 湊くん、お盆前の工場勤務、本当にお疲れ様……!

 これ、喉渇いてるでしょ? 実家の庭の摘みたてレモンバームで作った『特製ハーブシトラスソーダ』だよ! 冷たいうちに飲んでね!」

「サンキュー、白石。助かるよ」

 グラスを受け取り、喉を鳴らして流し込む。

 炭酸の刺激とともに、ハーブの香りと搾りたてシトラスの爽やかな酸味が全身の疲労を一瞬で吹き飛ばしていく。

 めちゃくちゃうまい。

 だが、俺は彼女の華奢な首筋に、長時間のイラストチェックによる微かな強張りがあるのを見逃さなかった。

(……いかんな。また俺の経営者センサーが過敏に作動している)

 俺はデスクの引き出しから、あらかじめ用意しておいた重厚な桐箱をスッと取り出し、詩織の前に差し出した。

 京都の老舗茶舗が夏季限定で完全予約生産している『最高級・特選宇治濃茶白玉かき氷テリーヌ(練乳エスプーマ添え)』と、首元を瞬間冷却しながら自律神経を優しく整える最新のウェアラブル・ペルチェネックファンだ。

「ほら、白石。これを受け取れ」

「えっ……!? これ、テレビで特集されてた……! 一杯二千五百円もする、幻の濃厚抹茶エスプーマスイーツ……!? それに、最新のネッククーラー……!?

 湊くん、私がお茶を出しただけなのに、どうしていつもこんなに素敵なものをくれるの……?」

「勘違いするなよ」

 俺は腕を組み、冷徹な仮面を必死に張り直して早口でまくしたてた。

「中学生でもわかる組織財務と夏季人的資本BCP防衛の講義だ。

 我が合同会社ミナト・キャピタルの最高アートディレクター(お前)が、酷暑による頸部体温の上昇によって脳の毛細血管を拡張させ、思考力低下によって次期自社コミュニティの会員証デザインの色彩調整を〇・五秒遅延させた場合、新サービスローンチに伴う機会損失は【試算で最低でも月額三百万円】に跳ね上がる!

 最高峰の宇治抹茶に含まれる良質な茶カテキンとテアニンによる自律神経の急速鎮静、ならびにペルチェ素子による頸動脈の恒常的冷却は、組織の基幹クリエイターの【中長期的アジリティと作画生産性を極大化させるための戦略的酷暑期BCP防衛および役員福利厚生投資経費】だ!

 お前への甘やかしなどではない!

 今後生み出される何千万円もの自動化純利益から逆算すれば、この抹茶テリーヌ代などROI(投資対効果)は【実に八百万%】を超える!

 極めて合理的でドライな財務上の防衛支出だから、一ミリも遠慮せず胃袋に収めて首に装着しろ」

 息をつかずに言い切った俺の、世界一長くて過保護な言い訳。

 詩織は桐箱を胸にぎゅっと抱きしめ、目をパチクリさせて聞いていたが――やがて、その桃色の唇をふにゃりと綻ばせ、クスクスと愛おしそうに笑った。

「ふふっ……あはは! けいどうみゃくのこうじょうてきれいきゃく……? ROIがはっぴゃくまんパーセント……?

 湊くんの言い訳、本当に世界一長くて……世界一甘くて幸せだよ!」

「な、何がおかしい。純粋な企業防衛だぞ」

「うん、そうだね! じゃあ私、湊くんの『酷暑期防衛経費』で首をひんやりさせて、八百万パーセントのお返しができる世界一可愛いデザインを描き続けるね!

 ……あ、湊くん! 抹茶テリーヌ、お濃茶のソースがとろ〜りしててすっごく美味しそう! はい、あーん!」

 スプーンに濃厚な緑のエスプーマと艶やかな白玉をたっぷり乗せ、夕陽に照らされた満面の笑顔で差し出してくる詩織。

 至近距離から漂う芳醇な抹茶のアロマと、彼女自身の透き通るような白い肌、潤んだ茶褐色の瞳。

「お、おい……自分で食える……」

「ダメー! お盆休み前の景気づけなんだから! ほら、あーん!」

 観念して口を開けると、ひんやりとした極上の舌触りとともに、ビターで奥深い抹茶のコクと上品な練乳の甘みが口いっぱいに広がった。

 めちゃくちゃうまい。

 そして――心拍数が異常なスピードで跳ね上がり、俺の脳内プロセッサが完全に一時停止しかける。

(……ダメだ。この女の『あーん』の破壊力は、資本主義のどんなアルゴリズムをも一瞬で溶かしてしまう……)

「ふふっ、美味しい? 湊社長!」

「……ああ、最高だ」

 見つめ合う二人。

 穏やかで満ち足りた至福の時間が、静かに流れていた。

 ――その時だった。

 ピロリン、ピロリン、ピロリン!

 デスクの上に置いてあった俺と詩織のスマートフォンが、ほぼ同時にけたたましい通知音を鳴らした。

 ◇ ◇ ◇

「……ん? LINEの通知か?」

 画面を開くと、そこには高校時代の【普通科3年2組公式グループ】のトークルームが表示されていた。

 卒業以来、ほとんど動いていなかったそのグループに、突如として長文のメッセージが投下されていたのだ。

 送信者は――元学級委員長で、東京の私立大学へ進学した同級生の男子だった。

『みんな元気してる!?

お盆休みに合わせて、東京や関西に進学した組も地元に帰省してるから、明後日の【8月12日(日)18時】から、駅前の居酒屋で【お盆の学年同窓会】を開催します!

就職活動のインターンの情報交換や、近況報告も兼ねてみんなでパーッと飲もうぜ!

東京組も地元のメンバーも全員集合で!出欠は明日までに教えて!』

「同窓会……?」

 詩織がスマートフォンの画面を覗き込み、眉を八の字にした。

「湊くん……同窓会だって。去年の夏休み以来だね……」

「ああ。あれからちょうど一年か」

 俺は冷え切った目で画面を見つめた。

 メッセージの直後、トークルームには次々と同級生たちのスタンプや書き込みが連投され始めていた。

『行く行く!東京のサークル仲間と飲むのも飽きたし、地元のメンツに会いたい!』

『私、サマーインターンの選考で病みそうだったから息抜きしたい〜!』

『あ、拓海も東京から帰ってきてるって言ってたよ!あいつも来るっしょ!』

『凛ちゃんも来るって!』

 画面に並ぶ、金子拓海と佐伯凛の名前。

 そして――。

『てか、倉科湊って今何やってんの?まだ地元の食品工場で段ボール折ってんのかな?ww』

『あいつ誘う?どうせ高卒のライン工じゃ、大学生の就活トークについてこれないでしょww』

 東京の大学に進学し、就職活動という名の社会の入り口に立った同級生たちの、無邪気で残酷なマウント。

 自分たちが「大学生」というブランドのモラトリアムにしがみつき、迫り来る社会の荒波に怯えているからこそ、手取り十四万の工場勤務を見下して安心したいという、浅ましい劣等感の裏返し。

「ひどい……! みんな、湊くんのことを何も知らないくせに……っ!」

 詩織が画面を握りしめ、顔を真っ赤にして怒りを露わにした。

 普段は温厚で天使のように優しい彼女が、俺を侮辱されたことに対して、本気で悔し涙を滲ませている。

「白石、怒るな」

 俺は静かに微笑み、詩織の頭にそっと手を置いた。

「見下されているうちが一番安全なんだよ。

 中学生でもわかる、大衆心理の構造だ。

 他人の肩書や属性でしか人間を測れない連中は、いざ自分のメッキが剥がれ落ちた時、一番無惨に壊れる。

 ……行こうか、同窓会」

「えっ……!? 湊くん、行くの……!?」

「ああ。逃げる理由なんて何一つない。

 ――去年の夏から丸一年。

 見栄と借金にまみれた東京組と、資本の城を築き上げた俺たちの【残酷な答え合わせの第二幕】を、その目に焼き付けてやるよ」

 ◇ ◇ ◇

 午後二十時、丘の上の九条源蔵の屋敷。

 広大なリビングの欅の一枚板テーブルの前で、源蔵は冷たい麦茶を喉へ流し込みながら、「カッカッカ!」と豪快に喉を鳴らした。

「同窓会の案内状だと! ケッ、お盆休み恒例の、亡者どもの傷の舐め合い大会じゃねえか!」

「ええ。東京の大学生たちが、就活のマウントを取りに集まるようです。

 金子拓海も、佐伯凛も顔を出すとのことでした」

「ワッハッハッ! 傑作だな湊!」

 源蔵は机をバシッと叩き、ぎょろりとした鋭い眼光を俺に向けた。

「消費者金融の借金とリボ払いで首が回らなくなり、サマーインターン全落ちで心が粉々に砕け散った小僧どもが、

 田舎の同窓会で最後の見栄を張るために集まってくるわけだ!

 いいか湊、現在のお前の戦力を見せてやれ!」

 俺はノートPCを開き、最新の資産管理スプレッドシートを源蔵に提示した。

【合同会社ミナト・キャピタル&倉科湊 資産集計】

・前回までの総純資産:15,485,720円

・エバーグリーン自社講座自動販売純利益:+428,000円

・特化ブログ3サイト日割りアフィリエイト純利益:+210,000円

・新NISA積立運用評価益(オルカン+S&P500):+116,000円

★ 確定総純資産残高:【16,239,720円(1,600万円突破!)】

「……一千六百二十三万円。

 自社教材の自動販売と特単アフィリエイトが連日キャッシュを吐き出し、資産は一千六百万を軽々と突破しました。

 月間純利益は三百三十万円ペースで完全に安定しています」

「上等だ湊!

 手取り十四万の工場勤務を装いながら、裏で資本金三百万の法人の全権を握り、月商三百万、純資産一千六百万を動かす十九歳の怪物が、

 学生気分でイキがる阿呆どもの宴席に乗り込む……!

 ケッ、これ以上痛快な見世物はこの世にねえぞ!

 ――明後日の同窓会、詩織ちゃんを連れて堂々と乗り込んでこい!

 資本主義の絶対の現実を、その冷徹な数字の刃で骨の髄まで刻み込んでやれ!」

「はい、じいさん!」

 俺の力強い返答が、静かなリビングに響き渡った。

 窓の外、夏の夜空には澄み切った天の川が広がり、遠くの街の灯りが小さく揺れていた。

 高校卒業から一年と五ヶ月。

 見栄のために借金を重ね、就職活動の入り口で現実の冷たさに震える同級生たちと――

 資本のルールを完全に掌握し、純資産一千六百万円の城を築き上げた若き社長。

 二つの世界の決定的な格差が、明後日の同窓会で、ついに白日の下に晒されようとしていた!

【現在の倉科湊ステータス】

・年齢/肩書:19歳/食品工場ライン工・合同会社ミナト・キャピタル 代表社員(純資産1,600万突破)

・総資産残高:16,239,720円(前話比:+754,000円 ※エバーグリーン自動売上+特単着金)

・月間不労/事業キャッシュフロー:+3,300,000円(特化ブログ+自社教材自動販売純利益)

・【今日の源蔵のマネー格言】:「他人の肩書を見下して安心したがる奴は、自分の市場価値の無さに怯えている臆病者だ。資本主義の勝負は、どこの大学を出たかじゃねえ。通帳に何桁の純資産を刻んだかで全てが決まるんだよ」

読んでいただきありがとうございます。

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